Can't Say Goodbye to Sweet Child

「ブラッディ・サンだと? どういうことだ……」

 痛みに襲われながら、私はどうにかジェーンの方を見た。

 あいつは上を向き、両手を挙げたまま止まっている。


「……やっと、ヴェラに…… 戻れた……」

 そう言うと、ジェーンはそのまま後ろに倒れる。それをエリナが支え、護衛の兵士が取り囲む。そのまま闇に消えていった。


 体の痛みは徐々に薄くなっているように思う。だが、周りの叫び声はいっこうに収まる気配が無い。どうやら、私はこの状況への対処法をしっているようだ。サークレットか、Venomか。だが、頭がうまく回らない。


 PMMCの兵士たちは恐ろしげな叫びをあげ、悶え苦しんでいる。味方同士で殴り合っている者もいる。そこへユナイテッド・アビスから銃撃が浴びせられる。恐怖がさらに広がり、もはや正気でいるものは誰もいないようだ。まさに地獄絵図。

「どうすれば…… ジャクリーン…… アーニャ…… エッジ…… どこにいるんだ……」

 私は周りを見回した。あるポイントに眼が止まった。

 アーニャがエッジを支えて下がりながら、他の兵士に注射を打っている。その兵士は、しばらくすると、アーニャに付いて歩き出す。アーニャは、そうやって自分たちが逃げる道を確保しているようだ。


「あいつ…… 平気なのか…… そうか、そうだったな……」

 私は、顔を叩いて、アーニャの許へ向かおうとした。


 その時、ユナイテッド・アビスの中から何かが飛び出した。セシリアだ。

 地面に降りると同時に、地割れが生じる。一歩ずつ踏み出す毎に地割れが起き、アーニャたちへ向かい地面に一本の線が出来る。

 二人を地中に埋め込む気か。そんなこと―――

 その時、セシリアに向かい何かがぶつかった。

 衝撃で地面が揺れ、周りの兵士、物体、空気が吹き飛んだように見えた。

 ジャクリーンが両手にナイフを持って、ぶつかっていった。セシリアは刀でナイフを受け止め、押し返した。

 私は、ジャクリーンへ向けて走る。

 ジャクリーンは、右のナイフを投げる。セシリアは刀でそれを弾く。その間にジャクリーンは間合いを詰め、左のナイフを投げる。今度はセシリアはかがんで避けた。

 そして、その状態からつま先が地面にめり込み、刀を突き出しながらジャクリーンに向けてものすごい力で突進した。

 ジャクリーンは左腕にセシリアの刀を受けた。左腕を貫通したが、そのまま左半身を回転させながら後ろに下がり、威力を殺す。貫通した左腕のハイドローグを強烈に締め上げ、刀を固定する。そして右腕でセシリアの右腕を殴る。

 セシリアは刀を離さない。ジャクリーンは、二発目、三発目を見舞う。

「がっ!」

 セシリアが声を上げ、刀を離した。ジャクリーンの右腕からナイフが突き出ている。隠し持っていた七本目のナイフ。腕と一体になったハイドローグの仕掛け。

 ジャクリーンは距離を取る。セシリアが刀を取り戻そうと向かってくる。頭に向けて、ジャクリーンは奪った刀を投げた。

 セシリアは、横に飛んで避けた。


 パシッ

「!」

 その投げられた刀を私が掴んだ。そのまま、セシリアに襲い掛かる。

 上から振りかぶった刀を、セシリアは左手でつかむ。刃の部分を持ち、血が噴き出ているが、私の力が及ばないのか、そのまま、起き上がり、私を押し倒す勢いだ。


 右腕のアレを使うか?

 だが、アレは……

 しかし、今殺されては意味が無い。

 こいつを倒すための最適なポイントは――


 ザッ! という音と共に、セシリアの力が弱まった。

 ジャクリーンがナイフを投げた。もう一本、二本、三本。

 全部投げた。セシリアは苦悶の表情の後、少し笑った。

 刀から手を離し、私に蹴りを放つ。そして、ジャクリーンに向き直る。背中に刺さったナイフの一本を抜き、ジャクリーンに斬りつける。

 ジャクリーンは後ろに下がりながらジャンプした。

 私は、起き上がり、セシリアに後ろから襲い掛かる。上から振りかぶるが交わされる。そのまま刀を返し上へ向かって払い上げる。セシリアは、上半身を捻ってかわす。私はそのまま足に力を込め、手を放し、刀を上空へ投げた。ちょうどさっき、ジャクリーンがやったように。

 セシリアの頭上へ放たれた刀を、ジャクリーンが空中でつかむ。体制を立て直したセシリアは、刀を振り下ろすであろうジャクリーンを迎え撃つため、もう一本、刺さったナイフを抜いた。ジャクリーンが空中に居る間に、両手のナイフを投げる気だ。

 その時、ジャクリーンの体から爆発音がした。音がしたかと思うと、ジャクリーンは地面に居た。足が地面にめり込んでいる。そして、刀は血塗られている。セシリアの右腕が無かった。

「なんだ…… いまのは…… いったい…… なにが……」

 セシリアは、ふらふらとよろめきながら、右腕から溢れる血を止めようとしている。そこへ私がジャクリーンのナイフを拾い、セシリアの腹を刺した。

「ぐぅぁっ!」

 ジャクリーンが後ろからセシリアの胸を刺す。

「っう…… あ…… ここまでか……」

 セシリアは私の頭を掴んで、自分の眼の前に引き寄せた。

「私は、やりとげた…… 自分の役目を…… なあ、そうだよな……」

「私には何も言えない。すまないな」

 そう言って私はセシリアの首筋を噛んだ。歯に溜めていたVenomを流し込む。

 そして、セシリアは地面に倒れ、息絶えた。


 私は地面に座り込んだ。

「どうにかなったことが信じられない……」

 ジャクリーンがうつ伏せに倒れている。だが、息はしている。すごく荒いが。

「はぁ、はぁ…… こいつの命は、私が持っていく。私がセシリアの力を、呪いを持っていく。それが、私の役目なんだ……」

 そうなのか…… 深くは聞かないよ……


 ユナイテッド・アビスの兵士たちは、もういなかった。セシリアが倒されたことで逃げ出したのか。それとも、もう私たちの命を奪うことも無意味と思ったのか。


「なあ、さっきのあれは何なんだ? 何が起こった……」

 ジャクリーンは身を起こして、立ち上がる。そして、アンフィスバエナの刀を彼女の体から抜きながら言った。

「あれは、私が持っている奥の手だ。最後の最後に使うもの。誰にも知られたくなかったが、生き残っているなら、使って大正解だったんだな……」

 刀を鞘に納めて、セシリアの傍に置く

「ハイドローグを知り尽くして、使いこなす。他の誰にも出来ないようなやりかたで。その極みこそが、きっと私のVenomなんだろう。あれは――」

「いや。いい。言わなくて」

 二人でしばし見つめ合った。

「……そうか」

 ジャクリーンがそう言うと、私はVの拠点を見た。

「ジェーンを追う。お前は、アーニャとエッジを頼む。私は、とにかく追うしかない」

「ああ、レインメーカーを頼む」

 そういうと、ジャクリーンはバタリと倒れた。背中から煙が上がっている。死なないでくれよ。頼むぞ。

 私は、Vの拠点に戻り、車に乗ってジェーンに向けて走り出した。

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