第20話 覚醒・絶望
家に帰って、お兄ちゃんの事も私の事も全部終わらせると、私は深い眠りに落ちていった。
『美桜、ごめんなさいね。貴女には本当に迷惑ばかりかけてしまって。本当に反省してる。だから、最後の迷惑も許してくれるか分からないけれど、許してほしい。それと、聡夫の事をお願いね』
(え?何言ってるの?お母様?お母さん?お母さん!?)
『貴女は奏から聞いてすぐに知る事になると思うわ。もっと貴女に言いたい事があるけれど、時間みたいね。本当にごめんなさいね。それじゃあ、ね。さようなら。元気でやるのよ』
(ねぇ!!意味が分からないよ!!教えて!!どういう事!?教えてよ!!お母さん!!)
私がいくら声を出してもお母さんに声が届くこともなく、お母さんも見えなくなった。嫌な予感がする。寝てる場合じゃないよね。やっぱり、奏さんに相談しないと!!
「……桜……さい!!美桜!!……っかりしてください!!美桜!!」
懐かしい声と呼び方が頭の中で響く。その懐かしい方に向かっていくと、目の前には、私の事を心配する様な顔で私を覗くお兄ちゃんがいる。
「起きましたか。良かったです。なんせうなされていましたから」
「お兄ちゃん……?」
いや、この話し方は……
「お兄……様……!!」
私はあまりの嬉しさについ目から涙が零れた。
「起きたのですね……お兄様……!!」
「その呼び方をやめてくださいと何度も言ってるでしょう。『お兄ちゃん』でいいと言ってるでしょう。ホント、変わりませんね」
お兄ちゃんは優しく微笑んで言った。それが懐かしく思えて素直に嬉しい反面、剣お兄ちゃんの事を心配している私もいる。
0時を少し回ってから、私達は質疑応答に入った。
「美桜、ここは貴女の部屋じゃありませんよね?なのに何故貴女の部屋の内装にこんなに似ているのですか?」
「あぁ、それはこの家の奏さんにこの部屋を貸してもらって、自由に使っていいと言われたからですよ。万が一、お兄様が起きた時に見知らぬ場所よりも見知っている場所の方が混乱しないで済むと思いまして。問題でもありましたか?」
「いえ。きちんと感謝の言葉を伝えたのなら、問題はありませんよ。むしろ感謝しています。本当にありがとうございます。それと『お兄ちゃん』でいいんですよ」
感謝の言葉をと言い、きちんと感謝する所と言い『お兄ちゃん』呼びをもう1度する所と言い、全く昔から変わらない。
「分かりました。お兄ちゃん。これでいいんですね?」
「昔みたいに言葉も崩して甘えてきてもいいんですよ?」
「そんな事はありませんでした。嘘を言わないでください」
「嘘だなんて。やはり、
「お兄ちゃん。なんで剣お兄ちゃんの事を知っているのですか?」
私は強くお兄ちゃんに尋ねた。場合によっては、仏さんの報告漏れになりかねないからだ。
「そう怖い顔をしないでください。せっかくの可愛い顔が台無しになりますよ?」
「話をそらそうとしないでください」
照れ臭い事を言ってきたお兄ちゃんを軽くあしらって、先を促す。
「少し分かりづらいかも知れませんが、いいでしょう」
前置きを置いて話してくれた。
「僕はスクリーンがある小さい部屋のような場所で過ごしていました。剣君が見たものは全てスクリーンに写り、聴覚は共有されて、思考は勝手に頭に入って来ました。味覚や触覚などは分かりませんでしたから、とても楽しみですね。まぁ、そういう訳ですから、ある程度の事は分かりますよ」
「そうなんですね。だから、剣お兄ちゃんに嫉妬していると」
私は少し意地悪に聞いてみると、お兄ちゃんは
「えぇ、そうですね。嫉妬しています。とても」
と答えたのは少し驚いた。
「だからこういう風な砕けた話し方を求めてたって。理由がしょうもないよお兄ちゃん?」
「すみません」
「分かればよし」
こうして、お兄ちゃんの願いは叶えられた。
閑話休題
「それじゃあ、あの時の犯人を知っているの?」
「確か僕宛の手紙があるはずです。それを読んでから再考して見るつもりですね。」
つまり、もう固まりかけているのだろう。流石と言いざるを得ない。
「と言っても時効ですけれども」
「それでも考えるって流石お兄ちゃんだね」
「それでは、手紙を読むので、少し席を外してもらえませんか?奏さんに用事があるのでしょう?」
私はハッとして、奏さんの元に向かった。
「
そう言って、僕は
「奏さん!!母が!!母が!!」
「落ち着きなさい!!一体どうしたのよって聞くのは野暮かしらね。こっちにいらっしゃい」
奏さんは慌てて五月蝿い私を一喝して、私をこっちに来るように促した。
奏さんは私にテレビを見せその内容に私は驚愕した。その内容が
「総理官邸が消滅……それに伴い東京、千葉の西半分も壊滅状態って……一体どういう事ですか!?」
全く訳が分からなかった。何でこんな事になっているのか。なんで東京が壊滅状態にあるのか。
「ごめんなさい。それは分からないわ。ただね、これだけは分かる」
一呼吸置いて、奏さんは重々しく、
「我妻家はもう諦めた方がいい」
と答えた。私にとって、我妻家繁栄は興味の無いことだけど、家族としての意味なら、それは重いものだったのと同時に、あの夢の意味が少しわかった気がした。つまりもう、
「母は死んだ……と?」
奏さんはうんともすんとも言わない代わりに、目を伏せ、それが答えと言わんばかりの空気を醸し出していた。
それを感じ取った私は、膝を付き、手を付き動けなくなり、絶望しながら目から大量の涙が流れているのに気付いた。
その日の朝、私は国家存亡危機のテロの内容を知って更に絶望した。19の国際機関と日本の総理官邸を含む東京の破壊。この出来事は、世界の動きを止めるのに充分で、日本は存在すら危うい状況になっていた。それもそのはずで、お偉いさん達の殆どが東京に居てその人たちは今回のテロに巻き込まれていた。
この日、日本の機能はほぼほぼ失われ、世界も危機に陥った。
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