魔法のお茶

 魔法国家で知られているここ、ヤパーン王国でも由緒ある魔法貴族のブロッサム家。わたし、ルカはメイドとして一人娘のリリィお嬢様のお世話をしています。

 過去、ブロッサム家は数多くの大魔法使いが生まれてきました。その中でもリリィお嬢様は歴代最高と噂されるほどの才能の持ち主。去年行われた王主催の魔法試合の大会では過去最年少の15歳で優勝したほど。とは言いましても、城に仕える魔法騎士たちは出場していないので、王国最高の魔法使い、とはまだ言えないんですけれど。

 そして、わたしはそんなお嬢様に頼まれてお茶をいれたところでした。しかし、気付けば肝心のお嬢様の姿が見当たりません。

 部屋の中を見渡すと、先程は閉じていた窓が開いていたのです。そこから外に出たのかな、と思い、外に向かってわたしは呼び掛けることにしました。

「お嬢様、お茶の準備ができましたよ」

 すると、上からお嬢様がいらっしゃいました。どうやら、飛行魔法を使って散歩をなさっていたようです。

「あら、早かったのね。もう少し散歩していたかったのだけれど」

「あ、そ、それは失礼いたしました」

「いいのよ。ルカがいれてくれるお茶は美味しいんだもの。さぁ、冷めないうちに頂きましょう」

 そう仰って、お嬢様は椅子に座られました。そのお姿は優雅で、思わずわたし、見とれてしまいました。

「ほら、ルカも立ってないで、座りなさい。一人で頂くより二人の方が美味しいでしょ」

「は、はい。失礼します」

 お嬢様の許可のもと、同席させていただくことになりました。わたしはかつて感じたことのない幸せを感じてしまいました。あぁ、このまま時間が止まってしまえばいいのに、などとつい考えてしまうほどに。

「あら、このお茶、魔法がかかってるわね」

 カップを手に取り、口をつけようとしたそのとき、お嬢様がそう仰いました。わたしは、背中に嫌な汗が流れるのを感じました。このお茶はわたしが用意したもの。つまり、その魔法もわたしが準備したものなのです。いえ、もちろん、お嬢様に危害を加えるような魔法ではありません。しかし、お嬢様に魔法をかけようとした、そのことが旦那様や奥様に知られてもしたら……。

 わたしのそんな心配など知らないかのようにお嬢様は魔力を込めた手をお茶に向けました。すると、お茶がほのかに光り、霧散しました。

「あ、あの、お嬢様、その、これは……」

 わたしは弁解しようとして口を開きました。しかし、お嬢様はうなずき、わたしに微笑んでくれたのです。

「分かってるわよ。ルカがわたしに変な魔法をかけないってことくらい。でも、さっきの感覚は精神系、よね?はっきりとは分からなかったけれど、魅了?でも、それに必要な魔草は高価で貴族にしか手に入れることはできなかったはず。お父様には秘密にするから、一体何の魔法なのか教えてくれる?」

 お嬢様はわたしが魔法の才能が全くないことも知っておられます。だから、不思議なのでしょう。魔法解除の際、メイドであるわたしが手に入れることのできない魅了の魔草と似た効果の反応をしたのですから。

「それは、お嬢様の仰った通り、魅了、です。その、お嬢様はご存知ないかもしれませんが、複数の魔草を合わせることで同じ効果を出すものがあるんです。あの、本当にすみませんでした」

「いいのよ。わたしはルカを信用してるもの。例え、わたしが気付かなかったとしても大事にはならなかったでしょ?それに、わたしの知らない魔草のことを教えてもらえたんだから」

「でも……」

「それともう一つ。わたしに魅了の魔法なんて意味ないわよ?だって、ずっと前からわたしはルカのこと、好きなんだから。これからもずっと、一緒にいてくれるわよね?」

「は、はい!」

 お嬢様もわたしと同じ気持ちだったなんて、嬉しくて嬉しくて、涙が出てきそうになってしまいました。でも、そんな姿をお嬢様に見られたくなくて、わたしはお茶を飲みながら顔を隠しました。


 あれ?そう言えば、お嬢様は自分のカップにだけ魔法解除をしていたような……。そして、魔草はティーポットの中。つまり、わたしが今飲んだのは……。

「お嬢様、愛してます!」

 わたしの意思を無視して、お嬢様に愛を伝え、抱きついてしまいました。

「わたしもよ、ルカ」

 お嬢様もわたしを抱き締めてくれました。あぁ、わたし、このまま死んでも後悔はありません。

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