第21話 別れ
朝になっても美桜が部屋に戻って来なかったので、身体が思うように動かなくてとてもしんどいけれども、一階に美桜を迎えに行った。
「おはようございます、奏さん。多分もう理解されていると思いますが、我妻聡夫です。どれぐらいの間
「えぇ、こちらこそよろしく。早速で悪いけれど、美桜ちゃんが昨晩からここで総理官邸と東京都が破壊されたってニュースをずっと見てるのよ。今は頭も働いてないでしょうけど、ここでこのまま居られるのも邪魔になるし、かと言ってどこに動かしたら良いのか分からないから、貴方が降りてくるのを待っていたんだけど。その件について引き継いでくれる?」
「えぇ、そのつもりでも来ましたから。それで、情報を一応貰えませんか?ケータイで確認をしましたが、出来ればテレビの方の報道も聞いときたいですし」
「いいわ。美桜ちゃんを運びながら教えてあげる」
「そこまで考えて下さって、ありがとうございます。流石、我妻家で天才と言われただけはありますね」
「そんな事ないわ。貴方の方が天才よ」
「そうですか」
「えぇ」
奏さんと協力関係を築いて、情報を貰いながら美桜を僕が目覚めた部屋に運んでもらった。
「美桜、いつまでそうして拗ねるつもりですか?奏さんにも心配と迷惑をかけて。流石に怒りますよ?」
僕は滅多に怒ることはないですが、度が過ぎると怒ることもある。
「……お兄ちゃんは悲しくないの?」
「これっぽっちも悲しくも悔しくも辛くもありませんよ?」
そう答えると、とてもショックなのか、目を大きく広げ、僕を敵視し始めた。
「お兄ちゃん……なんで……?お兄ちゃんはもう覚えてないかもしれないけれど、親だよ……?私達を産んでくれた血の繋がっている実の親だよ……?それなのに、どうしてそこまで非情なの……?」
そう言われて、少し呆れた。言っている事は全く間違えてはいない上に、正論なので、余計に呆れ、少しイラッとした。
「非情ですか……そう取られても仕方がないですね。なんせ、全てを随分前に知っていて、確証も裏も取れている事実を知っていて、そのやった事を考えると、こうもなりますよ。それとも、それでも何か問題がありますか?」
(美桜は何も知らなかった。ですが、もうそんな甘えた事は言ってられない状況になってます。なので、僕も非情になりますよ)
「そんな僕と一緒に生きますか?それとも、僕か貴女がここを出て行って、今後我妻聡夫と我妻美桜の一切の接触を禁じますか?」
(貴女がどちらを答えるのかは、もう分かってます)
「さぁ、どっちですか!?」
(僕と共に来なさい)
「……」
返ってきたのは、驚き、侮蔑、迷い、憎悪の顔と無言だけだった。それでも、僕は今美桜に対して嫌な人間であらなくてはならない。
「迷っているなら、いい事を教えましょう。僕と共に来るなら、答えられる範囲で全て教えましょう。その代わり、別れるなら、1つ僕から教えましょう」
(これで決まったでしょう。昔から変わらないなら)
美桜は答えを決めかねている。いくら良い条件を出されても、簡単に共に生きるとは言えない。それは、美桜が人間であり、感情があり、成長しているからだ。美桜も馬鹿ではないから、どちらの方が有利な条件か分かっている。それでも、美桜は迷う。全てを知る代わりに、誇りや家族を否定されながら生きていくか、一つだけ教えてもらい、一人生きていくか。昔の美桜なら、前者を即答していた。だけど、人は成長する。
「お兄ちゃんはさ、私が成長してないと思っているの?」
「……」
今度は聡夫が黙る。
「やっぱりそうなんだね。そう思ってるから、否定できない。だから、お兄ちゃんの中では、もう答えは決まっている。違う?」
「……」
美桜は徐々にイライラ度が上昇している。
「バッカみたい!!私も、お兄ちゃんも!!本当にバカだよ!!」
甘く見られている自分が嫌になる。そう見るお兄ちゃんが嫌になる。
「そんな風に見られている人に、付いていくと思う?お兄ちゃんなら、分かるよね?」
本当にバカバカしい。
「じゃあ、決別しようか。お金はお兄ちゃん6:私4で分けるから。銀行で下ろして、午後にはここを発つから」
この選択が、正しいのか分からない。けれども、一緒に生きるのは私の生き方に反する。だから、敢えて決別を選択する。
「さようなら」
「……分かりました。最後です。約束通り、いい事を教えましょう。母は健在です。ですが、見つけられる事は出来ないでしょう。それと、もし剣君に永遠に変われば、電話するように、手紙を残しておきます。そこからどうするかは、貴女が決めなさい。それでは、本当にありがとうございました。お元気で。さようなら」
お兄ちゃんからそれだけの事を聞いて、私は銀行に向かった。
「残念です。ですが、これも世の常。仕方がないですね。ですが、美桜はこれから大変でしょう。まぁ、もう関係のないことですが」
僕はそれだけを呟いて、これからの事を考え始めた。
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