第10話:佐藤刑事は相棒が欲しい
「それでさっきの話の続きなんですが……」
「どうして自分みたいなこれといった業績もあげていない下っ端刑事が
なにもそこまで悲観的に思ってはいないのだが…と喉元まで出かかった言葉を必死の思いで飲み込んだ佐藤刑事は口角をひくつかせながら平静を保とうとする。
とはいえたしかに疑問に思っていなかったわけではない。
なんせ
壁というのは心の距離や意思疎通といった不確定なものではない。
それは種族的な壁という望む望まずに限らず彼ら
いくら人間との親交を快く思っていようと害を及ぼす気がなかろうと彼ら
そんな
考え方としては手に負えないとんでも能力をもった赤ん坊を一人前の大人に仕上げるという感じだ。
そこらのベテランお母様方でさえ手をあげそうなこの
内容は言葉の通りで、
もちろん特別な力をもつ
しかしながら上記の内容から分かる通り、その責任はあまりにも重い。
よってせっかく出来た
そんなそこらの重りよりも重い責任を背負わされつつある佐藤刑事を、しかし西内警部は楽しげに見つめる。
「答えは簡単。それが上からのお達しだからよ」
「上からのお達しって……俺クレーム的なものしか聞いたことないんですけど?」
「そう、そのクレーム的なものが君を今回の
え?となに1つ理解出来ていないアホ面の中年をおいて西内警部は淡々と言葉を吐き出していく。
「君が前々から指摘されていたのは
「そりゃ、あいつらにも理由や思うところがあってのことですし…それに未解決で済ませたやつだってそれはもう事件を起こす可能性がなくなったからであって……」
「ええ分かってる分かってる。それが真実だということも間違いじゃなかったということも」
でもね、と西内警部は区切りを入れる。
「君のその行為が真に納得のいく結果なのかと言われればそれはNOなのよ」
「……事件を起こした
「違うわよ。私が言いたいのは君の行為そのものを周りの連中に納得させられる安心材料がないってこと」
さりげなく発せられた安心材料という単語に首をかしげてみせる佐藤刑事。
対して西内警部は変わらぬポーカーフェイスで指先だけを楽しげに横にゆらしている。
「ようは同じ行為をするにしてもそれを行う個人の価値で物事の解釈は変わっていくのよってこと」
考えてもみなさいと西内警部は出来の悪い生徒をあやす教師のような口調で話を進める。
「これといった実績をもたない君と世界を救った英雄。この2人が事件を起こした
「それは……まぁ…後者ですよね」
「そうでしょ?つまりなにを言いたいかっていうと上層部はあなたのその行為に不信感をもっているってわけ。その後問題が起こってないのが唯一の救いだけど、もし仮に今後問題を起こし続ける
「…う………ッ…」
ぐうの音もでない完璧な論破に顔色を苦いものへと変える佐藤刑事。
考えてみれば当然のことだ。
たいした実績もあげていないのにもかかわらず自分の自己満足に近い同情や慈悲の念に従って行動していたというのだからむしろ今の今まで大きな問題にならなかった事自体が奇跡的なのだ。
もしかしたらそこには西内警部を含めた自分の上司がなんとか場をとりつくろっていたという経緯があったのかもしれない。
兎にも角にもあまりにも身勝手な行動に遅れながらに反省する佐藤。
「君の刑事としての評価はとても低いけれど佐藤 剛個人の評価はすこぶる高い。取り除くことは簡単だけれどそれは惜しい。そんな調子で今まできたわけなんだけどいよいよそうもいかなくなってきてね。そこで提案されたのが
「…えっと……何がどうなってそんな提案をする事に…?」
「君も知ってるとは思うけど
「これからも今まで通りのやり方で
「そういうこと。君としても今から事件を起こした
佐藤刑事は思う。
西内警部の提案通りにサクラと
だが、それは単に自分のやり方を強引に貫き通しているだけではないのだろうか?
というのも
しかしながらサクラにもサクラの世界がある。
もっといえば彼女が佐藤刑事のやり方を貫くために生贄になる必要は何1つないのだ。
「そもそもどうして俺の
そういって視線をサクラの方へと移すが、肝心の当人はというと佐藤刑事に頭を撫でられてご満悦なのかなんとも腑抜けた表情をしており、表現としては心ここに在らずというものがぴったりと当てはまる。
お前の話をしているんだぞ?と目線だけで伝えようとする佐藤刑事だが、頭がお花畑の金髪少女にそれが伝わることはない。
「なによ佐藤君、その子が
「いや不満とかそういうのじゃなくって、どうして数ある
佐藤刑事のこの質問に西内警部は『ふむ……』と少々真面目な顔つきになる。
「その子がバンパイア型の
「ええ、まあさっき本人からも少し聞きましたから……それが何か?」
「じゃあ君はバンパイア型の
「凶悪?こんな頭撫でられたくらいで人の話も聞かなくなる程リラックスしてるこのアホバンパイアが?」
改めてサクラを見てみる佐藤刑事だが、相も変わらずその顔はアホ面と呼ぶにふさわしいものとなっている。
というかそもそも頭を撫でられたくらいでここまでなるか?と思う佐藤刑事であったが、バンパイアは全ての感覚が人並み外れたものとなっている為、快感という感覚もまた人並み外れたものになっているのだ。
その為多少他の人よりもオーバーな反応になってしまうわけだが、感覚が鋭すぎるというのも一見便利なようにみえてよくよく考えれば不便な面も多い性質のようだ。
しかしそれらを踏まえてもなお彼女が危険な存在だとは到底思えなかった。
「
「それはそうですけど…そもそもバンパイア型の
もし西内警部が伝承やおとぎ話の影響でそんなことを言っているのだとしたらそれはとんでもなく愚かな行為だ。
しかし次に西内警部の口から発せられた言葉はそんな書類上のものではない現実味溢れるものであった。
「………バンパイア型の
「それはどうして…?」
佐藤刑事の問いかけに西内警部はサクラの顔を見た後、言いにくそうな顔で重たい口を開いた。
「バンパイア型の
だから、と西内警部は続ける。
「そんな危険な
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