面接編 初々しい新卒です!
「まずは新卒を立て続けにいきましょうか」
先ほどの無職とは違い、ここから先は大いに期待が持てる人選ばかりだ。
年齢の若い順に攻めていこうと決まったので、すぐに魔術師は杖を振り回し始めた。
22歳。某有名大学の文系学部。超一流大学というわけではないが、中小企業でささやかな学閥を形成できるくらいには歴史と伝統を持つ学校だ。
志望動機には、この異世界でいずれは一国を経営し、自身が得意とする質実剛健の精神文化を根付かせたいとある。野心家ではあるが、勇者たるものそれくらいの心意気は持っていなくては。
やがて先ほどと同じように光が収束していく。
現れたのは清潔感溢れる濃紺のリクルートスーツに、きっちり髪を整髪量で整えた、背の高いイケメンだった。
「よろしくお願いします」
丁寧なお辞儀も堂に入っている。もうこれで決まりじゃないか。
私の望みを叶えるように、イケメンくんはやる気に満ちたように口の端を上げて言った。
「後藤
「今回はご縁がなかったということで――」
くそ、ふりがなを見落としていたか。
「名は体を現すといいますから。本人が普通でも、あの名前をつける親御さんとは関わりを持ちたくないですね」
志望動機に不満が無いだけ勿体無い。
「次は大丈夫よね」
「ご安心ください。今のは不覚を取りましたが、次は大丈夫です」
光の中から人が現れる。
今回はイケメンというよりは愛嬌があるタイプの顔立ちだ。学歴、志望動機は先ほどの新卒と比べて大差ない。となれば、果たして彼が勇者としてやっていけるかどうかがカギになるわけれど。
「趣味は読書とありますが」
よどみの無い自己PRが終わり、好印象を抱いたのか魔術師が履歴書と睨めっこしながら踏み込んだ質問に入った。
「どういった書籍を?」
ここでライトノベルのタイトルが出てきたらさようならだろう。好きなものは好きでいいが、TPOを弁えたモノ選びが出来るかどうか。
そんな心配を他所に、どうやら意識高い系らしい彼は、堂々と胸を張って答えてくれた。
「最近は経営学や人文科学の本をよく読みます。ドラッカーやジャレド・ダイヤモンドの本などは――」
おお、すこぶる全うだ。これは良いのではないか。
面接を終えて、魔術師が送り返す。すかさず私は好印象であったことを伝えた。
「いいじゃない、第一候補よ。――って、何か不満でもあったの?」
が、魔術師はどこか満足いっていないようだ。
「趣味が気になるのです、姫様」
「いいじゃない、ドラッカーとかは意識高い系必読の書よ?」
「いえ。何を読んでいるかは問題ではありません。読書という趣味そのものが、問題なのです」
どういうことだろう。好奇心と向上心溢れる知性的なイメージがあるけれど。
「採用面接における趣味とは、社会生活においてどんなストレス発散方法を持っているか、を問うているんです。つまり、スポーツ等の身体を動かす趣味を持っているかどうかが大事になります。フットサルでもポルダリングでもいいですから、汗をかく趣味が必要ですね。この見方からすると読書は最悪といえるでしょう。多分すぐ欝になります」
欝病を出してしまう――。これは一大事だ。私たちの世界に来て欝になりましたと喧伝されては看板に大きな傷となってしまう。そうしないためには、一生飼い殺すつもりで面倒を見なければいけない。厳しい負担だ。
「読書に限らず、映画や音楽などの創作関係を上げる人も要注意ですね。ぶっちゃけ感受性は鈍いほうが社会人としてはやっていけるはずです」
合否は後に回しましょう、と魔術師は履歴書を仕舞い込んだ。
社会はストレスとは無縁でいられない。どうかそれをやり過ごせる鈍さか、汗と共に押し流せる趣味を持って欲しい。
「ところであなたはどうやってストレスを発散させているの?」
「読書と自慰です」
TPOは弁えようという、そういう話だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます