嫉妬と猫と

 友美は自宅のリビングで複雑な感情でいた。今、好きな者たちに囲まれている。

 愛猫のミュウ、密かに想いを寄せている少女の愛菜。

 それだけ見れば幸せを感じているはずである。にもかかわらず、それとは真逆の感情を抱いていた。

(何で、愛菜ちゃんはミュウばっかり可愛がるの?わたしは?ねぇ、わたしを見てよ!)

 そう、友美は嫉妬していた、自らの愛猫に。

「ねぇ、愛菜ちゃん」

「ミュウちゃん、可愛いね」

 話しかけてもミュウのことばかりで自分のことを見てくれない。ミュウも愛菜に遊んでもらって、いつもより幸せそうに見えた。

(わたしの、わたしの愛菜ちゃんが取られちゃう!何とかしなきゃ!)

 二人(正確には一人と一匹)にはそんなつもりはなかったが、友美はそう感じ、焦った。そして、彼女は自室に戻り、急いであるものを持ってリビングに戻ってきた。

 ミュウは愛菜の膝の上で気持ち良さそうにしていた。

(愛菜ちゃんの膝枕!わたしだってしてもらったことないのに!ミュウのバカ!)

「愛菜ちゃん、わたしにも構ってよぅ」

「えぇ、今、ミュウちゃんと遊んでるのに。友美とは学校でも一緒じゃん」

 友美の方に目を向けることなく愛奈は言った。

 友美の嫉妬の炎は限界まで燃え上がった。その結果、溺愛しているミュウに殺意のこもった視線を向けていた。

 飼われている、と言っても野生の勘が働くのか、ミュウはそれを敏感に感じ取ったのか、愛菜の膝から下りると、足早にリビングから立ち去った。

「あぁ…、行っちゃった」

 残念そうに呟く愛菜とは対称に、友美の顔は自然と綻んだ。

 そして、手にしていた猫耳カチューシャを装備すると、ミュウが今までいた愛菜の膝の上に頭を乗せた。

「愛菜ちゃん、今度はわたしと遊んでほしい、にゃん」

「ぷっ、何それ?」

 友美の突然の奇行(?)に思わず愛奈は笑ってしまった。しかし、友美はその笑顔を見ただけで幸せを感じることができた。そして、自分の行動が後から振り返ると恥ずかしいものであることなど想像することもなく、猫のふりを続けた。

「ダメかにゃん?」

「ん~、今度の猫はすごい甘えたがりだね。でも、可愛いから、遊んであげる」

「やったにゃん。嬉しいにゃん」

 そう言って、腰に手を回し、抱きついた。

(愛菜ちゃんの太もも、柔らかくて気持ちいい!ずっと、こうしていたい、にゃん)

 愛奈は優しく友美の頭を撫でていた。そこに込められている感情は友愛なのか、愛情なのか、それとも、動物に対するものなのか。

 愛奈はそれを心の奥底に封印した。

(そんなことされたら、わたし……)

 愛菜の顔は赤く染まっていた。

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