We shall go on to the end 2
私と、ジェーンは二階から見下ろされる部屋に居た。
二階にはドレイクがエメリアに銃を向けている。エメリアは気を失い、手錠をかけられている。
私とジェーンは、それぞれナイフを持ち、殺し合うように言われた。
どちらかが勝てば、エメリアを助ける。そう言ってドレイクは私たちを煽る。
私は、震えながらナイフを振るった。ジェーンの眼を見れば分かる。あいつはなにもためらわない。腕の震えが止まらない。
ジェーンがナイフで私の右腕を刺した。私は崩れ落ちた。
痛みで涙が出る。息が荒い。落ち着かせることが出来ない。そして、さらに乱れる。
「とどめを刺せ! こいつを殺すぞ!」
エメリアに向けた銃を震わせながらドレイクが叫ぶと、ジェーンがドレイクを睨みつけた。
「お前、本当は私を殺したいんだろ? 私が苦しむのが見たいんだろ? 自分の方が強いって思いたいんだろ?」
「っ!?」
「まどろっこしい事をしないで、今すぐ、その銃を私に向けたらどうなんだ? それで殺せるだろ? それとも、そんな勇気もないのか?」
「何を!?」
ドレイクは、ジェーンに銃を向けた。引き金が引かれようとしたとき、ドレイクの頭が目の前の手すりに叩きつけられる。二回、三回。
「っがぁ!」
エメリアが手錠を外して、ドレイクを後ろから襲った。その後、外した手錠をドレイクにかけ、下へ突き落す。
ドレイクが痛みでもがいている時に、私は、一緒に落ちてきた拳銃を拾った。
私は、それをドレイクに向ける。
「お前たち、いつもこんな風に私たちを脅すよな。
『死ぬのはイヤだろ? 死ぬのは怖いだろ?』
そう言って、嬲る」
右腕に刺さったナイフを抜いて、ドレイクの右腕を刺す。悲鳴を上げたが、よく聞こえない。
「殴ったり、武器をちらつかせて、さらに脅す。
『死ぬのは辛い、死ぬのは痛い』
怯える者に、やりたい放題だ」
私が持っていたナイフを、ドレイクの左腕に刺す。深くねじ込む。地面に突き刺さるほどに。
「ところで、それは誰に聞いたんだ?」
拳銃を構えて、ドレイクに向けた。顔を見据えているが、よく見えない。
「お前たちは、死ってものが何か知っているのか!?」
私は拳銃の銃弾をすべてドレイクに叩きこんだ。
「おい」
ジェーンの言葉で我に返った。しばらく放心していたか……
「多分、こいつの異常を感知した奴らが、もうすぐここに来るだろう。今、あの扉に集められるだけのものを集めておいた。今のうちに上へ逃げるぞ」
「……ああ」
こいつと一緒に戦うなんて、今まで無かったな……
まあ、いい。梯子の上でエメリアが待っている。
私は、エメリアに助けられて、梯子を上った。下からジェーンがついてくる。もうすぐ扉が破られるだろう。どうにかなった。私たちがその場から逃げる為に走り出すと、ジェーンは取って返し、下へ飛び降りた。
ジェーンは、ドレイクに刺さったナイフと、拳銃を拾い、ドレイクの傍に立った。
そして扉が破られ、武装した者たちが銃を構えてなだれ込む。
ジェーンは両手を挙げるが、容赦なく銃撃が浴びせられた。あれはゴム弾なのか、それとも……
ジェーンは両手を挙げたまま天を仰ぎ、そのまま膝を着いた。
なだれ込んできた者たちに囲まれ、ジェーンは私からは見えなくなってしまった。
「っう!」
目を覚ました。汗びっしょりだ。生身の体じゃないのに……
「大丈夫か?」
エメリアか……
「ああ、大丈夫だ……」
周りを見て、眠る前の状況を思い出す。もう、あの場所にはいないってことが、こんなに嬉しいとはな……
―――――
輸送機には、移動用のヘリコプターまで積んであった。これも私たちが使って良いようだ。私たちは踊らされ、操られている。だが、進むほかない。嫌な流れだ……
覚悟が決まった。
私は、アーニャとジャクリーンに向かい合って、話すことにした。
「お前たちに話しておく。私の『秘密』を」
「秘密?」
「ジェーンとの話で出てきただろ。"Venom"って言葉」
「うん…… 何なの?」
「私のことなんだ。あの施設の中で、おそらく私だけに、自然に宿った。自分の名前と合わせて、蛇の毒ということで私がVenomと名付けた。そして、レインメーカーが言っていたEE社の秘密も、きっと同じものだ。」
「どういうこと?」
「イノセント・ドラクルの中に居る時、周りの奴らから聞くことがあった。私が使っていた道具やなんかが、他のものに比べて丈夫だとか、使いやすいとか、そんなことを多くな」
「そのことを時々思い出しつつ、自分の使うものや、自分の体の感覚なんかに注意を向けていった。そして、ある時気付いた。私が使う道具とかは、私が使いやすいように調整されていく。ほんの少しずつ。それは、道具だけじゃない。私が触れるもの、息や言葉が飛んでいく様々な所。それらが、何らかの力を持って、私の意志を宿らせる」
「だが、とても信じられなかった。まるで魔法の力だ。そんなものが何で私にあるのか分からなかった。そんなものは存在せず、私が苦しみのあまり幻を見ているんじゃないか。そんなことばかり考えていたが、お前たちの様子を見るうちに、少しずつ信じられるようになった」
「私の望みは、友達が欲しい。苦しみを分かち合って、時々笑い合える仲間が欲しい。そして、お前たちはそうなってくれた。私は、お前たちが生きていきやすいように、そして一緒に居られるように願っていた。私もそのために生きる、と強く思っていると、お前たちは強くなって、私の傍に居てくれた。私の力は、本当に、ほんの少しのはずだ。だけど、そのほんの少しは本物だと信じられたんだ」
「お前たちの役に立てるなら、もっとこの力の事を知りたくなった。だから、自分で調べていったんだ。誰にも見つからないようにな。お前たちに知られたら、離れて行ってしまうような気がしていた。軽蔑されて捨てられるような気もしていた。隠れながらだったが、幾つか分かったことがあった」
「私が何か強い感情を持った時に体から出る体液には、その不思議な力が多く宿る。唾液や、涙、汗とかな。もしかしたら、尿や血液にもあるのかもしれない。実際に現れた何かは、まさに万能の物質『賢者の石』みたいなものだった。ただ、分かっているのは、なぜこんなことが起こるか分からないって言うようなもんで、あの中に居た時から、今この時まで考え続けているが一向に不明なままだ」
「それを、あの施設の中で、ジェーンにだけ気付かれた。私がアーニャと一緒に危険を切り抜けたり、ジャクリーンと一緒に戦ったりしている時に、何かがおかしいと思ったんだろうな。私が傍に居る時のお前たちは、力が大幅に増しているように見えたんだろう」
「そして、ジェーンは私の秘密を知った。それからあいつは私に異常な執着を見せた。私の全てを独占しようとしていた。私の支えだったお前たちを排除しようとした。それでも私が逃げようとすると、今度はお前たちを自分の支配下に置こうとしたんだ」
「ジェーンは、私のVenomを調べ尽くし、効果や効能なんかを調べ上げ、兵器や薬にする方法を見つけた。そして、それらを使い、施設の管理側に喰らいつき、外側との取引で金品を入手して蓄える事までやった。それを使ってさらに侵食する。中に居た私たちの仲間をけしかけて管理側を追い詰め、外側に施設の情報を広めていく」
「そうしている時に、ジェーンはもう一つ発見した。人間は ――私もそれに入れて良いなら、だが―― 感情を持たないという状況はとても少ない。常になんらかの思いを持っている。例えば、食事をしている時とかな。ジェーンは私を見てそれを思いついたんだろう。私の唾液には常に何らかの力が宿っている、と」
「あいつは、私を貪った。私の口、そして、全てを。何を求めていたかは、ジェーンにも分からなかったんだと思うが、それは、ジェーンに与えられた」
「私と比べて、ほんの少量だが、ジェーンにもVenomが宿った。それを知ったジェーンは狂喜した。そして、私への執着はさらに高まった。……あれは、もう…… すまない、これは、今は止める」
「あいつは、私を繋ぎとめる為に何でもやっていった。私の知らないことも多いだろうな。ただ、あいつ、私からVenomを得た体で、……その、お前たちと、いろいろやっただろ? ……つまり、そこからお前たちにも移ったり、宿ったりしているんだと思うんだ」
「そして、広まっているのは、それだけじゃない。きっと、あの時のイノセント・ドラクルの全て、そしてこの世界の全てにだ。ジェーンが広めたあらゆるものに私のVenomが宿っている。世界はそれに感染した。それが今の医療の進化と共にあるこの世界の姿だ。ハイドローグの技術、それと共に進歩したデジタル技術、その果ての便利さを享受する人類すべてに。私は、まさに、諸悪の根源――」
「そんなこと無い!!」
アーニャが叫んでいた。私はちょっと興奮気味だったのだろう。我に返って、少し動揺した。落ち着くまでにしばらくかかった。
その後私たちは黙り込んでしまった。私は一人になりたくなって、その場から離れて行った。
―――――
エメリアの話を聞いた後、一人になって、エッジと連絡を取った。現地での指揮を一部担当するらしい。今回の戦闘での情報を活かせるように、とのことだ。
私はジャクリーンに話した。
「何だか、危ない気がする。何処に行ってもジェーンから逃れることはできないように思えてしまう。だから、ジャクリーンにお願いがあるんだ」
「何だ? 言ってくれ」
「エメリアを尾行して欲しい。そして、ジャクリーンを私がモニターする。それで、きっとエメリアを守れる」
ジャクリーンは頷いてくれた。
「分かった。言う通りにしよう」
どうして、ジェーンは私たちのことを知っていたんだろう。
電子の世界でも、現実の世界でも、誰かに覗かれたり、見張られていたとは思えない。すべてを察知できたとは思えないけど、危険を感じたらすぐにその場から去って、何も残さないように気を付けてきた。
なのに、ジェーンは私とエメリアのことを知っていた。
そして、知っていたのなら、私たちの居場所を察知できたなら、なぜ襲ってこなかったのか……
考え続けても答えは出なかった。
備えをしながら策を巡らす。その繰り返しをしているうちに、輸送機が着陸した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます