學園底辺の能力戦争《アビリティ・ウォー》
P3(キューブぴー)
第0話 プロローグ
さて、超能力と聞いて何を思い浮かべる。
多分大多数の人は念力とかテレパシーとかテレポーテーションなんてのを想像すると思う。
それは間違いじゃないし実際俺—若林光輝—は見たことがある。
そんなことになったのも今から20年も前の出来事だ。
2XXX年
謎の隕石襲来によって一躍騒がれたときがあった。テレビやネットでは地球が滅ぶとか何の予言が的中しただとかそんなことで大騒ぎだったらしい。
幸いにしてどこかの国がどうやったかは知らないが、地球の目前で核爆弾でもぶつけたらしく隕石自体は破壊された。
しかしそれがまずかった。
核物質と隕石に含まれてたらしい未確認物質が何らかの化学反応を起こしたらしく、その物質が地球へとばら撒かれた。ん?実際の物質の名前?そんなもん知るわけないだろ。
まあそれによって地球の環境は一変。気候の寒暖差は激しくなり、生物植物は異変をきたした。当然人間にも例外なく異常が出た。
それが超能力
日常で使えるような些細なものから規模の大きいものまで、その種類は多岐に渡った。空想の中のものだった力を手に入れ、人々は狂喜乱舞し現在に至る。
ま、これが今の世界が出来た背景みたいなもんだ。
で、なんでこんなこと考えてるのか。答えは簡単。
「おいゴラァ、何寝てんだ立て」
リンチからの現実逃避だよ。はっ、笑えてくる。
第0話 プロローグ
とりあえず現実に戻って回りを見渡す。こっちは当たり前に一人。向こうは同じ高校の一個上の先輩方五人。せめて三人なら俺の右手が火を噴いたんだが、……見得張った。三人でも無理だし俺の拳から火なんて噴かない。そして相手は無傷でこっちは既にボコボコと。
だめだ、もはや笑うことしかできん。
「何ニヤニヤしてんだテメェ!」
「ごふっ...」
どうやら先輩方のお気に召さなかったらしく腹を蹴られた。
「っ...つぅ。」
「はっ!ざまぁねえなおい!」
「あんだよ、大口叩いた割には弱すぎんだろ」
「ホントだよ。どんな能力かわかんねぇからびくびくしてた最初が情けないぜ」
「ったくよぉ、おとなしく治療費渡してくれれば良かったんじゃね?」
「言ってやるなよ。高校デビューしたての彼はカッコつけたがるオ・ト・シ・ゴ・ロだったのよ」
『ぎゃははははははははは!』
勝手なこと言ってくれる。高校デビューなんか浮くだけだろうが。
それに結局嘘で固めた姿はいつかボロがでる。
そんなこと好き好んでやるかっての。
(今日はツイてない...)
学校に遅刻しそうだったので走っていれば曲がり角で彼らに衝突。ここでパンを咥えた女子高生じゃないのが非常に悔やまれる。
それで後はお決まり。やれ骨が折れた、治療費を払え、4万円で勘弁してやるだの
時間にして恐らく10分。小休憩を挟みつつではあるが、ひたすら殴られ蹴られを繰り返された。多分服の下は赤い花がいくつも咲いているだろう。顔にくれない分徹底してやがる。
「あーあー面倒くせぇ。おい、こいつそろそろこれでトドメといこうぜ?」
さっき腹を蹴り上げた先輩の腕が銀色に変化する。打ち合わせた拳からは鈍い金属の音。それに同調するようにほかの先輩も自分の能力を発動する。手から不自然に風を出していたり、爪を鋭くしたり、筋肉を肥大化させたり、拳に炎を灯したり…っておい。お前の拳が火を噴くのかよ。
(まーた見せびらかすようにしてくれちゃって。)
流石にあれらを貰うと不味いだろう。骨の一、二本とかそんなレベルじゃない。下手すりゃ死ぬ。
最近じゃ不良同士の抗争で死人が出る。裏路地の奥に入れば肉の塊が落ちてるなんてよくあることだ。
(目標は充分見たし大丈夫かな)
相手の位置も覚えた。さて、
(逃げるか)
目を閉じる。
ドサッ
重たい音と共に白い粉がもうもうと舞い上がった。
落ちたのは隣の建物工事の足場に放置された口の空いたセメント袋。
「うえっ、ゲホゲホ。なんだこれ」
「ま、前が見えない」
「うわ鼻に入って……ハッハクション!」
「ゴホゴホゴホ」
俺は苦しんでいる先輩方の間を薄目ですり抜ける。そしてそのままダッシュで逃げた。
逃げながら見る空は抜けるように青い。10年前と全く変わらない。
(本当に超能力なんてくだらない)
憎々しげに空を睨んで俺は学校への道を走った。
あーあ本当に
「明日あたりに世界、滅亡しろよ…。」
呟いたその言葉は溶けるように大気へと散っていった。
file.1 若林光輝
能力:視認した物体を動かす。見た時間により移動距離が変化し、意識して閉じると移動する
學園底辺の能力戦争《アビリティ・ウォー》 P3(キューブぴー) @ryo_TA
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