うたた寝

「お疲れさまでした」

 部活が終わり、少女たちは着替えを済ませたあと、散り散りに帰っていった。ある者は一人で、また別の者は友人たちと一緒に。

 大会が近いこともあり、練習は厳しかったが、若さゆえなのか、少女たちの表情に疲れはそれほど見られなかった。

 そんな中、中学時代からの知り合いである二人も一緒に帰り、駅で電車を待っていた。。

「本当、最近大変だよね」

「うん、でも、奈々はいいじゃん。レギュラーになれそうなんでしょ?わたしなんて……」

「なれるかどうかは分かんないけど、頑張るつもり。ユキだって、最近は調子いいんじゃない?」

「そうかな?自分ではよく分かんない。練習についていくので必死だし」

 実際、奈々と呼ばれた少女は本人にはまだ伝えられていないが、レギュラーに内定している。そして、ユキは入部当初はついていくことさえできなかったが、今は他の部員と同様のメニューを行っている。それどころか、未経験者の中では最も成長した一人でもあった。経験者でもある奈々はそんな成長を自分のことのように嬉しく思っていた。

 そんな他愛ない会話をしていると、ホームに電車がやって来た。

 電車に乗り込むと、偶然、席が二人が座れるように空いていたので、二人で座った。

「今日は運、いいね。いつも、奈々に立ってもらっちゃってるし」

「いいの。ユキはまだ慣れてないんだし、休んだ方がいいよ」

「ありがと」

 ユキは微笑むが、その表情はややうつろだった。

 それも仕方がない。ユキは高校に入るまで運動らしい運動は体育の授業以外ではしたことがなかった。そんな彼女が運動部に入ったのは、自分を変えるためだった。特に何かがあったわけではない。思春期にありがちなそういう感情からだった。

 それでも、彼女は自分なりに精一杯頑張っている。奈々はその事をよく知っていた。

「ユキ、疲れてる?無理してない?最近、ハードだし、辛かったら少しくらい休んでも…」

 奈々が気遣うように話していると、不意に肩にユキが寄りかかってきた。横を見ると、瞳を閉じ、安らかな寝息をたてていた。

(そうだよね、疲れてるのは当たり前だよね。駅に着くまで、ゆっくり休ませてあげよう)

 奈々は大切な友人の頑張りを思い、自分も瞳を閉じた。


 気付くと、自分達が降りる駅に到着していた。いつの間にか自分も寝ていたことに慌てた奈々はユキを起こした。

「ユキ、駅着いたよ。起きて」

「え?あ、ご、ごめんね」

 慌てて電車を降りようとするが、その寸前、ドアは無情にも閉じられた。

 その瞬間、そこが電車の中であることも忘れ、二人は声をあげ笑いだした。

「ははははは。あぁ、ごめんね、ユキ」

「え、何が?」

「あぁ、うん、本当は駅に着いたら起こすつもりだったんだ。でも、気付いたらわたしも寝ちゃってたから」

「そうなんだ。じゃぁ、奈々が悪いね」

「本当、そうだね」


 二人は部活の疲れなどすでにないかのように楽しく話し、次の駅で折り返して帰っていった。

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