第3話 アルバイト

いきなり冒険者になるのも悪くないんだけど少しくらい街を見て回るか。当分の間はお世話になる場所だしな。


 街並みは中性のヨーロッパとゲーム世界を掛け合わせた感じの印象。武具屋や宿、個々の家など種類自体はそれほど多くなかった。


「そろそろいくか」


 王の話によると冒険者になるには登録が必要でそれをするのは酒場で出来るらしい。俺として手間だからあまりやりたくないけどやっておかないと犯罪に辺り運が悪ければ処刑になる。

 命は何よりも惜しいので多少の手間は我慢する。




 ーー城


「あ、お金必要なの忘れてた」

「フェナント様!」

「まあ、彼は魔王を倒したくらいだから大丈夫だろうな」

「はぁ~」



 ーー街


 酒場はすぐに見つかったので中に入ると食事をとるスペースと受付があった。それぞれに冒険者らしい人がいていい香りもただよってきたが受付を優先する。なんとか本能に勝てたようだ。


 受け付けには黒髪のショートヘアーで、垂れ目に巨乳だった。難点としては服装が結構しっかりしていて谷間などが拝めないことだ。


 くっ、こういうときは見えるのが当たり前のはずだろ。はっきり言えば何よりも大切にすべきことのはずなのに神様は順位を間違えてる。やはりエロがあるからこそいいと思う。


「あの、何かご用でしょうか?」


 あまりにも見すぎていたため聞かれた。用と言われればもう少しエロさが出る服を着てほしいと言いたいが最悪の場合ヤバイことになりかねないので普通にする。


「冒険者になりたくて」

「新規登録ですか、少々お待ちください」


 受付の人は奥の方へと向かっていった。

 戻ってくると手に一枚の紙とペンを持ちそれを俺に差し出してきた。


「では、ここに個人情報を書いていただき最初の手数料として五万ハリスの提出をお願いします」


 個人情報と金だけでいいの……ってなるかー。なんだよ聞いてねーよそれ。金いるの? どうして冒険者になるだけなのにそこまでの大金を払わなければいけないんだ。間違ってる。それと、あの王様伝え忘れてたな絶対。


「すいませんお金をためてまた来ます」

「そうですか。またのお越しを待っています」


 お金がなければなることはできないので諦めて受付を離れる。


「よお少年」


 突然声をかけられたので顔を向ける。しかし、背の高さが合わないので見上げる形になった。男は俺にある提案をしてきたのはアルバイトをするかと言う話だった。


「アルバイト?」

「おう、格安だが冒険者になるまでの金を稼ぐためなら雇ってもいいぜ」

「何で俺なんかに」

「なんとなくだな」


 なんとなくって、それで誰かを雇うとか気前よすぎだろ。けど、嘘をついてるようにも人を騙すようにも見えないし金を得る方法がなかったし甘えた方がいいか。


「やらせてもらう」

「よしきた、早速働いてもらうぜ。教えてやってくれよ。ティナ」

「分かっ……ってどうして私が教えなきゃいけないのよ。お父さんが教えればいいでしょ」

「俺は不規則だし店主はお前だろ」

「なら勝手に雇わないでよ」

「まあいいじゃねーか」

「もう」


 親子喧嘩が繰り広げられていたが終止、親の流れで進められていたのに子供の方は呆れて怒るのをやめた。

 俺に声をかけた男の人が出ていくと俺の方にティナがいかにも嫌そうな顔で近づいてきた。


「はぁ~」


 嫌な気持ちはわかるけどわざわざ目の前に来てまですることはないんじゃないだろうか。直接出てけと言われた方がまだ心に刺さるものが少ないと思う。


「名前は?」


 やや、キレぎみで聞いてきた。答えないと何をされるかわからないのでちゃんと答えることにする。もちろん普段もちゃんと答えている。


「天城光一」

「そう、じゃ早速だけど光一ゴミだししてきて」

「おう」


 キッチンに案内され裏口からごみを運び出す。ごみの集める場所は近くだったので楽だと思ったがごみが重すぎていっこうに進めない。


 重すぎる……。この重さを俺とそんなに変わらない女の子が運んでいるだと、力持ち過ぎやしないか。いや、違うか。ただ単に俺が非力すぎるってだけ。平日以外は家からでない半引きこもりだったのはよくなかったな。


 多少時間がかかってしまったがなんとか三袋のごみ袋を運び出すことが出来た。腕はパンパンである。

 裏口から戻るとまたしてもため息をつかれた。


「遅すぎでしょ。何であれくらいすぐ運べないの」

「俺は──」

「口答えはいいから」


 俺、こいつ嫌いだ。何であのいい人の娘がここまで性格悪いんだよ。と思っていると満面の笑みで接客していた。人によって変えるらしい。


「じゃ、まずは接客してくれるかしら。メニューを聞いてくるくらいできるでしょ」

「分かったよ」


 たがらなんで俺の時は雑なんだよ。泣いちゃうよ俺。そんなに心強くないんだから優しくしてほしいものだ。


 いつでも吹き出しそうな涙をこらえて接客に向かう。最初の接客する人は三人一組の面々だ。


「メニューはお決まりですか?」

「じゃ、とりあえずガポット三つな」

「かしこまりました。少々お待ちください」


「ガポット三つ」


 キッチンに聞こえる大声で伝える。


「…………」


 無視された。せっかくまともに出来たのにそれはないだろ。いや、恐らくは俺が上手く出来たのに驚いてるんだな。

 なめるなよ引きこもりだが人と話すのは得意なんだ。それに、経営ゲームで何度も接客するのはやって来た。これくらい余裕さ。


 出来たかわからないが無視されたので取りに行くと固まっていた。


「おい、ティナ固まってるなよ。客が待ってるぞ」

「うるさいわね。分かってるわよ。他の注文も早くしてよ」


 出来ても出来なくても文句を言われるのかめんどくさいな。まあ、金欲しいからやるしかないんだけど。


 その後も俺は順調に仕事をこなしていきキッチンの仕事もかなり覚えることが出来た。酒場は夜の八時までのようで時間を迎えて閉じた。

 ティナのお父さんはそれから三十分後くらいに戻ってきた。


「ただいま~」

「おかえり」

「どうだった少年やれそうか」

「もちろん。ありがとうございます」

「いいってことよ」


 ティナのお父さんは右肩に三羽の鳥を携え、左手には引きずって持ってこられた見たことない動物が二匹いた。


「狩りにいってたんですか」

「おお。そのせいで店番をティナ一人に任せちまってるんだがな。けど、出ていった客の話を聞くに結構やってくれてたみたいだから助かるぜ」

「いや~、それほどでも」


 素直に褒められるのは嬉しいな。ティナだと何をしても怒鳴られるだけだし。


「ところで宿はあるのか?」

「探さないとないですかね」

「だったら泊まってけよ。むしろ住み込みで働いてもらった方がうちとしては助かるんだがな」

「ちょ、勝手になに決めてんのよ」

「いいじゃないか。一人や二人泊まる場所あるんだし。何か困ることでもあるのか」

「別に…………」

「じゃ決まりな。部屋は上の階の一番奥の部屋を使ってくれ」

「助かります」


 心遣いで酒場の2階に泊めてもらえることになったのでとりあえず部屋を確認するために2階へ向かう。去り際に睨まれた気がしたが気にしないようにする。でないといつか心が壊れる。


 部屋を開けると人が使ってない感じがしたのにきれいに整理されていて広さも感じる。ベットはふかふかで最高の休みが取れそうだ。


 実際に体を動かして働くのは疲れたな。明日からもあるから今日も──。


 疲れが予想を上回り、自然と体がベットに倒れこんでいた。



「起きて」

「んぅ~ん。もう朝か」

「早くしてよ」

「わざわざ起こしてくれたのか」

「ただで泊まらせることになるでしょ」


 俺が起きたのを確認するとすぐに下の階へ降りていった。酒場の朝は早いらしく窓の外を見ても少し光がある程度だった。


 ベットのお陰でぐっすり眠りをとることが出来たため二度寝に陥ることもなく清々しく一階へ向かう。

 既に一階にいたティナは、机を拭いたり席を整えていたので手伝うことにする。無言で手伝ったので怒られると思ったがなにも言われなかった。


 材料の準備も完了し客が来るまで時間があるので席で休むことになった。


「どうして冒険者になりたいの?」

「…………」


 突然質問されたので固まることしかできなかった。それを無視されたと思ったのかティナは怒ってきた。


「無視しないでよ」

「いきなりだったもんで。けど、理由なんて一つしかないだろ。魔王を倒すそれだけだ」

「そう」

「なんかあったのか」

「私の兄も冒険者だったの」

「だったって」

「ええ、三年前に魔物にやられてね」


 そんな過去があるとは。けど、俺なんかにどうして話すきになったんだろ。気になる。


「似てるのよ兄に」

「俺が」

「うん。だからお父さんも雇ったんだと思う」

「それで、止めようとでも思ったのか」

「それは、」

「心配しなくても死なねーよ。あんたの兄の敵は俺がとってやる。魔王を倒すのは俺だからな」

「そんなところも兄にそっくり」


 ティナが立ち上がると人が入り始めた。話は途中で途切れた感じはしたけどあれ以上話しててもしんみりしそうだったので良かったのだろう。



 気づけばアルバイトを初めて一か月近くが経過していた。


「そろそろたまったし。光一も終わりだな」

「お世話になりました。アルファさん」

「そりゃお互い様だ」

「死なないでよ」

「それはねーって言ったろ。安心しろ」

「頑張れよ」

「ああ」


 金もためて冒険者になる準備は万端だ。早速なるとしますか。


 金の入った小袋を持ち隣の受付に向かおうとしたところで走ってきたやつにぶつかられる。勢いに押されて倒されると小袋を落としてしまった。拾おうと手を伸ばす前にぶつかってきたやつがそれをとり酒場から出ていく。


「金はもらったぜ。バーーカ」

「待ちやがれこそ泥がー」


 ここから俺とこそ泥の逃走劇が始まる。

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異世界で魔王を倒すのはゲームと変わらない @100728

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