面接編 20代は野心家です!

 27歳営業職。抜群の成績による表彰経験もある。自身のスキルアップと、いずれは自分で起業したいという野心を秘めてこちらの世界を希望。

 28歳エンジニア。自身のスキルに自負はあるが、今の会社では給与の面で頭打ちであり、より良い待遇を求めてこの世界を希望。

 立派な職歴を持つ20代の青年の精査は実に難航した。

「私としては27歳営業職ね。受け答えがすぅと耳に入ってきて完璧だし、野心家っぽいところも魅力よ。魔王打倒後は外交官として使ってみたい。あなたの推してるエンジニアは、ちょっと内向的な気配がないかしら?」

「いえいえ姫様、エンジニアですよエンジニア。数少ない理系こそ優先するべきでしょう。魔王打倒後は基礎学問の発展に尽力してもらいます。姫様垂涎の営業職は、こちらの命令にいずれは反抗心をむき出しにするに決まっています」

 と、私たち二人の意見は一致を見ない。

「自分で起業したいってことは、つまりいずれは私たちから独立してしまうんですよ? どうして未来の商売敵を自分たちで育てなくちゃならないんですか」

「のれんわけと考えるべきよ。商売敵になるかは私たち次第。それに、エンジニアは今の待遇に不満だそうだけど、ならもし私たちの待遇でも足りなかったらすぐに辞めてしまうのではなくて?」

「待遇をよくするのは経営者の義務でしょう」

 はあはあと息を切らせながら言葉を交わしても、平行線を辿るばかりだ。

「ただまあ――どちらが良いか、という議論になっただけ、やっぱり彼らは能力がありますね」

 諦めたように魔術師は肩を落とす。

 まだ一人残っている。喧々諤々は後回しでもいいだろう。

「こういうのは最終的にはマッチングの問題ですからね。新卒採用は博打ですが、転職は相思相愛を生み出すためのきっかけのひとつでしかありません。彼らなら、例え私たちが落としたとしても、凹むほどのことはないでしょう」

 社会人として濃密な時間は、自分の目標や希望をより具体的にしてくれる。ただのんべんだらりと生きている無職とはそこが違う。

「惜しむらくは……」

 残念そうに履歴書に目を落として、魔術師は顔を顰めた。

「両方とも持病もちですね」

「あなた、そこで足切らなかったじゃない……」

「まさか健康欄を堂々書いてくるとは思ってなかったんです」

 営業職は坐骨神経痛。エンジニアは腰椎ヘルニア。将来はともかく、魔王打倒が覚束無い。

「くそ、嘘でもいいから『極めて良好』と書けばいいものを!」

 魔術師は憎々しげに机を叩く。

 まあ、採用後に発覚しても問題だから、彼らのほうが正しいのだけれど。容赦なく悪化する可能性がある。多少の通院で寛解がみこめるなら、はっきりと書いたほうがよい。

「あ、ちなみに包茎は持病じゃないですから、その手術歴の記載は不要ですよ」

「何よ突然」

「いえ、それを書いてきた無職がいたものですから」

 ともあれ残るは一通だ。

「さあ姫様、いよいよ本命です」

 にやりと笑って、魔術師はかねてより大きな期待を抱いていた履歴書を机の上に置いた。

「――大物の予感がします!」

 魔術師が杖を振る。途端に、かつて無いほどの輝きが部屋を満たし始めた。



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