雨の日に
雨が降る中、二人の少女、沙苗と明日香は一つの傘をさして歩いていた。傘はそれほど大きいわけでもなく、二人の肩は少し濡れていた。
「ねぇ、沙苗。もう少し近くに行ってもいい?」
「え?う、うん。いいよ」
ただでさえ近かった距離、それがさらに縮まったことで沙苗の顔は赤く染まっていた。しかし、明日香はそれを気にもせず、傘を持つ沙苗の左腕に抱きついた。
「え?明日香、ちゃん?な、何?」
「こうすれば、濡れないでしょ?ほら、沙苗も肩、ちょっと濡れてるじゃん」
「そ、そうだけど……。でも、その、は、恥ずかしい……」
沙苗は表情を隠すように俯いてしまう。明日香はその表情を覗きこむと、自然と頬が綻んだ。
「沙苗、顔真っ赤で可愛い」
「そ、そんなこと、ないよ……。その、明日香、ちゃんの方が、その、か、可愛いよ?」
「えぇ、なんでそこで疑問系なの?あ!自分の方が本当は可愛い、とか思ってんでしょ?」
「ち、違うよ!本当に明日香ちゃんの方が可愛いって思ってるよ!」
「じゃぁ、なんで疑問系だったの?」
明日香は意地悪い笑みを浮かべながら聞いた。沙苗は視線を泳がせ、心の内がバレないように必死に冷静を保とうとしながら答えた。
「そ、その、なんだか恥ずかしくない?可愛いとか言うの」
「えぇ、そんなことないよ。あ、もしかして、沙苗、わたしのこと、好きとか?ま、そんなことないか」
その言葉で沙苗の動揺は大きくなった。実際、沙苗は明日香のことが好きだった。恋していた。だから、沙苗はそれに対して何も答えられなかった。どう答えても自分の望む未来には繋がらない、そう分かっていたから。
しかし、その沈黙が明日香に真実を気付かせることになった。
「あの、もしかして、マジ?」
何が、とははっきりとは言わないが、沙苗にもそれは通じた。そして、小さく、それでも確かに頷いた。
「そっかぁ、そうなんだ」
明日香は小さく呟くと、その場に立ち止まった。沙苗は数歩進んでそれに気付いた。振り返り、明日香の前まで戻り、傘に入れてあげた。
「明日香、ちゃん、どうしたの?」
不安げに聞く沙苗の目を見て、小さく息を整えると、満面の笑みを浮かべた。
「あのね、実はわたしも沙苗のこと、好きなんだ。その、だから、これからは友達じゃなくて、付き合わない?」
「え?」
沙苗は言われたことが一瞬、理解できなかった。しかし、理解したとたん、嬉しさで涙が溢れてきた。
「えぇ、泣くことないじゃん。嫌なの?」
明日香が冗談半分でそう言うと、沙苗は何度も首を横に振った。
「嫌な、わけない。だって、わたし、そんな風に思われてるなんて思わなくて……。だから、嬉しくて……」
「そっか。嬉しいんだ。わたしも、だよ?」
明日香はそう言って沙苗を優しく抱き締めた。
「明日香ちゃん、大好き」
「うん、わたしも」
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