第5話 決着

「グオォォォォォ」



ドラゴンの炎ブレスが凶夜を包み込んだ


「うおおおおおぉぉぉぉぉ」


「キョーヤ!」


灼熱の炎は轟々と唸りを上げ、一体を火の海と化した

凄まじく恐ろしい威力だ、あんなのに飲み込まれては普通の人間であれば5秒と持たないだろう

辺りに漂う熱風が到底人間の敵(かなう)相手では無い事を物語っていた


「あ・・・ああ・・・」


余りにも無残な凶夜の末路を目の当たりにしたミールは声を上げることも出来なかった


僕を守るためにキョーヤが死んでしまった

まだ出会ったばかりで、殆(ほとんど)他人の私のために・・・

私を置いて逃げ出す事だって出来たはずなのに

それに、いざとなったら私からルークを奪って自分だけ助かることだって出来たはずなのに・・・命を投げ出してまで人を助けるなんて


キョーヤ・・・バカだよ


「ぶもおおおぉぉ」


ルークも思うところがあったのか悲痛な叫びを上げる


「グアァァァ」


ドラゴンは満足したのか、一鳴きすると翼をゆっくりと動かし始めた

恐らく飛び立とうとしているのだろう


そうだ、凶夜に助けてもらった命、なんとしても生き残らないといけない

一刻も早くこの場を離れ、村に報告しないと・・・


この隙にミールは地面に潜ろうとルークに支持を出そうと腕に力を入れる


「グァァァァァァァ」


「えっ・・・なっなに?」


ドラゴンの突然の叫び声にミールはルークに支持を出すのを思わず止めてしまう

ドラゴンをよく見ると、キラキラしたモノが首の辺りに刺さっているのが見える


次の瞬間、凶夜が居た辺り一面に透明な破片がキラキラと舞い消えていった


「キョーヤ!?」


間違いない、アレはキョーヤが使っていた魔法だ


「まさか・・・」


予想外の、しかし嬉しい出来事にミールの胸は喜びに高鳴る


一方、ドラゴンのブレスから無事に生還した凶夜はというと





「おい、トカゲ野郎・・・何逃げようとしてんだ?よくもやってくれたなぁ!あぁ?」





ミールの心配を他所に、ブチ切れていた





ーーー



ドラゴンがブレスを吐く直前


スロットを使う時間は無かったため、凶夜は1つの賭けに出た


「スロットスロットスロットスロットスロットスロットスロット・・・」


ピコンッピピコンッ


そう、凶夜は一心不乱にスロットマシンを召喚し続けたのだ

スロットマシンはそこそこの大きさと質量があるため、人を一人隠すくらいの面積は直に確保出来た

問題は耐久性、これは何とも言えなかった


以前、使った時は粉々に砕けてしまったが、ならば逆に使いさえしなければ砕けないのでは?と考えたのだ

まぁ、そもそもこれに頼るしか方法がなかったのだが、これが見事にうまくいき、凶夜は生き残る事に成功した


ブレスを受けて分かったことだが、召喚したスロットマシンは非常に頑丈で、熱にも強かった

しかも、軽いので非力な凶夜にも軽々と持ち上げる事が出来た、試しにドラゴンに投げてみたら結構なダメージがあるようだったので

もしかしたら軽いのは凶夜に対してだけなのかもしれない

そして、ブレスを防いだスロットマシンは少ししてから粉々に砕けた

どうやら一定時間でダメになる様だ


ーーー



「グアアアアァァ」


ドラゴンは体振り乱し、首に刺さったスロットマシンを振り払おうとする


凶夜が生きていた事で興奮していたミールもその光景を見て冷静になった、あのままドラゴンを行かせるべきだったんじゃないか、と

たしかに、今は凶夜が押している様にも見えるが、ドラゴンの大きさを考えると凶夜の使っている魔法は小さすぎる

いくらダメージを与えられるといっても所詮小さい傷を与える程度にしかならず致命傷には至らない

そんな事をしても、余計にドラゴンを怒らせるだけだ


「キョーヤ!もういいよ!早く逃げよう!」


ミールは必死に凶夜へ言葉を放つが


「・・・うるせぇ」


怒りが頂点に達した凶夜は周りが見えておらず、ミールの言葉は届かない

初めてドラゴンを前にした時、あんなに怯えていたのが嘘のようだ


「覚悟はいいか、クソトカゲ」


「ガァァァッ」


凶夜の言葉に答える様にドラゴンが雄たけびを上げる

ミールにはまるでドラゴンが凶夜を恐れて自身を奮い立たせるために雄たけびを上げたように見えた

あの強大なドラゴンが人間1人に怯えるなどあるはずが無いのに

不思議とミールにはそう思えた


「スロット」


ピコンッ


凶夜の前にスロットマシンが召喚される、慣れた手付きでボタンを押しレバーを倒す


ドラゴンは凶夜に向かって再度ブレスを吐く体制に入った


「遅せーんだよ」


ブレスよりも先に、凶夜は3つ目のリールのボタンを押し終わる


絵柄は十字架が3つ並び、スロットマシンのランプが激しく点滅する


<フィーバー!


機械的な音声を発したマシンは以前と違い砕けず


<ドラゴンを目標とし適正な魔法を選択します


魔法を・・・選択?


<確定!ボーナスの範囲内に殲滅可能な魔法を発見しました


どういう事だ・・・、ボーナスの範囲内?殲滅可能な魔法を発見だと?

まさか、魔法はランダムに発動する訳じゃないのか


<魔法、ホーリーレインを発動します


凶夜が意味深な発言をするマシンを不思議に思ったのも束の間、空が輝き、巨大な光の矢がドラゴンに突き刺さる


「グァアアォアォァ」


絶叫、この世のものとは思えないドラゴンの断末魔が草原を包み込んだ


<連続モード突入!


尚もマシンは音声を続ける


「ART・・・か?」


ーーーアシストリプレイタイム

リプレイ確率が大幅にアップしている状態、所謂いわゆる当たりでは無いが

連続してコインが出る状態の事を言う


マシンのボタンが光、凶夜はそれを追うように押していく


押すたびに、ドラゴンへ光の矢が落ち続け


「ガァァ・・・」


凶夜が丁度10回目のボタンを押した時、スロットは砕け、ドラゴンは息絶えた


「やっとくたばったか・・・」


「凄い・・・」


ドラゴンを1人で倒すなんて・・・聞いたことが無い、それにあの光・・・あれは魔法?ドラゴンを殲滅出来るレベルの魔法を撃つには魔術師が30人は必要だって聞いたことがある、それを1人でなんて普通じゃ無い


もはや何が何だか理解出来ないが、とりあえず助かった事は間違いない


ドラゴンを倒すという離れ業をやってのけた光景を目の当たりにしたミールは、絶対にキョーヤを敵に回すのは止めようと硬く誓うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る