第一章 日本語を考える

世の中に絶えてさくらの・・・

「世の中に絶えてさくらのなかりせば 春の心はのどけからまし」


 在原業平の歌です。どんなに冬が寒くても、春になると桜の花が美しく咲き乱れます。日本人は桜の花が大好きですよね。最近ではさくらの花を愛でる外国人の方も増えてきているようですが・・・。


 何故、日本人はさくらの花が好きなのでしょう。「パッと咲いてパッと散るから」という話を聞いたことがあります。戦時中は『同期の桜』のように特攻隊で散りゆく姿を美化するための例えとして桜が使われたりもしました。日本人には昔から散り際の美学のようなものが有ったのだろうと私は思っています。


 桜の花は散り際の花吹雪がまた美しいですよね。我が国の歴史を紐解くと、皆さんが良く知っている忠臣蔵のように、どうも散り際の美しさイコール死を受け入れる潔さと考えていたのではないでしょうか。


 話を本題に戻しましょう。在原業平の時代。人々はやはり桜を愛でていました。この頃から桜は、日本人に春の訪れを告げ、その美しさを愛でることのできる花だったことが良く分かります。しかし、花が咲くと一週間ほどで散ってしまう桜。


 人々は桜の花は未だ咲かないか、そろそろか、いや、まだ早いのではとソワソワし、気が気でなくなる。そして、咲けば咲いたで、もう散ってしまうのではないかと気が気でなくなる。もし、桜の木がこの世に無かったら、人々は春にこんなにもソワソワしたり、気もそぞろになったりすることはないだろうにと詠んだ歌「世の中に絶えてさくらのなかりせば 春の心はのどけからまし」という歌なのです。


 これは、私が高校生の時、古典を教えていた先生が解説してくれた内容です。最近のニュースや天気予報を見ていると、桜の開花予想だとか、「どこそこの桜が開花宣言です」なんて流しているのを見て、ふとこの歌を思い出してしまいました。なんとなく「時期が来ればちゃんと咲くんだから、騒がずにいてくれませんか」と桜の言葉が聴こえて来そうな今日この頃です。

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