Revolution of Separation 2

「あの軍隊は、ジェーンの私兵部隊だ」

「それにしては強力だな。だが、あれだけの力があるなら、自分の会社を立ち上げればいいと思うんだが?」

「今の状態が、ジェーンの狙いに最も都合が良い、という事だろうな」


「各企業に関わる事業の中に、ジェーンたちが潜り込んでいく。兵士や指導教官として。ジェーンが関わった部署、部隊は瞬く間に戦績を上げ、彼女たちは名を轟かせた」


「そんな事を繰り返して、世界中の戦闘員を枠から出すことなく繋げていく。結果として、世界全体の医療技術、戦闘技術が進歩し、今の状況を形作った。ジェーンは自分の軍隊をこう呼んでいる。『ユナイテッド・アビス』と」


 連合地獄…… ふざけているとも思えない。この恐ろしさを分かっているものがどれだけいるのか……


「業界各社と何らかの密約もあるらしい。自分の会社を立ち上げることをちらつかせて、優秀な者たちが一気に消えることを恐れた各企業の経営陣は、徐々にジェーンの侵略を許すことになった」


「だが、これもフェイクの一つだろう。こうすることで、自分たちの技術が世界に溢れることを防いでいるんだ。PMMCを縛りつつ、市場を拡大し、経済を潤す。それに視線を集中させて、自らの目的を目立たない所で進める。ジェーンには経済力なんて必要ないんだ。きっと、軍事力さえもな」


「ユナイテッド・アビスの強さの秘密とされるのが、EE社と呼ばれる企業の存在だ」


 ドクン! と心臓が鳴った。体が揺れた。一メートルくらい飛び上がってしまったんじゃないか、と思うほどだ。


「この会社が作る製品は、非常に高機能、高品質だ。弾丸は固く、銃はそれを正確に撃ち出す。体を覆う装備は強靭で軽い。ハイドローグの各パーツも強力だ」


 鼓動が速く、強くなっていく。ちょっと待ってくれ……


「明らかにされていないものも相当あるはずだ。そしてEE社はそれを公に売り出さない。戦場で強さを見せつけ、恐怖と羨望を集め、求める者からコンタクトを取らせる。そして、製品やサービスを売り、それに見合う対価を受け取る。ジェーンの軍は武力と影響力を増していく」


 体中から嫌な汗が噴き出す。それは、違う、違うはずだ……


「EE社が研究開発をする際には、ある液体が重要視されているようだ。その正体は分かっていない。だが、これもサークレット関連だと、私は考えている」


 息が荒くなる。止めてくれ…… 言わないでくれ……


「このEE社の設立には謎が多い。創設者が誰なのかも曖昧だ。だが、この会社の発展と共に、世界の医療技術、ハイドローグ技術が格段に進歩したことは事実だ。ほとんど知られていないことだが」


 これ以上、聞いてはいけない。聞きたくない。


「かつて、PMCと呼ばれ、戦争屋としてのみ機能していた傭兵派遣会社が、総合商社のようなPMMCに変わっていった。そして、それらが世界にもたらす変化と、あのイノセント・ドラクルの変化が一致している。だから、きっとそのEE社も――」


 そこから、レインメーカーの声が聞こえなくなってしまった。

 様々な考えが私の頭の中でぐるぐる回る。


  あいつが話しているのを、耳にしてしまったことがある。


  『これは、私の力で得たものじゃない。エメリアの努力の賜物だ』と。


  "Efforts of Emelia"


 そして、一つの答えが導き出された。

 時々ある根拠のない閃き。だが何故か確信がある。


 私は立ち上がって、よろめいた。

 三人は驚いた目で私を見ている。


「そんな、バカな…… それじゃ、私は……、私の、してきたことは……」

 私はふらふらと歩きながら、言葉を吐き出す。

 アーニャが駆け寄ってきたが、私は逃げるように、足を動かした。

「私は、守られていた…… あの地獄に…… そして、この世界は、私が出てくるのを、産まれるのを待っていた…… これじゃ、私はまるで……」


 その時、大音量の声が響いた。


<<  そうだ、私のエメリア。お前こそ、この世界が待ち望んだ『聖杯』だ。

    やっと来てくれたんだな!  "My Precious"!! (愛しい人)  >>

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