第8話
8
脳裏によぎった思いの通り、わたしは本気で怒ることとなった。もちろん、すぐに我に返って謝ることができたのだけど。
わたしの影がない。
姫乃は会ったときに疑問に思ったが気のせいだと割り切り、わたしが未来と電話をしている時に確信に変わったという。
わたしが怒ったのは、その情報を聞いた瞬間に頭をぐるぐると回っていたいくつもの仮説や思考が全部吹っ飛び、一つの答えにたどり着いたからであった。
そう、ここからは、連想ゲームだった。
わたしの影がない。
光と影。表と裏。
わたしの、裏がない。
抱えていたはずの、闇がない。
あのクジラがわたしにしか見えなかったのは、わたしに霊感があるからだとか、満天水族館と縁があるからとかではない。
わたしが生み出した、わたしの心の怪物だったからだ。
わたしはクジラが出て来たときを真剣に考えていなかった。つまり、わたしが何を思った時にクジラが生まれたのかを考慮に入れていなかったのだ。
一度目。女の子を見た時。
二度目も女の子だった。
三度目は男子高校生の制服を意識した瞬間。
四度目は学校が始まる前に進学予定の高校の制服を着てはしゃぐ連中を鬱陶しいと思ったから。
一見何の共通点もないように見えるが、違うのだ。そこにある共通点は、去年の夏、真里と真弓とわたしの三人で交わした会話の中にあった。
真里を助けたわたしと真弓とが合流し、館長室に向かうためトンネル水槽を歩いていたときのことだ。
しばしの世間話の時間。話題は学校のことになった。
その時に真里は、高校生になるわたしたちのことを羨ましがっていた。わたしが真弓と同じ高校に通うことを一瞬でも夢想したことを、無邪気な声で言い当てた。
その時からわたしの中に影が生まれたのだ。
「わたしばっかり、願いを叶えていいのかな」
見ない振りをしてきた、ささやかな想い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます