第14話

 目標破壊一。これが私の戦果で、

 標的排除五十。これがコウの戦果。

 私は動かない的でコウは動く人間、しかも専用弾のアシストなしにほとんど百発百中で敵兵を排除したのだ。私は、私自身の手でエリカを助けれたのだからこの戦果には満足している。

 でも正直、カレの非常識さにはほとほと呆れ果てたし、それが彼がアールやリカルド、そしてエリカと肩を並べられる所以なのだろうと納得もした。

 でも、作戦司令官たちの目の前で見栄を張った手前、従者よりも戦果を出せなかったというのは恥ずかしくてお嫁さんに行けない。いや、コウかお嫁さんに貰ってくれる算段だからそこはそれほど悲嘆しなくても良いか。

 狙撃地点から戦闘が終息するまで待ってから私達は下山した。アナンナ軍の駐屯地で肩身の狭い思いをしていたリッテルトさんとその相棒メヌエットに拾ってもらい、エリカが待っているであろう掃討軍の本陣へと帰還した。もちろん彼らへの労いの言葉は忘れずに、特にリッテルトさんの相棒には果物の追加報酬も。

 メヌエットの背中にしがみつくこと数時間、ゆっくりとホバリング飛行をしていたメヌエットが着地する。

 私は彼の鋭利な爪が地面に食い込むより早く背中の上から飛び降りた。


「おい! 怪我するぞ!」


 コウの軒並みな忠告を目配せだけで軽くいなして一直線に地を蹴る。目的地は救護テント、そこに私の親友がいるはずだから。

 一目散に私は本陣内を駆け抜ける。道すがら一般兵士には珍しいものを見るような目を向けられ、作戦の詳細を知っている将校からは敬礼をされた。私はそれぞれを無視したり軽く目礼したり簡単に対応しながらも小走りで駆け抜ける。

 黄色をした救護の天幕前まで来ると足を止めて息を整える。入口が大きく開かれた天幕の周囲には負傷をした兵士たちが悲壮なうめき声をあげ、自分の怪我の大きさから逃避する為なのか笑い声や意味のない軽口が聴こえてくる。周囲は血と泥と消毒液の臭いが充満し、医者や治療術士たちが忙しく駆け回っている。

 私はその忙しそうに動きまわっているうちの一人に声をかけた。


「ねえ、エリカ……“炎血の魔女”エイリーシャはどこにいる?」


 声をかけられた十代にも見える男性治療術士は一度うっとおしそうな眼を向けながらも不愛想に天幕の奥を指さした。


「ありがとう。頑張ってね」


 私は彼の背中を二度ほど叩き、天幕の中に入っていく。

 天幕内はもう一つの戦場、と言い表すのがしっくりくるくらい怪我人で埋め尽くされ、饐えた臭いが鼻をつく。

 私はあまりの臭いと飛び交う罵声と叫び声に眉を顰めるも、エリカを探すため目を皿にして奥へと進む。縦に長い天幕の奥に進むにつれて叫び声も少なくなり、治療に従事している人の数も減っていった。

 その最奥くらいで、よく聞きなれた声が私の耳に届く。


「これはダメだ死んじまう! 丁度そんときにな神サマからの贈り物が届いたンだよ」


 私は声のする方へ足を運ぶ。声の主は隣で甲斐甲斐しく世話をしている女性に自分の功績自慢をしているようだ。


「この二つの耳が、微かだったが、結界の要が壊れる音を拾ったんだ。そりゃあもうアタシは死に物狂いで全魔力を絞りだした!」


 看護している女性はそれを話半分に聞き流している。ベットの上で滔々と語るその人物はそんな彼女の態度も気にせずに話し続けている。


「エリカ!」

「ンだよ、いいとこなのに……ってルエルじゃん。久しいな、元気にしてたか?」


 声の主――エリカはやつれているものの、いつもの飄々とした口調で私に笑顔を向けた。

 私はこんな場所でも女の子を口説いているのかだとか、お嫁さんがいるのによく口説けるな、とか後でマリィに言いつけてやるだとか、そんなことは頭の端に追いやって。彼女へと飛びついたのだった。


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