第2話 ぱんつはリミッター!?
宇宙は広い。
そんな広い宇宙だから、中にはぱんつを穿かない宇宙人もいるだろうとは思われていた。
が、実際は逆だったのだ。
「ぱんつとは主に男性用の下着のことです。女性は一定の年頃になれば穿かなくなるのが、宇宙での常識なのです」
嗚呼、なんという……地球よ、宇宙はエロかった!
男たちの頭の中に、今度は妄想という名の花が咲く……。
「でも、どうして女性だけぱんつを穿かなくなるのですか?」
「良い質問です。さすが地球でも女性のほうが男性より聡明ですね」
問いかけた女性に、シャラ皇女がニッコリと笑う。
かくして本来ならおおっぴらに口にすることではありませんが、地球人も知っておくべきですのでお答えしますと前置きをしたうえで
「何故ならぱんつとはリミッターだからです!」
と、驚くべき宇宙の真理を話し始めるのだった。
自分自身の体を守るため、人は本来持っている力の二割程度しか発揮できない。これは地球人も知っている有名な話だが、実はぱんつもそのリミッターの一翼を担っているのだという。
「男性はそれでも日常生活には問題のない力を出すことが出来ます。が、女性は違います。地球の女性も感じたことがあるでしょう、男性との力の差を」
うんうんと頷く女性たちに、シャラ皇女もさもありなんといった表情。
「ですから女性は力の制御を覚え、ぱんつという制約から解放される必要があるのです」
ちなみに力の制御方法は、保健体育の授業で、女子だけ集められて教わるのだそうだ。
「しかし、だったらどうして男子も教えてもらえないんですか? 男子がバスケやサッカーをしている間に、そんな重要なことを女子だけに教えるのはズルくないですか?」
「なるほど、男性の方がそのように主張されるのも分からなくもありません。が、残念ながら男性は、ぱんつから解放されない運命にあるのです。なぜなら……」
「なぜなら?」
「男性は女性と違ってスカートではなく、ズボンを身に纏うからです。男性の方がのーぱんでズボンを穿くと、どのような悲劇が生まれるかは……私が言わなくてもおわかりでしょう?」
お、おう、たしかに。にょろりと伸びたアレがチャックに挟まれるのを想像するだけで背筋に冷たいものが走る。
「そ、それでもジャージとか危険性のないズボンを穿けば……」
「ええ。仰るように普段はラフな格好でいいでしょう。しかし、結婚式や公の場では、そうもまいりません。その時だけぱんつを穿けばいいと思われるかもしれませんが、男性にとって解放されて得た力は、もう二度とぱんつには戻れないほどに魅力的だと言います。結果、ぱんつを穿かないままスラックスに足を通し、解放された力でチャックを押し上げて命を落とす男性が後を絶ちません」
悲しいことですとシャラ皇女。
その憂いの表情に「アレを挟んだだけで命を落とすんですか?」とツッコミを入れることは誰にも出来なかった。
「さて、話が逸れてしまいましたね。とにかく、私たち女性はぱんつから解放されることで、『力』を……『自分の身は自分で守ることのできる力』を手に入れるのです」
自分の身を守るための力を手に入れる、これは理解出来た。
が、その為にぱんつを脱ぐってのは……かえって危険すぎるのではないだろうか?
「ですが、いくら力を持っても女性はやはり女性です。結婚する男性には強くあって欲しい。ですから、私たちは殿方を受け入れられる準備が出来れば、自分の力に合わせてミニスカートを身に纏うのです」
しかものーぱんでありながらミニスカート! もはや男性を誘っているとしか思えない。
あ、もしかして男性の強さってのは、つまりはそういう……。
「と、このような説明をすると、下品な星の殿方たちは勘違いして一斉に襲いかかってきたものですが、さすがは地球の男性の方々は紳士ですね。ええ、そのようなエロマンガみたいな理由はありえません」
ですよねっ! はい、勿論そう思っていましたとも!
「先に私たち女性が力の制御を学ぶと話をしましたが、最初に教わるのがスカートを意のままに操る力です。何故ならぱんつから解放され、スカート一枚になった私たちは、それでもかの部分を死守しなければなりませんから」
そして基本こそが究極という言葉の通り、スカートをいかに上手く操れるかが全体の力に繋がっており、強い力を持つ者ほど丈が短いスカートを穿く栄誉を授かるそうだ。
「ですから、男性の方が私たちよりも強い力を持っていることを証明するには、相手のスカートの深遠を覗き込めるかどうかが一番手っ取り早いわけで、いつしかそれが永遠の契りを結ぶ儀式へと昇華したのです」
「永遠の契りを結ぶって……え、まさか?」
「ええ、結婚です」
にこやかに首を縦に振るシャラ皇女に、地球人は驚きを隠しきれない。
(な、なんだってー!?)
(つまりはスカートの中を覗いた人と結婚します、ってことかーッ!)
(さすがは宇宙、深い、深すぎるぜっ! ああ、これは決してエロマンガなんかじゃねぇ! 敢えて喩えるならこれは、少年誌のお色気担……)
「えー、ホンマでっかー!?」
と、そこへ東京・お台場にも関わらず、関西弁の男がシャラ皇女へと近付いていった。
出っ歯が特徴的な、細身の中年だ。
「あんさんのスカートの中を覗いたら結婚してくれるんでっか!?」
「ええ、それが宇宙のしきたりなのです」
シャラ皇女が「ただし」と続けようとする。が、
「ほな、若い宇宙人のお嫁さん、貰(もろ)とこ」
皇女の話に聞く耳持たず、中年男性の右手がするすると伸びた。
目指すは皇女のおしり。
言うまでもなく、スカートを捲ろうとしているのであるが、しかし、なんと自然で、隙のない仕草であろうか。まるで普通の挨拶をかわすかのようで、特別気負った様子も見られない。
この男、さぞかし名のあるエロ中年に違いない……のだが!
「……はひ!?」
「いけませんよ。人の話は最後まで聞かないと」
マヌケな声をあげる男に、シャラ皇女がメッと人差し指を立てて、顔を少し傾けた。
「って、違うぞ! 人差し指だけじゃない。人差し指と中指の二本を立てて、何かを挟み持っている!」
「あ、アレは……あの白くて、固くて、芸能人の命と呼ばれているアレは……!」
男が悲鳴をあげるのと、皇女がスカートを死守しつつ、素早く抜き取った男の出っ歯を地面に落とすのはほぼ同時だった。
そして
「き、消えた!」
「中年男が消えたぞ!」
突如として中年男が消え去って、場は騒然となる。
それでもシャラ皇女は笑顔を絶やすことはなく、話を続けるのだった。
「相手の力を見誤り、深遠を覗き込むのに失敗した男性には、ペナルティが下されます。先の男性は奴隷になる為、私の住む星に転送されました。なに、ご安心下さい。私に相応しい殿方が現われれば解放されるようになっていますから、決して永遠に奴隷として働くわけではありませんよ」
そんなことを言われて安心できる人なんているだろうか? なんせシャラ皇女、相応しい相手がなかなか見つからないだの、親にも結婚を心配されているだのと、自分から言っていたじゃないかっ!
「さぁ、地球の男性の皆さん、私の深遠をどうか覗き込んでくださいまし!」
しかし、地球人の不安を完全に無視し、シャラ皇女は上品な微笑を浮かべて再度深くお辞儀をするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます