第4話:金髪少女は刑事を助けたい
まずい。
そう思った頃には既に手遅れだった。
「はい!チェストーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
グシャッ!!と。
生き物の肉が潰れるような嫌に生々しい音が空中を漂う。
その音の発信源は佐藤刑事ではない。
もちろんそんなことを言えるくらいなのだから佐藤刑事の体が鋭利な何かによってズタズタのボロボロに切り裂かれるということはなかった。
それは自分が無事な理由と音の発信源が何なのかということを十分に述べれる光景。
佐藤刑事が見たことを端的に述べるのであれば、それは流れるような一撃だったということである。
今の今まで明らかに優勢にたっていたはずの
たったそれだけの事が佐藤刑事を危機から救い同時に襲撃者たる
問題なのはその第三者が誰なのかということであるがそこに関しても佐藤刑事は飽き飽きするほどスローモーションな世界でそれをしっかりと確認していた。
くすみがかった長い金髪の活発そうな顔立ちをした制服姿の女の子。
佐藤を救ったのは何を隠そう先ほど自分をこの現場に呼んだ金髪少女だったのだ。
「ごえ……っ!?」
蹴られた
人間でいうところの驚愕という感情を含んだ悲鳴を短くあげた後、蹴られた勢いそのままに身近にあった店内へとその巨体を吹っ飛ばされて突っ込んでしまう。
「え、は、お、ん、えぇ?」
対して佐藤の方も感情的には蹴られた
ろれつのまわっていない酔っ払いのように何とも解釈しづらい言葉を単体でボロボロと口から漏らしてしまう。
そこにあるのはシンプルに理解できない事柄に関する疑問の提示だ。
たしかに活発そうな女の子だとは思っていたが、いくらなんでも佐藤よりもひと回りもふた回りも大きい
いや、そもそもにおいてある
佐藤は視線だけを金髪少女にむけて何かしらの応答を求める。
すると金髪少女はまるで何事もなかったかのような余裕たっぷりの表情で、
「もー、おまわりさん危ないよー?あのままいってたら首チョンパされそうだったから観戦者ポジションだったウチも思わず助太刀しちゃったじゃんかー」
あ、もしかしてやっぱり
「え、と……お前、何か格闘技でもやってたのか?」
「そんなのするわけないじゃーん。ウチはこれでも花も恥じらう乙女だよ?格闘技なんてしてたらこの綺麗で美しいおみ足に筋肉美という別の美が芽生えちゃうよー」
「じゃ、じゃあさっきの蹴りは偶然ってことか?」
「んー……そこまで動きも早くなかったしタイミングをあわせる位なら簡単だったから適当に蹴っちゃった」
「あ、あれが簡単……?」
プロの目からみても無理難題ともとれる荒技を簡単や適当にといったナウい理由でやり遂げてしまった金髪少女に思わず口角がひきつる。
まさかこんな少女に身体能力で劣るような時がくるとは。
やはり三十路となると若い頃のようにはいかないものなのか?と色んな意味で焦燥感にかられる佐藤 剛。
そんな佐藤の顔を面白そうに眺めていた金髪少女はやがて耳をピクリと動かし目線を別の方へと向ける。
金髪少女の視線の移動につられる形で、どこか落胆したようにも見える三十路のおじさん刑事もその後を追う。
ちょうど佐藤の視線が金髪少女の見ていた方向、もとい彼女が
「ガッ……アァァァァッ!!!」
突如として獣じみた雄叫びが2人の全身に浴びせられ、それと共に崩れかけの店内を更に荒らしに荒らすバイオレンスな騒音が商店街を満たしていく。
「なんだアイツ…蹴られたことに対する腹いせか何かか?」
「ウチ知ってるよ。ああいうのって更年期って言うんだよねおまわりさん?」
「まるで俺がその時期を熟知しているみたいな言い方をしているが俺はあいにくとまだそんな歳でもないし更年期はあれよりも更に上をいくってことだけを教えておこう」
そう言いながらも佐藤の頭には疑問があった。
それは腹いせとして店内を荒らしているという人間的な行動心理を好戦的な
もちろん
同じ腹いせというものをするのであればまず先に自分に害をなす行動をしかけてきた存在に対して攻撃をしかけるというのが一般的だ。
しかしこの
「…………………」
佐藤刑事は少し真面目な顔をして相手の様子を詳しく観察する。
黒いローブを着ているのだからはっきりと外見はわからないではないかと他の人は言うだろうが佐藤が観察しているのは見た目についてではない。
商店街にある店はたしかに暴れている
「(店を荒らしてるって言ってもどうやら商店街にある店を片っ端から壊してるってわけじゃなさそうだな……)」
破壊されていない店の種類は服屋や文房具店といったどれも同じカテゴリには属さないものばかりで共通するものがなんなのかはパッと見の状況では理解できなかった。
続いて破壊されている店についてだがこれに関しては本当に分からない。
飲食店かと思えば壊されなかった店とは別の服屋だったり薬局だったりと、とにかく一貫性が見受けられなかった。
となるとやはり単なる好戦的な
「(…………いや、違う。共通点はある)」
一見何もなさそうに見える状況だが、たった1つだけ共通するものがあった。
それは荒らされている店内に置かれているものだ。
カテゴライズさて違えど、どの店にも共通しているもの。
それは、
「グォルアァァァァァァァァアッ!!!」
一段と大きな叫び声がぐちゃぐちゃに荒らされた店内から放たれ、それが佐藤の頭をぐちゃぐちゃにかき乱していく。
眼前で大太鼓を力一杯叩きつけたかのような重い音の衝撃が腹部をビリビリと刺激する。
獣じみた咆哮が途切れた時、今度はゴミ屋敷と化しつつある店内から先程金髪少女に蹴り飛ばされた
おそらく蹴り飛ばされて店内に吹き飛ばされた時にどこかに引っかけたのだろう。
さっきまで全身を覆い隠すようにまとっていた黒いローブは胸元の辺りから大きく引き裂かれており、それによって先程まで見ることが出来なかった顔がようやっとむき出しになる。
きゃっ……という女性のものらしき悲鳴がまだ避難しきれていない人だかりの中から聞こえた。
理由はなんとなくだが察しがつく。
大方、人間だと思っていた犯人の顔が鋭い牙に爛々と光り輝く両眼をもった狼とうり二つの顔をしていたからだろう。
「わわっ!オオカミ男型の
「ああ俺もだよ。半人半獣ベースの
っていうか驚かないの?という視線を金髪少女に送ってみる佐藤刑事であったが、当の本人はというと猫のような目をキラキラと輝かせてレアアイテムをゲットした子供みたいな反応をしているようなので恐らく驚いてはいないだろう。
本当に無駄に肝っ玉が据わっているなと思いながら佐藤は正体を現したオオカミ男型の
「安心しろ俺は敵じゃない!下手に争い事なんて起こしたくないのはお互い様だろ?俺は単純にお前と話がしたいんだ。その上でこいつが邪魔だっていうならお前の好きにしろ」
そういって佐藤は唯一武器らしい武器であったフリントロック式の拳銃をオオカミ男型の
放り投げられた拳銃は地面を滑ってオオカミ男型の
「ちょ!?おまわりさん何しちゃってんの!?あれないとおまわりさん何も出来ないじゃん!!」
「なんで銃ありきみたいになってんだよ。あんなもん別にあってもなくても一緒みたいなもんだ」
「ウッソだー!だっておまわりさんって拳銃と一緒についてきたオマケみたいなものでしょ!?」
「人をどこぞのハッピーセットみたいに言ってんじゃねぇよ!!こちとらいつだってメジャーなラージバーガー狙ってんだっての!」
「そんなこと言って、さっきウチが助けなかったら今頃首チョンパだったじゃ…って痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!!なんでそんな有無をいわさぬ連続チョップを無言で繰り出すのーー!?」
これ以上金髪少女に好き勝手に言われてしまうとなんだか刑事としてのプライド的問題もそうだが人として大事なものまで損失してしまいそうだった佐藤は金髪少女に鋭いチョップを繰り出しそれ以上の発言を強制的に終了させる。
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