エピローグ
深夜、城にて
独り、ベッドから抜け出してバルコニーに出る。
気候もよく、薄手のガウン一枚であっても夜風は冷たくない。
城下では篝火が焚かれ、一昼夜問わずお祭り騒ぎだ。
俺は備え付けられているロッキングチェアに背を預けた。
「おめでとうございます。コウイチ様」
ぎい、と椅子が軋むのと同時に柔らかく優美な女声が隣からする。
「ありがとよ」
俺は顔を向けず、言葉だけ返す。
「あら、驚かないのですね。完全に気配を消していたと思ったのですが」
「驚かねえよ。第一、結婚式に擬装もせずフツーに居たじゃねえか。」
「あら、あら。目の前の幸せに気を取られて、てっきり気付かれていないかと」
「気付いてなければこんな夜更けにわざわざ一人になるかよ」
それもそうですね。と女性はくすりと口角を上げた。
「それで何だ? また契約の催促か?」
「いいえ。本日はお祝いと致しまして、このような物をお持ちしました」
女性が掌を広げると、そこにあったのはブリキの小さなケース。彼女はそこから一本、紙の筒を取り出すと俺に差し出した。
「煙草か」
「葉巻はお好みになられないとお聞きしていましたので」
「こっちも余り好きでは無かったがな」
俺はそれを唇に咥えると、彼女が魔術的な火の灯った指先を差しだした。
火の向こう側では、黒巻の二本角が生えている金髪の女性が怜悧な瞳でこちらを見ていた。
煙草に火を点け紫煙を吸い込む。吸った事のあるフレーバーが口腔を抜ける
「どうでしょうか? コウイチ様の故郷にあったものを再現したのですが」
「上々、よくやった。葉巻も作ったのか?」
「はい。葉巻の方は好事家の貴族たちに卸して流通させています」
「よろしい。庶民には手のでない価格にしていてくれ。こっちの煙草もな」
「承りました」
暫く、俺は煙草をくゆらせぼんやりと夜空を見上げる。
「あと3年だ」
「はい」
「あと3年でお前たち“魔王の遺子”を表舞台に上がらせる事ができる」
その土台作りのためにアールには王都内部で暗躍させ、リカルドには王都外の貴族たちへのけん制をさしている。
「契約は、果たす。必ずだ」
「……はい」
感慨深そうに彼女は、“魔王の遺児”の一人である彼女は小さく呟いた。
~第一部・完~
恋人は婿養子(予定) あぷちろ @aputiro
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