ぜんまいの向日葵
四季 巡
ぜんまいの向日葵
白いブーケにぜんまい仕掛けの向日葵が目一杯、花開いている。どれもこれも、愛想がなくて、錆びていた。
ぜんまい仕掛けの向日葵は、この時代の象徴である。僕らは夏の日を覆う、黄色い向日葵を見たことがない。セピアインクの色褪せた写真であれば見たことがある。
この時代を色で例えるのであれば、鉄の銀色である。空は工場から漏れる黒煙に満たされていて、お天道様も拝めやしない。
汚れた空を覗ける窓、見える景色に機械仕掛けの猫がいた。四肢をつなぐ関節には大きな歯車が露出している。
尾の皮はさけ、鉄が不恰好に煌めいたいた。そんな猫に僕は、おんちゃんと名付けた。
傷ついた、壊れかけの猫は、とうの昔に病死してしまったおんちゃんに似ていたのだ。儚き思い出であろうか、過去の自分を投影して餌を与え始めた。
窓を開き、機械仕掛けの猫へと手を伸す。ぎこちない動きを見せる腕が、鉄の擦れる音と共に牙をむく。
掌に擦り傷ができた。猫の手は冷たく、作り物であることを改めて理解した。赤い血が滲む。
何度も接触すると、ゆっくりではあるが心を開き始めた。その頃には、白いブーケの向日葵は錆落ちていた。
伸ばした手に顔を擦り付けるおんちゃんの動きは、段々と歪になっていった。
夏も深まり、陽炎に街が暮れる。恋い焦がれた黄色の向日葵は、今日も鉄の銀色。僕の前に現れたおんちゃんに右腕が無かった。
左右に振れる剥き出しの歯車が、虚しくも空回りする。
僕の手が触れる。痛みは感じない。
そこから、幾度となくおんちゃんは現れたのだが、夏の終わり、葉が赤くなり始めた頃、また家族を失った。
おんちゃんは僕の眼の前で力尽きた。砂場の城が崩れるかのように。連動しあった歯車が止まった。
その日からおんちゃんは現れていない。
ぜんまいの向日葵 四季 巡 @sikimeguru
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