Take‐25 映画『Dear ダニー /君へのうた(Danny Collins)』(2015)は面白かったのか?
“邦題” は大切である。
もとのタイトルのイメージを壊すことなく、かつ、お客様が観たくなるような購買意欲をカキタテルものにしなければならない……って、いや、私が言いたいのはそういうことではなくてですね…… 。
以前、一度だけ劇場のチケット売り場の前で
それはアル・パチーノ主演の 『恋のためらい/フランキー&ジョニー』 という映画。
同じ劇場で何本も映画を上映してる場合、チケットを買う時にそのタイトルを告げなければいけないわけですが口に出すには妙にこっぱずかしいこの
さっさと入ってしまいたかったので口早に告げます。
『コイノタメライ……もにょもにょ』
どう考えてもためらってるのは私である。
( ー_ー;)
そんなことはお構いなしにチケット売り場のお姉さんは聞き返してくるわけですよ。
「はい? 」
うぐっ…… このタイトルをもう一回言えと?
(;゜Д゜)
三回も言うのは死んでもヤだったので、大声でハッキリとオール・タイトルで言いました。
『コココ、コイノタメライ!フランクィーあんどジョニィ、一般で大至急オネガイシャッス!!」
その手の関係者にゆいたい。
恥ずい
てなわけで、ども、ペイザンヌですたい。
そんな思い出のあるアル・パチーノが主演の最新作『Dear ダニー/君へのうた』という映画を今回チョイスしてみました。
それはこの映画の配給がKADOKAWAだったから。…… というわけではありませんのであしからず(笑)
というのもこのエッセイ、何を血迷ったか現在開催されてます『エッセイ・実話・実用作品コンテスト』にも応募しております。
……してはいるのですが、「いや、待てよ」とフト我に返ることもしばしば。そもそもこんなお気楽ゆるゆるのエッセイが選ばれることなどあり得るだろーか?( いや、そんなことがあっていいはずがない)などとヘンな倒置法を
こんなことをマスター・ヨーダに聞かれたら『やってみるのではない、やるのだ』と言われてしまうことでしょう、きっと。スミマセン。
で、6月18日現在、ランキング的にどんなものかといえば…………デデン! 73位!
♪いいね、いいね、このいいんだか悪いんだかみたいな
(*≧∀≦*)ウヒヒ
てゆーか私だったらこんなしょーもないエッセイよりむしろーー やはりこのコンテストに応募されてます『Beatles 音源徹底分析』(八木彬夫様・作)をお薦めしたいくらいです。とても丁寧緻密に書かれたビートルズファンだったら垂涎のガイドであります。レビューにも書かさせて頂きましたがこんなものがタダで読めるなんてこりゃカクヨム冥利につきるな、と。
つまり、それくらい私はジョン・レノンが好きでして、この映画をチョイスしたのもそこが理由であります。
本作は実話に基づいたストーリーです。アル・パチーノ演じるダニー・コリンズというフォーク・シンガーが主人公。このダニー、曲も作らず昔ヒットしたベストソングばかりを使い回して、いわゆる、なんでしょーかね、加山雄三の船上ディナーショーみたいな感じですか? おばちゃんたちにキャーキャー言われながら何不自由のない生活をしているんですがどうにも毎日が満たされていない。
そんなある日、若き頃のマネージャーが隠し持っていた一通の手紙が発見されます。なんとそれは43年前に届くはずだった【
ーー ダニーはんダニーはん、おまえの歌はなかなかええぞ。そのまま音楽に誠実になぁ。頑張れや!時間無駄にすんなよ、歯ぁ磨けよ、なんか困ったことあったら電話しーや ーー
手紙はそんな内容でした(少し嘘)。
『もし、この手紙を当時、若い頃に受け取っていたのなら俺の人生はまた違うものになっていたはずだ……』
愕然となったダニーは何もかも投げ捨てて車を走らせます。ピアノを一台担ぎ込ませ、小さなホテルの一室にこもると、失われた人生を取り戻すべく新しい曲を作ろうとするのですが…… というのがおおまかなストーリー。
このアル・パチーノという俳優、自分的には好きなのかそうでもないのか未だによくわからんという感じでありまして。
全国のアル・パチーノファンには申し訳ないのですが、なんとなく
それはアル・パチーノ自身が制作・監督を務めた、シェイクスピアの『リチャード三世』を映像化させるためのドキュメンタリー映画『リチャードを探して(1996)』なんかを観るとよくわかります。
その数年後にはやはりシェイクスピア原作の『ヴェニスの商人(2004)』(こちらはドキュメンタリーではない)でシャイロックを演じてるんですが、やっぱり舞台俳優の演技の匂いを感じてしまう。つまり逆にこういう映画だといつもの大袈裟加減が自然に見えちゃうから不思議なものです。
私も少しばかり芝居をかじった方でありますが、派手な演技というのは目を引きやすい割には実はそれほど難しくない(いや、もちろんレベルがとてつもなく違う次元でですよ!)むしろ抑えた演技、もしくは何も台詞のない時の演技あたりが一番難しいわけで。
が、ですよ、奥さん。
実はその抑えた演技というのがこの方はとてつもなくまた上手い。惚れ惚れするというか、もう、憎らしいほどに(笑)
ぐわっ、と出して、すっ、と引く。
このギャップ萌え(?)ともいえるメリハリがピタッとはまってたまらん時があるからこそ彼の映画が時々見たくなるわけで。
『狼たちの午後(1975)』なんかを観るとそのへんがとてもよくわかります。銀行立て籠り犯とそれを取り囲む警官、人質、民衆を描いた映画です。今さら言うまでもない大傑作。
この『狼たちの午後』、今回一緒に借りてきて改めて見直しましたところ、やはりラストシーンでの“抑えた演技”が、もう、たまらない。それまでは得意のオーバー・アクションで、銀行前に
余談の余談ですがこの映画エキストラを使ってないそうです。銀行に群がる人たちも全員役者。皆、なんとか目立とうと頑張っている姿が微笑ましい(笑)
ーーギリギリの土壇場、大逆転劇でFBIに捕まってしまうアル・パチーノ演じるソニー。その目が捉えるのは事件が一段落して安堵している警官たちであり、今までほんのわずか打ち解けていたと思っていた人質たちであり、銃弾に倒れた相棒のサルであります。猿じゃないすよ。サル(ジョン・カザール)という名前ですよ。猿、相棒にしたってしゃあないすからね。
ーー 燃え尽きたように呆然とそれらを見ているアル・パチーノの抑えに抑えた表情のこれまた凄いこと。あの眼球の動き。ほんの微かに笑みを含むように持ち上げる口もとの動き。ガッと車のボンネットに額をつける瞬間の顔、それらはどんな派手なアクションシーンよりみなぎったパワーと存在感を漂わせます。そこから空港の
今回の新作『Dearダニー』でも、やはりメリハリのある演技を魅せてくれます。せっかく心を込めて作り上げた新曲をステージで歌おうとするんですが、彼のファンはそんなものなど望んでない。その客席のリアクションに戸惑う時の表情がそれですやね。
んで、パッと切り替えちゃう。「な~んちゃって~!」と言わんばかりに魂の曲をあっさり捨ててしまう。
「ホントは皆コレが聴きたいんだろー!」と、いつもの浮かれた曲を歌い出すダニー。(これはこれでいい曲なんすけどね、一緒に歌っちゃいそう・笑)
思わずこちらも一緒に歯をくいしばってしまいそうになります。
そんなストーリーですからこの映画では常にジョン・レノンがソロになってからの名曲がバックに流れます。
『真夜中を突っ走れ』『しっかりジョン』『夢の夢』『冷たい七面鳥』『労働階級の英雄』etc. …… ね、“邦題”って大切でしょ(笑)あえてアルバム発売時に“邦題”をつけられた曲を選んでみましたが、こうやって並べるとなんだかバッとしない邦題ばかり。
特に『冷たい七面鳥』って……。原題である『Cold Turky』をそのまま直訳したものですが、本来の意味は薬物禁断症状の時に出る鳥肌のことらしいです。私、幼い頃は “クリスマスに七面鳥を用意していたにも関わらず旦那が帰ってこないから冷たくなってしまったよ~” みたいなことを歌ってるんだと本気で信じてました(笑)
もう一度言いますが 私はジョン・レノンが大好きであります。彼が暗殺された命日の12月8日には仕事を休んでもアルバムを聞きまくるくらい好きであります。そしてアル・パチーノも好きです。
だからこそ、あえて言わせて頂きたいのですが、どーにも私には、映画内でジョンの歌が流れるたびに出来損ないのPVを見せられている気になってしまったんですよね。
映画のストーリーもとても良かっただけに余計もったいないと思ってしまったんです。
たとえば、アル・パチーノ扮するダニーの心情にリンクするようにアップテンポな曲やメロウな曲がこれみよがしに流れてくるんです。が、考えてもみてください。『アル・パチーノの演技にそんなものがいるか?』ってことなんすよ。
なんというのか、むしろどちらも単独であれば素晴らしいのに、互いが互いを潰し合っている、邪魔し合っている、私にはそう思えて唯一そこが残念だった気がします。
食材もソースも一級品なのに、混ぜるとなんかコテコテで油っぽい、みたいなことありますよね。そんな感じでしょーか、好きであるからこそそういうのでごまかされたくないな、と少し思ってしまったわけであります。
(それでも、もしも何かのきっかけでこの映画から新たなジョン・レノン・ファンができるかもしれないかもと思うとそれはそれで嬉しいことですけどね♪)
それにしても広い世の中にはこんなこともあるんだなって感じしませんか?
無名のダニー・コリンズという若いミュージシャンにさえエールを送ったジョン・レノンの手紙を見て私は彼がますます好きになりました。
努力する姿、頑張った作品、報われないと感じることがあってもそれらはきっとどこかで誰かに見られている、読まれている。そう信じることによってまた新たな新芽が胸の奥に芽吹いてきそうじゃないですか。
なーんて、綺麗にまとまったとこで今回はおしまいっす。
(*^ー^)ノ
【本作からの枝分かれ映画、勝手に三選】
★『オーロラの彼方へ(2000)』
…… て、なんでこの映画がパッと頭に浮かんだんだろ(^_^;)本作のキモ、“届かなかった手紙”というのに対して“届けたかった言葉”ってとこでしょうかね。オーロラの特殊な電磁波によって未来の息子と無線で繋がってしまう男。
未来の息子によると“父親(自分)”は何者かによって殺されてしまったらしいということを知るのだが……。これも邦題で損してるのではとよく言われる作品ですが、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を彷彿させるタイム・パラドクスもあり、なかなかよくできたお薦めの一本ですね。
★『アクロース・ザ・ユニバース(2007)』
…… ビートルズのナンバー33曲を使ったミュージカル。いや、ミュージカルというと語弊があるかもですね。当時流行っていたサイケデリックを現代風にアレンジした、かなりクオリティーの高い映像です。この映画こそ、曲と作品が見事に融合し合っているといっていいでしょう。単なるBGM扱いではありません。登場人物の名前がジュード、マックス、ルーシーといえば…… 。ビートルズ・ファンであればもちろん、ビートルズを古臭いと思ってる方にも観てほしいところですね。ちなみに原曲そのままでなく、吹き替えなしで役者が歌ってるのですが、これがまたバカにしたものでもないんですね。
★『恋のためらい/フランキーとジョニー(1991)』
…… (前回までのあらすじ・なんとか恥ずかしいタイトルを告げ、チケットを手に劇場へ入っていくペイザンヌだったが……)
本作のような金持ちミュージシャンからこの映画のような刑務所帰りのバイトのコックまでピタリと雰囲気を合わせられるアル・パチーノ。これまでの中で一番生き生きしてるんじゃないかくらいで、実際にこんな奴が近くにいたらとても魅力的だろうなと男ながらに思ってしまいます。相方はミシェル・ファイファー。大人のラブ・ロマンス。とても親近感のわく二人を見ているとあなたも恋がしたくなる……かも?(⬅こーゆーこと書くのも実は結構恥ずかしい)
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