第7話
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未来からのメッセージの内容は、「電話してええ?」というものだった。出ないときは出ないだけなので確認せずにいきなり電話してもいいと思うのだが、そこは未来らしかった。
わたしが「いいよ」とだけ返すとすぐに着信が入った。姫乃は少し離れてスマホをいじっていた。
「何?」
『あ、砂夜ちゃん、こんにちはぁ。今何してたん?』
「前置きはいいから。実はこっちは焦ってる。もしライブの誘いだったら後にしてもらってもいい?」
『砂夜ちゃんが焦るってことは……もしかして満天水族館に行ったん?』
わたしはスマートフォンを握る手にぴくり、と力を入れていた。
未来の場合、勘なのか推測なのかが分かりにくい。そう、とだけ答えて未来の言葉を待った。
『やっぱりなぁ。うちが女の子の声の話をしたから行ってるんやないかと思ってた。うちの方も噂を調べて、出所を見つけて話を聞いたんよ』
「未来、いつの間に」
『そしたらな、やっぱりっていうか、その子の嘘だったんよ。嘘いうたら大げさやな。夏に流れた噂を思い出して、つい口から出てしまっただけっていうこと』
「つまり、女の子――真里の声を聞いた人はいなかったってこと?」
『そうやねぇ。でも砂夜ちゃんの話しぶりを聞いてるともしかして、砂夜ちゃんは声を聞いてもうたんやない?』
やはり未来のことはまだまだ読めない。
聞かれてしまえば、わたしは頷くことしかできなかった。
さらにわたしは、満天町にクジラが現れたことも話した。未来はちょうどパソコンを開いていたらしく、木が突然折れcodomoの看板が壊れたことは調べたらもうネットニュースになっていたようだ。
『なら、うちらの出番やね』
「は?」
『砂夜ちゃん以外も声が聞こえるんかどうか調べてみないとあかん気ぃせん? 去年、満天水族館と外は縁で結ばれてたんやろ? うちら全員、多かれ少なかれ縁がある』
わたしは一瞬迷ってから、答えた。
「分かった。明日予定は?」
『ないよ。明日集合やね?』
「満月まではまだ遠いけど、声が聞こえるかだけでも確かめよう。そういえば真弓はあの日、真里の姿まで見たって言ってたから進展はあるはず」
『まゆちゃんにはうちから連絡しよか?』
「いや、そこに姫乃がいるから伝えてもらう」
『砂夜ちゃん、姫乃ちゃんと行ってたん? それはすこいわぁ』
電話の向こうで、未来は少し怒ったような口調で言った。前に聞いたが、すこいとはこすいのことで、ずるいという意味だそうだ。
「いや、水族館を出た後で偶然会った。買い物に来てたらしい」
『ならええんやけど。とにかく、明日な。細かい予定決まったら連絡してな』
分かった、と短い返事をして通話を切った。
わたしが通話を終えたのに気づいた姫乃が、隣でにっと笑っていた。
「明日……ね。まゆにも連絡しておいたよ。空いてるって。ほら、独りで抱えても仕方なかったでしょ?」
「怒るよ」
別に本気で言ったわけではなく、姫乃もちろんそれを分かっていて、くすくすと笑っていた。本当に怒ろうかと思った。
「ところでさ、砂夜ちゃん」
「何?」
少し声のトーンを落として、姫乃が問いかけきた。視線が下から上に、上から下に移動したのが分かった。
「砂夜ちゃんの影がないのって、何か関係あるのかな?」
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