《砂の街》3
買い物のおまけで貰った林檎をかじりながら、
瓦礫のような建物。強い風が吹くたび巻き起こる砂塵。午前11時、この街には夜行性の人間しか居ないのかと思うくらい、通りは閑散としている。
「睡羽、俺にも」
肩越しににゅっと腕が伸びてきて林檎を奪われる。睡羽は笑いながら振り向いた。
「おはよう、お兄ちゃん」
林檎を一口かじった
「もうすぐ星祭りだね」
睡羽の言葉に、叶哉はふと暦を思い浮かべるように指先で自分の頭をつついた。夜中心の毎日では、曜日感覚さえもおかしくなるらしい。
「ああ、もうそんな時季か。そう言われてみれば、赤い星が鋭く見える気もするな」
赤い星とは蠍座のアンタレスの事だ、と、睡羽は遠い昔に叶哉から聞いた事を思い出す。
《砂の街》では毎年、赤い蠍が夜空から世界を睨みつけるこの季節に星祭りと呼ばれる一夜限りの祝祭が催される。何処からともなくやって来た
「お兄ちゃん、今年も一緒に行こうね」
「仕事じゃなければ、な」
もう、と膨れる睡羽に意地悪な笑みを寄越すと、叶哉はコーヒーカップを手にソファに身を沈めた。
睡羽はというと、自分で拾ってきたらしいラジオの周波数を合わせようと、叶哉が教えた通りにつまみを左右に動かしている。が、何処に合わせても雑音まじりの音声が流れるだけだ。
「気にするな。ノイズがあった方が味が出るんだよ。……ああ、その局がいい。俺はこの曲が好きなんだ」
叶哉が言って、睡羽はそのままで手を止めた。聞こえてくるのは、ガサガサした雑音に乱されてはいるが、透き徹るような美しい音をした旋律だった。その音色が気に入った睡羽も、叶哉の隣に座ると、静かに瞼を下ろしその音楽に身体を委ねた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます