ライバル

 学校に着いたあたしは急ぎ足で掲示板に向かった。

 今日はテストの順位が発表される日。

 今まではずっと二位だった。友達や先生、両親はすごい、って褒めてくれる。

 けど、二位だなんて、あたしのプライドが許さない!

 あたしはずっと、毎日、必死に勉強してきた。それでも、ガリ勉とかそんな風に思われたくなくて、周りの子に合わせてメイクとか、ファッションにも気を使ってる。

 なのに、ずっと一位に居座るあの女。ノーメイク、校則通りのダサい着こなし。それで地味で、クラスでも目立たないような存在だったら、あたしだって、許すわよ!

 でも、明るくて、誰かが困ってたら誰よりも先に助けようとする。

 さらに!ノーメイクのくせに可愛いとかなんなの!?あたしなんて、メイクしてようやくなんだよ!?すっぴんで出歩くなんて絶対無理!

 なのに……。あぁ、考えるだけでムカついてきた。

 でも、それも今日で終わり。だって、今日、あたしが一位になるはずなんだから!

 皆、今回のテストは難しいって言ってた。実際、平均点もいつもより低いし。

 そんな中、あたしは全教科の平均99点!ふふっ、これは勝ち間違いなしよね?


 掲示板を見上げると、すでに順位表が張り出されていた。

 先生たち、仕事が早いじゃない。優秀ね。

 文系、理系で科目数は違うけれど、これは、全体の順位。だから、全科目の平均点で順位がつけられている。

 あたしは逸る気持ちを抑えて、目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をした。

「あ、すみちゃん、おめでとう!」

 その声に振り返ると同じクラスの友達(赤点ギリギリ)がいた。

 おめでとう、と言うことは、やっぱり!

「ありがとう」

 お礼を言って掲示板を見る。そこには、


 一位 高坂 澄香


 の文字が。

 ……え?どういうこと?あたしの名前を探す。いや、探すまでもない。いつも通りの二位にあたしの名前、の文字があった……。

 横に書いてある点数を見る。間違ってない。99点。

 じゃぁ、あいつは?あの女は?見ると、100点。

 何?全教科満点だったの?あり得ない……。今度こそ勝ったと思ったのに……。

 悔しくて、勝った気になっていた自分がバカみたいで涙が出そうになった。


「あ、早坂さん、おはよう」


 その声で分かる。高坂澄香だ。

「一位様があたしに何か用?」

 自分の中の黒い感情を抑えることなく、言い放った。

「順位が張り出されてるから、わたしも見に来たら、早坂さんがいたから挨拶したんだけど、何か怒らせちゃった……?」

 何よ、こんなの見なくったって、あんたは一位だって分かってんでしょ?あたしをからかいに来たの?本当、ウザい!

「うるさい……」

「え?」

「うるさいって言ってんの!あんたに、あんたなんかにあたしの気持ちが分かるわけない!」

 感情のままに口走ったら、もう、限界だった。涙があふれでてきた。

 あたしはその場を走り去って、トイレに駆け込んだ。



 勝てない……。

 容姿、成績、人望、運動……。

 全部、あいつの方が上。せめて、勉強くらいではあいつに勝ちたかった……。なのに……。

 あたしは誰かいるかも、とは考えず、声をあげて泣いた。

「早坂さん、その、ごめんね」

 声が聞こえる。あいつだ。

 あたしを笑いに来た?違う。そんなことするようなやつじゃない。心配して、来たんだ……。

「いつも早坂さんが頑張ってるの、わたしは知ってるよ。だから、わたしも負けないように,って頑張れる」

 何?違うでしょ?あんたは、あたしと違ってそんな頑張らなくても……。

「わたし、きっと、自覚ないまま早坂さんを傷つけてたんだよね?本当にごめんなさい。その、一言謝りたかっただけだから。その、早坂さんが迷惑なら、これからは関わらないようにするから。それじゃ、わたし、行くね?」

 ドアの向こうで足音が遠ざかる。あたしは……


「待って!」


 勢いよくドアを開けて引き止めた。あいつは振り返って、近付いてくる。

「そんな、泣くほど悔しいってことは、きっと、すごい、頑張ったんだよね?なのに……。やっぱり、わたし、無神経だったね……。ごめんね」

 その言葉でまた、涙が出てきた。

 違う……。あたしが、本当に欲しかったものは……。

「あたしはただ、あんたに認めて欲しかっただけ!何だってあんたの方がうまくやれる!だから、皆に好かれようって偽りの仮面被ってた!でも、無理だった!だから、今度は勉強を、って……。これで勝てたら気持ち伝えよう,って……」

「気持ち……?」

「あたしは、あんたのことが好きなの!最初は何でもうまくやって、ムカつく、って思ってた。でも、気付いたらあんたのことを目で追ってた。次第にあんたのことばっか考えるようになってた。好きに、なってたのよ……」

 言うつもりなんてなかったのに、気付けば、全て言ってしまっていた。

 気味悪がられる、よね……。女同士なんだし……。

 勝てたら、なんて言うけど、勝てないって分かってたから……。

「わたし、メイクどんなに練習してもうまくできないんだ。だから、いつもビシッと決めてる早坂さんのこと、憧れてたんだよ。それで、自然と目で追ってたら、頑張り屋なこと知って、それで、わたしも好きになってた……。わたしたち、両思いだったんだね」

 そう言って、わたしは抱き寄せられた。

 あたしは大好きな人の胸で思いっきり泣いた。

 その涙がどんな涙なのか分からないまま。

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