一振り目
昨今色々なニーズに応える為の物があふれている。俺達の仕事もそんなところだ。
「ひまだね~」
「・・・・・・」
何時もと変わらない毎日、それはそれで楽しい。
ただ先立つ物が無いと空を見上げたくなる。
「ミコちゃん、お茶」
「・・・・・・?」
ミコちゃんはうちの美人受付嬢でかわいい娘でもある。
ウチは探偵ギルド鍛冶[かなち]、探偵と言っても、ペット探し、浮気調査、通常の依頼もこなすどちらかと言えばなんでも屋みたいなものだ。
そして俺はここ鍛冶ギルドのギルドマスター安綱。
現代社会において仕事の斡旋なんて慈善事業みたいなこと、好き好んでやろうとする奴なんてそういない。
でもうちは裏も表も全部ひっくるめて、仕事を親切丁寧信用第一安全二の次そんな依頼を扱ってる。てかそんな依頼しか廻ってこない・・・なんでだろう?
「え?なんでそんな不思議そうな顔するの」
「・・・・・・」
「無視!そんなにパパとお話したくないの?」
「・・・・・・うん」
ミコちゃんとってもツンデレ、でもとっても可愛い我が娘。
「そこまでいやそうな顔しなくてもイイじゃん、パパにお茶淹れるのそんなにイヤ?」
ミコちゃんがこちらをなんとも形容しがたい顔で見ている。年頃の娘ってのはみんなこんななのかと思うと頭が痛い。
「ヤダ・・・自分でやれば良いじゃん」
「良いじゃんお茶くらい其処から会話が生まれるでしょ。例えば・・・」
『パパお茶淹れたからどうぞ』
『ありがとう、いや~ミコちゃんの淹れてくれるお茶はやっぱり美味しいな』
なんて他愛もない所から会話がうまれてくれればいいのだけれどそんな事で会話が成立するなら此処まで必死にならない。ただ娘とコミュニケーションをとりたいだけなのに
そんな父親の些細な夢すら叶えられないのか?なぜ?ホワイ?だれか私におとうさんスキルを上げる方法があるなら教えてほしい、切実に・・・・・・。
「みたいな感じでさ、いけると思うんだけどダメ?」
「わかった淹れれば良いんでしょ・・・お茶・・・」
「マジで!良いの!やったね、あれでもそっちは違うよねトイレだよね?」
「あってる・・・・・・」
「いやいや違うよね、あきらかに違うよね」
ドSにも程があるマジで行こうとしてるよこの子何なのマジで。これが父親に対する娘の対応?ヤバいよね!マジで良いのこれで?このままで良いの日本!
「ごめんごめんマジでパパが悪かった。謝るからそれは許して」
お茶を淹れてもらうだけでなぜ此処まで気を使わないといけないんだ。父親が娘にお茶を淹れてもらう、親としての至福の瞬間じゃないのか?そんな小さな幸せすら許されないのか世のお父さん達も同じ思いをしているのか。日本の、いや世界中のお父さん達一緒に
がんばりましょう!
そんな娘に軽く削られながら今回の物語は始まっていく。
過去に捉われ心の奥底にしまい込まれていた小さくでも確実に燃え続けている、心は過去に捉われたままの紅蓮の物語・・・・・・
「平和すぎる・・・・・・仕事もない、悲しくなるね~ねぇミコちゃん?」
「能無し・・・・・・?」
まだ削ってきますか。この娘は何処で間違えたかな~教育方針やっぱり母親が・・・・・・いややめようむなしいだけだ。
「すいませんね能無しで」
「甲斐性なし・・・・・・」
謝ったのにこれですかまったくまぁいつもの事ですからイイですけど。
仲良し親子の会話はこれ位にして。
「うちの従業員たちは何してるのかな?俺より遅く来るなんてとんだ重役出勤だことで」
「みんなは働いてお金稼いでるからいい・・・」
「・・・そうなんだけどね。誰も報告もしてこないのは良くないとパパは思うんですが」
「連絡はきてる・・・私の方で処理しただけ」
え!何それ、まったく聞いてませんけど。
俺一応ココのトップ・リーダー・ボスのはずなんだけど。
「そうなんだ・・・」
ミコちゃんはやさしいなパパの仕事を軽くしてくれる為に代わりにやってくれたんだ。
「そうなんだ。ありがとね~でもさ提示報告なんだからパパにも教えてくれないと、困ると言うかなんというか・・・ね~?」
「チッ」
ん?今舌打ちした?この子もう親にする態度じゃないよ。
「和泉ネエ達は、昨日で依頼は完了。で、昼頃和泉ネエだけ来る。キヨとトラさんはいつもどうりマサはそろそろ来る」
「あっそ、ホントあの二人は和泉に頼りすぎだな、報告ならトラがやらないといけ・・・」
「ムリ」
「ですよね~。はぁ~」
「そういえば今きてた依頼って幾つだっけ?」
「五件。うち二件は和泉ネエ達が完了済み。あと二件はマサの報告待ち、残りは保留中」
「あれか~あんなのじゃなくもっとデッカクていい仕事来ないかね~」
「無いよりまし」
「ですよね~」
■ ■ ■ ■ ■
「
「そのまんまの意味だバカ」
「だからちゃんと説明してください!」
この人がこうなったらもうダメだ。いつもならゴリ押しすれば嫌々でも説明はしてくれた。でも今回は無理だろう、この人の下に付くようになってから分かったこと鎬さんがバカと言ってくる時はなにを聞いてもダメな時だ。
「わかりました。もう聞きません」
「わかりゃいいんだよ。わかりゃ」
鎬さんがどうしても教えてくれないときは大抵周りの人に聞けば、『アイツにはまだ早い』とか『今回のヤマはアイツにはキツ過ぎる』だとか、優しさなのか子供扱いしてるのか聞き出したこっちが少しムズ痒くなってしまう。
でも今回はそうじゃない。周りの人に聞いても、あの人の言う事に従え。わからない。鎬さんが口止めしてるとしか考えられない。
「直接本部に聞きにいきます」
「オイ!」
大声を上げられて反応が遅れてしまった。
鎬さんがもの凄い形相で詰め寄ってきた。
「本部に行ったところで同じだ!話も聞かずに追い出されるのがオチだ。このまま刑事を続けるなら俺の言う事を聞け」
鎬さんのここまで必死な顔を見たのは初めてだ。いつものんべんだらりとして、処構わずタバコを吸っている掴みどころのない人なのに、こんなに感情を露わにするなんて。
「でも・・・」
「でもじゃねんだよ、お前みたいなのは上の人間の言う事聞いてればいいんだ。それでも納得いかないなら辞表を出してとっとと辞めちまえ、お前の代わりはいくらでもいるんだからな。」
辞表を出してとっとと辞めろ・・・これもこの人のやさしさの一つだ。こういう時は大抵何か逃げ道を用意している。
「勝手な事しないように俺の机の片付けでもしてろ」
「俺の顔が映るくらい綺麗にしとけよ・・・」
「で、意味深なメモがあったから書いてあるとおりの場所に来てはみたものの・・・」
珪の見つけたメモに書いてあった場所にはテナント募集の貼り紙だらけの廃ビルと見間違うような建物しかなかった。勝手にメモを見てきてしまったけど、珪は後ろめたい気持ちでいっぱいになっていた。
「なんか帰りたくなってきた・・・」
借りてる店舗は一つだけみたいだし・・・入るの勇気いるな~。今更だけど鎬さんの持ってたメモだし、ヤバめな自由業の会社とか名前だけのブラックな企業とか・・・考えるだけで気がめいってくる。
「行くだけ行ってみてダメそうなら帰ろう」
目的の場所はビルの三階、でも珪の足取りは心なしか重い、エレベーターは付いてるけど三階だからと階段で行こうとしたのが間違いだった。変な所だ。各階ごとにあれは
「考え事してたら着いてしまった」
もしもの時のために拳銃の携帯許可は貰って持っては来たけど・・・ここ何て読むんだろう、かし?
この扉を開けたら見たこともない世界でした。て、ファンタジーじゃあるまいし、でももしかしたらそうかも知れない。何て事を珪が考えているその扉の向こうでは・・・
「ミコちゃん、あの人ウチに用があるのかな?」
「・・・・・・?」
「なんか怖いから警察呼ぼうか」
がっつり気づかれていた。しかもこのままでは警察が警察の御厄介になってしまう、なんともややこしい話になる。
それもそのはず、珪がここに来てからかれこれ10分以上たっている、安綱達に不審者扱いされても仕方がない話だ。でもそんなのお構いなしなのがミコちゃんだった。早足にドアまでむかい勢いよく・・・
バン!
開け放った。
「・・・何か御用ですか?」
御用も何も、珪は勢いよく壁にぶち当たっていた。ミコちゃんお客さんだったら大問題、
お父さん内心ドキドキものだお。
「あのー大丈夫ですか。うちのギルドにごようで?」
思いっきり気絶していた。そりゃそうだ若干ドアが凹むくらいの勢いで開けたのだ、ミコちゃんあきらかに狙ってやったんだろうなー。とりあえず中に運び込んで目が覚めるのを待つことにしますか。
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