第19話 祭り
午前10時頃、家に私宛のたくさんの荷物が届いた。主には我妻家からのもので、その他は昨日買った物ぐらいだけど。
荷物の確認をしてから領収書にサインをして、業者さんには帰ってもらった。ここからは、私のテリトリーだ。
「さてと。それじゃあ、準備開始しますか。目標は2時間で完了ってことで」
目標を立てて自分に言い聞かせてから、私は作業を開始した。
かかった時間は、目標よりも30分ほど早く終わり、夕方に備えた。
集合時間の1時間をきるかどうかの頃合いに私はお兄ちゃんを連れて、秋刀魚公園に向かった。
今回の目的は、沙奈江さんにお兄ちゃんを見せて、少しでも罪を認識してもらった上であわよくば記憶が戻るのを狙っている。もちろん、私自身祭りに行くのは初めてだから、楽しみではあるけど。
秋刀魚公園に近づくにつれて、人は徐々に増えていき、車椅子で来ている私達が邪魔なんじゃないかって思ったけれど、そこはあまり気にすることはなかった。そこまで人が多い訳でもないのが大きな理由だと思う。多分、奏さんが言っていた枕太鼓に行っているんだろうけど。
そんな中で、一人明らか不自然に周りをキョロキョロしていて、周りから変な目で見られている人がいる。予想はつくと思うけど、沙奈江さん本人だ。まだ集合時間15分前なのにもう来ているのは感心できるけど、その挙動不審な態度をどうにかして欲しいから、非常に声をかけづらい。とてもじゃないけど、仲間とは思われたくないし。ましてや、沙奈江さんの飼い主とは絶対に思われたくない。というか、私の感心を返してほしい。
閑話休題。
ほっておくのも可哀想なので、少し嫌そうにかつ結構な勇気を出して、声をかける。
「こんにちは、沙奈江さん。覚えてますよね?なんせ、昨日買い物中にたまたま出会って『ゲッ』って言ったぐらいですからね」
「こ、こんにちは。ももももちろん覚えてますよ」
と、沙奈江さんは強ばった
「それで、この人が私のお兄ちゃんなんですけれど、見覚えは?」
沙奈江さんは真剣な表情でお兄ちゃんの足元から頭までじーっと見て、腕を組んで少し唸ってから、こう答えた。
「なんとなく覚えがある気はしますが、分からないです」
「あっそ」
期待してなかったからいいけど、覚えがある気がするだけまだよしでしょ。
「名前を聞けば思い出すかもしれないので、教えてくれますか?」
「坂之上剣」
ぶっきらぼうに答えると、確かに沙奈江さんの顔色が変わった。
「坂之上……剣……あれ……なにこれ……?何この映像……!?」
「何言ってるんですか!?何が見えてるんですか!!??」
「見たことがない家……なのになにか懐かしくて……剣君ってこの少年を呼んでいる私……沙っちゃんってこの少年に呼ばれてる私……」
仏さんから聞いたことがあって、実際お兄ちゃんがそう呼び呼ばれていた。完全に消されたはずの記憶。
「他には!?」
「この公園の湖でデートしている私……この少年が好きな私……ダメ!!それはダメ!!」
「どうしたんですか!?何があったんですか!?」
そう聞いても、返事はしてもらえず、その映像はもう見えなくなったのか、ぐったりしている。
「取り敢えず、ベンチに座りましょうか」
沙奈江さんにそう促し、私達は近くにあったベンチに座った。
だけど、私は後悔した。変に問い詰めた事を。
「さっき、貴女が見た映像は、貴女が忘れている記憶です」
沙奈江さんが落ち着いて、開口一番に沙奈江さんに告げた。
「アレが……私の……?」
やっぱり、覚えているわけでもなく、ましてや、認めたくなさそうなので、少し意地悪なことを言って自覚させる。
「それ以外に何があるんですか?貴女は他人の記憶でも覗けるんですか?」
「そう……だよね……そんな超能力使えないから……そうなんだろうね……」
「まぁ、他人の記憶だからってお兄ちゃんの事を思い出せるわけないから」
もちろん、その時も沙奈江さんは認めないだろうけど。
「私の罪……剣さんを忘れた事ですか……?」
「間違えてはいないけど、満点の答えじゃない。多分、全部思い出さないと、分からないから」
やっぱり、私はどの沙奈江さんも嫌いなようだと自分に悪態を吐く。
「それじゃあ、せっかくの祭りですし、遊びましょうか。枕太鼓が帰ってきて、人が多くなりすぎる前までですけど」
「そうですね。そうしましょうか」
私の提案に沙奈江さんも了承して、私達は出店を回り始めた。
初めての祭りは楽しく、とても思い出に残り、とても有意義な時間になった。
金魚掬いでは、残っている金魚を全てポイを破かず掬い、周りから感嘆の声が漏れたり、射的では、欲しいものの的全て落とすは、奇跡的に2枚同時に落ちるはでまた周りから感嘆の声が漏れ、ひもくじでは、1発で特賞の景品を当てたり、型抜きでは、一番難しいのを残っているのを全て抜き切り、はたまた周りから感嘆の声が漏れ、投資額の何十倍とペイバックしたりしていると、どこからも出禁を食らってしまった。
なので、名残惜しいが、種類が豊富な食べ物ゾーンでからあげや、ベビーカステラ、イカ焼きにたこ焼きなどなどを美味しく食べ、祭りの才能あるすごいカワイイ子が食べているとか噂が広まり、店の収益に少し貢献したりと、とても充実して楽しかった。
だけど、お兄ちゃんと本当の意味で一緒じゃなかったのがとても辛く、こっそりトイレで泣いてしまった。もしと考えないようにしようとしても、もしと考えてしまう。もし、お兄ちゃんと一緒に来れていればとか。
そんな事をしていると、枕太鼓が帰ってきたので、近くに行って、見学してから、人が多くなっているし、邪魔になるからという事で宮入を見ず解散という事になった。
「お兄ちゃん、今日は楽しかった?」
帰り道、お兄ちゃんに聞いてみるけど、返事は全くなかった。
「そっか。帰ったら、すぐご飯にするから、待っててね」
さっきとの温度差で虚しくて、泣きそうになったけど、我慢して家に帰った。
だけど、この時の私は全く気付いてなかった。まさか、あんな事が起こるとは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます