Take-41 『運命のボタン(The Box)』(2009)は面白かったのか?──あるいは死のボタンにおける考察──

 もうだいぶ前の映画だし、

 ネタバレしても……いい……よね?

( ̄▽ ̄;)




『命の相続人(2008)』とゆー映画がある。


『運命のボタン』のカンソウじゃないのかって?


 まあまあ(笑)


『オープン・ユア・アイズ(1997)』という個猫的には大絶賛のスペイン映画があるのですがその監督アレハンドロ・アメナーバルさんの作品。(ハリウッドではトム・クルーズ主演で『バニラ・スカイ(2001)』のタイトルでリメイク)


 それと比べてしまうとこの『命の相続人』はまあ、うーん……という感じがしないでもないけど、決して面白くないわけではない。ないどころかむしろ──


 疼痛とうつう科の医師がで『触れるだけでどんな重病患者の命も救うことができる』特殊能力を持つようになる。ただし、それには大きな対価があった。さらには……


──という、この大嘘をすんなり受け入れることができる方ならばおそらく楽しめるはずでしょう。また、というのが後半重要なキーポイントとなってくるわけであります。


 一言でゆーなら、


 愛する人と、見知らぬ赤ん坊が100人溺れています(そんな状況はないんだろーけど……)。あなたはどちらか“一方だけ”を救うことができます。


 あなたはどちらを助けますか?


 といったような映画。


 んで、フト思い出すのが、この映画『運命のボタン』。


 こちらの大嘘はまず以下の通り。


“ボタンを押せば一億円手にできるが、どこかの見知らぬ誰かが一人死ぬ”というあの選択です。映画を観てない方でもおそらくどこかで耳にしたことはあるでしょう。


 自分ならどうするだろ? なんてことをまあ必ず思いますやね。


 んで、わしゃも聖人君子じゃないですからね、“押すかもしれない”とゆー考えがどうしても浮かぶのさ。


『どーせ、誰にもわからないし……』そう、これってのがおそらく一番の悪魔の囁き。


 誰が死んだのかわからないから罪悪感は少ないかもしれない。イヤそもそも自分がボタンを押したことによって本当に誰か死んだのか?──その事実さえわからんわけですからね。


 その分、何か事故や事件が起こるたびにドキドキしながら長い時間苦しむことになるかもしれない。


 もうTVなんか捨ててしまうかもしれないですね。報道なんかまともに直視できなくなるかもしれないし。逃亡中の気分が死ぬまでずっと続くかもしれない。


 が、真に怖いのは“また次の誰かにそのボタンが渡る”ということなのよね。


 妙な正義感が勝って「やっぱそんなことできへん! ボタンは押さへん」と、自分が、またはこの映画の主人公が、押さなかったとする。


 そう選択すれば自分は死なずにすむか(すんだか)というと、そう簡単なハナシでもない。


 “自分が押さない”ってことと、“自分ではない誰かが押さないかもしれない”ってこと、この二つは全く別物であり、「だったら押さなかった俺が損しただけやん」そんな気持ちにすらなる──かもしれない。これもまた悪魔の囁き。


 この究極の解決方法というのは、


“他の誰かが押して、それによって自分が死ぬことになるかもしれない。例えそうだとしても自分だけは決して押さない”


 と、いう、


 この考えを、


 でしかないわけで。


 自分だけがトカ、社員一丸となってトカ、区民団体全員を持ちましてトカ、国民全員がトカ──そんな規模ではない。地球上の全員ってことね。


 あ、あえてこのボタンを核兵器のボタンだと仮定して──トカそーゆーのは今回抜きにしております(笑)


 自分だけ、または、自分の家族だけ、もっと広げれば、この国だけ幸せならいいや。


 と、“誰か”が考えたその瞬間から、“誰か”が犠牲になる悪循環のスタートの始まりというコト。


 でも、そう考えてしまうことってやっぱ人間の“業”なわけなんですよね。それを完全悪だととらえてしまうと成り立っていかない部分も必ずあるでしょう。


 まあ、この映画はSFなんでね、“宇宙人”という観察者の形をとって、ボタンを押した者が半数以上なら地球を滅ぼす、みたいな感じになってくるんだけど、例え宇宙人が登場しなくても、理論上、


 半分の人が押せば半分の人はすでに死んでる──必然的にそうゆーことになるわけですわ。


 最近で言うなら『アベンジャーズ』のラスボス、サノスが“指をパチンと鳴らすだけで人類の半分が消滅する”──ってアレと同じやね(笑)


 そう考えるとこの映画ってか、ストーリーはわりかし深い。


「自分が押すか押さないか」そういう次元からもう離れちゃう。


 なるだけ多くの人が押さないようにしてほしいという願いに変わるノダ。


「もし、誰か同じようにそう願ってる人がいるとしたら?」と思うと、そこで初めて押せなくなるノダ。


 自分でも混乱してきたな……。

 これだから理系の頭持ってないと苦労するんだよ(算数レベルです)、まったく。

(;´д`)ひー


 もいっぺん整理しますよ。


 誰かがボタンを押すか押さないかによって、自分が死ぬ確率が二分の一であるとする。


 それが大前提としても、とにかく自分が押さなければ誰かが死ぬことはまずない。


 合ってますよね?(笑)


 最大限に約分して──自分だけは「二人のうちどちらかが死ぬ」ことを「二人とも死なない」に変えることができる。=「全体として見た場合、確実に一人は救える」


 全体としてそれが、ほんの少しの割合だとしても。同じような考えをする人が多ければ多いほど悪循環は緩やかに沈着していく。


 そういう連鎖を食い止めることができるのも、または、スタートさせることができるのも、アナタ次第だと、


 この映画は言う。






【本作からの枝分かれ映画、勝手に三選】



★『ドニー・ダーコ』(2001)

……本作の監督のリチャード・ケリーのデビュー作にして問題作。

「世界の終わりまであと28日と6時間と42分12秒しかない──」主人公にそう告げる銀のウサギの怪物。あのイメージがあるんで、見かけは何となくサイエンス・ホラーのようですが、かな~り難解であります。


 二度三度繰り返し見ないとわからないリバース・ムービー。そのためかDVDになってからの方が再燃しました。


 ドリュー・バリモアがまさかの製作総指揮。彼女もドラッグにハマッて転落してた時期がありましたからね……なんかビビッときたのかな……?


 とはいえ各自そこそこ解釈がまだできる方の作品だとは思います。チャレンジしてみては?



★『激突!』(1971)

 ……原作が『運命のボタン』と同じリチャード・マシスン。


 面白い作品のあらすじは三行で書けるとはよく言いますが彼の短編小説こそまさにそれですわな。


 TVドラマ『トワイライト・ゾーン(ミステリー・ゾーン)』で数多の名作を残したミスター短編アイデアマン。

 ふと追い越してしまったばかりに巨大トラックにひたすら追いかけられる羽目になる主人公の悲劇……。


 S・スピルバーグの名を一躍有名にした作品(本来はTV映画)。なおスピルバーグの劇場デビュー作は『続・激突!/カージャック(The Sugarland Express)』ですが『激突!』とは全く関係ないストーリー。

『真夜中の“カーボーイ”』と同じくいまだタイトル変更される気配はありませんがこれはこれで昔よき映画みたいな雰囲気はありますやね。


 そういえば筒井康隆センセの作品にも「理由もなくひたすら相撲取りに追いかけられる男」の短編がありましたが……何というくだらなさとシュールさよ。元ネタ『激突!』を凌駕するほどの名パロディでありました(笑)



★『見知らぬ乗客』(1951)

 ……ニーチェの『ファウスト』から喪黒福造まで。〇〇を得る替わりに〇〇を……という話はいつの時代も観客読者を魅了して止まないところであります。


『ペイチェック/消された記憶(2003)』では自らの記憶を消すことを対価に、『タイム(2014)』においては自分の生きる時間を切り貼り売り買いするのが当たり前になった世界を描いてました。


 ヒッチコックの名作『見知らぬ乗客』はその基本形でもある交換殺人を描いた珠玉の一品。

「親父を殺してくれ。代わりに君の奥さんを殺してあげよう」──と持ちかけてきた男。こっちがその気になってもいないうちに妻が本当に殺され……えらいこっちゃというサイコサスペンス。


 どこを切ってもとにかく名シーンばかり。俗に言う「演出」ってつまり何なのさ?と人が問えば「これでしょうよ」って答えのひとつではないかと──そんな作品。


 そーいや監督デビッド・フィンチャーとベン・アフレック主演でリメイクするとかいってた話はどうなったんだろ……?




【番外編:本作からの枝分かれ“net小説”】 


★『誰も知らない勇者の去る日』(2015)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881300833


 ……対価と条件、そして“選択”というとこの作品が頭に浮かびます。読みやすくライトな書き口、またその奥に込められたテーマとのバランスがとても良い作品です。葦原佳明さんによるロー・ファンタジー。


〈──これまで人類は何度も滅亡の危機に瀕していた。誰も知らないうちに。これまで人類は何度も滅亡の危機から救われていた。誰も知らない“勇者”によって。

 多くの生命を救うために与えられた代償はたったひとつ……。

 一冊のノートを手に青い猫はまた囁く。

 新たな“勇者”の耳もとで。誰にも称えられることなく、誰に知られることもない勇者の前で──〉


 まるで異世界ファンタジーのようですが、実は……


 読了時間は約115分、ちょうど映画一本分くらいですやね( ̄ー ̄)

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