第3話 さらば、シューゾー

「表向きは婚活などと言っていますが、これは完全な侵略行為です!」

 会議室のスクリーンに映し出されるシャラ皇女の戦いの数々を、銀縁眼鏡の男(三十歳。独身)は侵略だと言い切った。


 時はすでに流れて同年、夏。

 シャラ皇女が地球を訪れて約四ヶ月。しかし、その四ヶ月で地球にある変化が起きていた。

 ぱんつから解放された女性の台頭である。

 最初は誰もが半信半疑ではあったが、穿いてない女性たちから

「手先が器用になったよ!」

「ステルス機能がついたッス」

「裏鬼門、行きますよー」

「確かにミスが減ったような気がしますが、そんなオカルト、私は……信じるかも」

「東場で強くなったじぇ!」

「嶺上開花! 麻雀って楽しいよねっ」

 と、その効果への喜びの声が続々と寄せられ、年頃の女性を中心に大ブレイクした。

 また同じくして「スカートをめくった男性との結婚」「失敗した男は奴隷」という常識も浸透。

 奴隷になった男性が増えるにつれて、懐かしい「アッシー君」だの「メッシー君」だのという言葉も復活した。


 この一大ブームの背景には、勿論シャラ皇女の婚活がある。

 意外にも皇女への挑戦者は後を絶たなかった。敗北すると異星での奴隷という厳しい条件がかえって地球人男性の魂に火を付けた、というのが表向きの見解である。

 しかし実際のところは「シャラ皇女のスカートの中を覗きたい」という男性が持つ本能的なところが大きいのは語るまでもないだろう。

 挑戦者は一般人から一流アスリートまで様々で、シャラ皇女は誰一人として拒まなかった。

 そしてついには太陽の現人神・シューゾーまで参戦するに至る。得意のテニスで、打倒シャラ皇女に燃えるシューゾー。目指すはアンスコを穿いていない下半身だ。

 シューゾーの炎のサーブに、やはりスカートを微塵も揺るがさず打ち返すシャラ皇女。弾き返されたボールはシューゾーの顔面をめがけて一直線。あわやというところでかわしたシューゾーは冷や汗をかきつつも「まだまだこれからぁぁぁ! 諦めないぞぉぉぉぉ!」と気合を入れるも(なお、この時、日本全土の平均気温が四十度という異常気象を観測する)、

「残念ですが、これでおしまいです。私の弾丸は決して貴方を逃しません」

 皇女の一言と共に通り過ぎた筈のボールが急旋回しながら上昇、成層圏にまで達したかと思えば、シューゾーの脳天へレーザービームの如く舞い戻り、かくして試合(皇女曰く「テニヌ」)は終わった。

 おかげでこの夏、日本は快適な温度の夏を過ごしている(ありがとう、シャラ皇女!)。


 と、まぁ、それはともかくとして。

 ぱんつを穿かない女性たちによる男性のぷち奴隷化、さらに地球上から男性が毎日少しずつではあるが確実に奴隷としてシャラ皇女の星へと送られている現状に、国連などでは「これは侵略行為ではないのか?」と議論されているところである。

 が、先の「侵略行為だ」と発言した眼鏡男は、国の代表者でもなければ、国連関係者でもない。

 そもそも場所もジュネーブではない。

 今、会議が行われている場所は日本の古都・京都。

 ここに女性下着のトップメーカーがある。

 男はそこの社員であり、侵略とはつまりは「シャラ皇女のせいで穿かない女性が急増。女性用ぱんつが売れない!」ってことであった!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る