第5話
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少し、思い出話をしているとコウが何気なく話題を転換する。
「そういえば、アイツは今何をしてるんだ?」
「今は王宮付きの上級神官を任されているみたいよ」
「王都に出向になったとは聞いていたが、またずいぶん出世したな」
「だって表向きは魔王を討伐した英雄様よ? 賄賂に
「あー、……」
王都の政治は今も昔もそれなりに腐敗したままだと聞いてる。王様も変わってないから当然といえば当然なのだけれど。
「彼としては説法が出来たらそれでいい、みたいなのだけれど」
コウは
「アイツらしいな」
「うんうん。アールらしい」
「つーことは、今向かっているのは王都か」
「その通り! ……って今まで気が付かなかったの」
てっきり、私はアールの所在地を知っているから目的地まで分かっているものだと思っていたので彼の発言には心底驚いた。
「しょうがねえだろ。道を覚えるのが苦手なんだからよ」
「どう見ても交通量が増えてると思うんですけど!? でも、便利になったものね。ルカエルから王都近郊まで1週間かかっていたのに3日で行けるようになっているもの」
「前は魔物の巣やら深淵やらを避けて遠回り、回り道だったもんな」
私はコウの言葉に頷く。以前とは違って進みが違うのだから道が分からなくても仕様がないだろう。彼の名誉の為にもそういう事にしておこう。
「ほら、コウ。前見て」
そうこうしている内に、道の先に私たちの第一目的地が丘陵線上から見えてくる。私は後ろで寝そべっているコウに前に来るように促す。
コウはその光景に一瞬、息を呑む。しかしすぐにいつもの彼らしくとても現実的なコメントをする。
「当然だけど、ここはマジで変わんねえな」
もうっ、ホント色気がないんだから。
王都ツゥラカランは私たちの住む国、ラーヤレガスの首都だ。周囲を森と小高い丘で囲まれた盆地に建物が所狭しと密集している。丘の斜面にはこの国の王城と高級住宅地が横に広がり、麓には商店や酒場が多く店を構えている。街並み自体は変わらないものの、2年前にはなかった活気に満ち溢れている。大通りは人や荷馬車が行き交い、道路が繋がる広場ではジャグリングやアクロバットをする大道芸人、その芸に楽しむ観光客や通行人、溌剌とした声で客を呼び止めて新鮮な果物やアクセサリーを売る露天商で賑わいを見せている。私たちは人と荷馬車がごった返しにになっている街の中心部を抜け、高級住宅が並ぶ道をきょろきょろと辺りを見渡しながら進んでいた。
「確かこの辺りのはずなんだけど……」
王都にあるとされている我がフリージア家の私邸を探し、私はきょろきょろと辺りを見渡す。一応、私たちも王国の一端を担う領主の一人なので、私邸が王都に構えられているはずなのだ。上手くいけば滞在する間の宿代を浮かすことが出来るはず。そんな貧乏性な思考の元、どうしても探し当てたいのだ。
「何か目印とかないのか?」
御者台の隣に座っているコウがこの区画を書いた地図を広げる。
「たぶん門の所に家紋があるはずなんだけど」
どこの通りも似たような邸宅が密集していて捜索に難儀しているのだ。
「アレじゃないのか」
地図とにらめっこをしていたコウが貴族たちの私邸に交じって佇んでいる建物を指さした。
「コレ?」
それは控えめに言って廃墟だった。窓やドアはちゃんと付いているものの、門扉は歪み、石畳には雑草がこれでもかと言わんばかりに大量に繁殖している。白亜の壁らしきものは黒く汚れている。
「門の所にちゃんと家紋があるが」
向き合いたくない現実を突きつけるようにコウが門扉の上にあるエンブレムを指さす。確かにフリージア家の紋章である盾と獅子を象った模様が刻まれている。
「と、とにかく中に這入ってみましょう」
もしかしたら、万が一もしかしたら、私邸の中は清掃の行き届いているとても住み心地の良い空間になっているかもしれない。私はそんな空の青よりも淡い期待を胸に馬車から降り、私邸の扉へと手を掛ける。
重苦しい扉がけたたましい音を立てて開く。建物の中は静謐な空間だった。少し広めのロビーに2階へ繋がるカーブを描いた階段、天井には控えめなシャンデリア。華美な装飾は少なく、最低限みすぼらしく見えない程度の煌びやかさを残した、質実剛健とった作りだった。本来ならばとても魅力的な空間なのだろうが、少なくとも今は誰かが管理している様子はない。
私が一歩足を踏み入れるのと同時に埃が舞いあがり、けほけほと小さく咽る。
「っ、埃っぽい」
「こりゃあ管理人を雇ってなかったみたいだな」
コウが指先で棚を撫でると、降り積もっていた埃がこれでもかというほどに指先に纏わり付く。
「これ、どう考えても3日どころか1晩も泊まれねえぞ」
むしろ掃除して滞在できるようにするだけで三日三晩かかりそうだ。
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