第5話
遠くから灰色の雨雲が、早めの速度で屋敷に向かってくるのが窓から見えた。じきに雲は森の一部を覆い隠すだろうと推測したシンシアは残り少なくなった紅茶を煽り、カップを静かに置く。そして焼き菓子を口に放り込んでいるカイルに声をかけた。
「雨が降るわよ。かなり荒れそうね」
「ん、そのようだね。でもこの速さならすぐ去るだろう、……っ!」
「どうしたの?」
軽く目を見開き立ち上がったカイルに、彼と同じく窓の外を見やる。が、風が強くなってきたことしか変わりは見つからず、小首を傾げながら視線を戻した。一向に口を開かないカイルにシンシアは待つことに決め、その姿を観察することにした。
(正反対の色彩よね。髪は太陽のように明るい色をしているけれど、瞳はまるで夜明けのように暗い色をしている。とても綺麗だわ)
くすんではおらず、透明感のある色。夕焼け色の髪は情熱的だが、灰色の眼はどこか寂しげな雰囲気があった。
「血だ。血の匂いがする。シンシア、君よりも少し下くらいの子供かな。こちらに近づいてきてる。でもどうしてここに……」
「お客様? 珍しいわね。昔は度々来ていた侵入者も今じゃ滅多に現れないから。久々だから楽しみだわ。仕掛けは正常に動くかしら」
吸血鬼の友人は遠くで香る血の匂いも判別できるらしい。歳までわかるとはと昔は驚いたものだが、元人間と純粋の吸血鬼では格が違うとカイルはシンシアに言った。自分は大体しかわからないが、本物なら全てがわかると。
「またやるつもりかい? 女の子のようだけど泣かないかな」
「そう言いつつ止めないのでしょう? 勝手に入ってきた方が悪いのよ。軽いお仕置きだと思えばいいわ」
腕がなるとシンシアは笑みを浮かべる。準備をしてくるからと部屋から出ると、丁度よく雨が降り出した。そして枝の間から見え隠れする茶色の髪の少女。深い森の中からは雲など見えなかったに違いない。突然降り出した雨から顔を腕でかばうようにしながら移動していた。
少女を見て、可哀想にとカイルは思ったがシンシアの言う『進入禁止の所に入ってきた方が悪い』というのも一理あるので止めはしなかった。何もない森の奥で暮らす彼女にとって、少ない楽しみなのだとカイルは思う。
年頃の女性のくせに友人といえば、男のカイルしかいないのだ。他の人間に対する扱いが雑でも仕方ないのだろう。あとで邪魔になりそうなティーセットを片付けようと、カイルは空になったカップに手をかけた。
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