Some Serious Piece of Mind
ヨルムンガンドの端。ようやくたどり着いた。
そして、いた。ジェーンだ。青空の下に一人で立っている。
喜びと憎しみでゆがんだ顔。昔のままだ。
「お前なら、来てくれるって信じてたよ…… やっと、お前と二人だ……」
でも、それじゃダメなんだ。私もお前も。
「さあ、思う存分、私に怒りを、憎しみをぶつけろ! 全部私のだ。お前の全部が欲しい! 一緒に世界を壊して回ろう! その先の世界をお前にやる! だから……」
私はペン型の注射器を取り出した。
「何だ、それは? 筋肉増強剤か?」
私は首を振る。
「これは、私専用のパニッシュド・ウロボロスだ。アーニャがレインメーカーから教えられた技で、超特急で作ってくれた。」
「ほおぅ…… それで、私にどんな痛みをくれるんだ?」
「お前にやるんじゃない。私が貰うんだ」
そう言って、首筋に注射を打つ。
「ぐあぁぁ!」
痛みのあまり、倒れ込んで、四つん這いになってしまった。
私専用のパニッシュド・ウロボロス。
それは、ジェーンと世界の間に私を置き、ジェーンの痛みの半分を私に流す。
ジェーンは少しふらついたようだ。
「っぅ…… どういうつもりだ!?」
どうにか、立ち上がって、ジェーンを睨みつけた。
「これで、対等だ…… それだけさ。お前をそんな風にしてしまったのが私なら、私が終わらせる。お前の全てを喰らい尽くして、私の中に封じ込める」
私のトリガーは、ずっと前に引かれていた。アーニャの呪いを引き受けた時に。昨日、それを知ってから、こうしようと考えていた。こうしたいと思っていたんだ。
「何故だ…… 世界が憎くないのか? いや、私が憎くないのか!?」
深く息を吸って、吐く。
「閉鎖され、隔離されていたって、人間が関わっている以上、世界とのつながりを絶つなんて不可能だ。どこかで、外の世界と繋がっていた。誰かと、そして、幻影や物語と。私はその力で生かされた。だから、ここに立っている」
ジェーンを見つめて、声に力を込めた。
「私はもう逃げない。お前から、そして、私の使命から」
全身に力を込める。
「誰かの幻影に助けられたなら、誰かのための幻影になりたくなるってわけだ!」
ジェーンに向かって殴りかかっていった。
殴る、蹴る、避ける、受け止める、ひたすら繰り返す。お互いに。
ただひたすら、撃ち続ける、と心に決め、動き続ける。
二人でやっていたのはそれだけだった。
そして、もうすぐ来る。あいつは、その時を待っている。
私を殺さず、そして、再起不能にする。そのためには、お前のVenomを私の傷に刷り込む。
私に、噛みつき、流し込む。
くっ……
そして、動きが遅くなったところに……
サブマシンガン…… そうか、お前も自分の弾を作れたか……
大したもんだよ…… 出来ると思っていた。だから……
動きを遅くしたのはフェイク。
銃口が私を捉えたところで、横に飛んで回避。
お前の目が私を追う。右足を軸に体が回転する。腕が私の方へ向く……
そこに、右腕で…… 撃つ!
ドン! という音と共に、ジェーンの左胸から血が溢れた。
「……右腕に、銃を…… いったい、どうやって……」
「ハイドローグのグローブに銃を仕込んで、私のVenomを使ってカスタマイズした。だから、もう、ほとんど私の体の一部で、外部のサポートは必要ない。普段は私の肌と外の空間に擬態している。使える機能は、特製のVenom弾丸を一発だけ撃ち出す……」
十年近くため込んだ毒。どれほどの威力があるかは分からなかった。だが、今日この時、お前に使うためにあったんだろう。
「……見えなかった…… お前のこと、なのに……」
「お前から逃げ回りながら、必死に作り上げた…… お前のことを考え続けた…… どうすれば、見破られないか…… あれだけ偉そうなことを言った後にこれだ…… 好きなだけ罵ってくれ……」
あと何発か残っている拳銃もフェイク。いつか使うと、お前に思わせたかった。
「……よくぞまあ、この、最後の最後まで隠し通したものだ…… お見事……」
銃を落として、ふらふらと歩く。倒れそうになるが、倒れない。そして、私を見た。
「私の記憶は渡さない…… これは、私のだ」
胸に手を当ててジェーンが言う。眼の力が強い。
「ああ、お前のだよ」
息を切らしながら、続ける。視線は揺らがない。
「海の底なら、奴らの手は及ばない。当分の間は……」
「そうだな……」
私を見つめたまま、ジェーンはふらふらと後へ下がっていく。
「そこで、待つ……」
「何をだ?」
ジェーンはピースサインを作り、そして、そのまま海に落ちた。
その後、強烈な痛みが全身に走り、私の意識は闇の底へ沈んだ。
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