書類選考編 20代は玉石混合です!
「とは言っても、まずやることは決まっているんですけどね。一応新卒は分けてありますから、今はちゃちゃっと無職を潰しましょう」
当然のように職歴の空白を弾き始めた魔術師に、私は待ったをかけた。
「ちょっとかわいそうじゃないかしら。彼らは20代、まだまだ自分の生き方を決められない――そういう人だっているわ。30超えてNEETの人たちと一緒にするのはあんまりよ」
20代というのは、とりわけ精神的な成熟度に個人差が現れる年代だと私は思う。
子供のような純粋さで夢見る日々を送る人もいれば、早々に家庭を持って現実を乗り越えていく人もいる。
そこにはきっと、運の要素も大きいだろう。ましてや新卒のみが優遇される社会においては、最初の躓きを取り返すのに年単位の時間だって必要になる。
そんな彼らに、30代のような優劣をつけてはいけないと私は思うのだ。
「お優しいのですね、姫様。やはりあなたは、民を愛し、慈愛で一国を束ねる姫君です」
感極まったように魔術師は目尻を拭う。判ってくれればいい――のだが、この魔術師は滅多なことでは持論を曲げないということを、私は失念していた。
ですが、と魔術師は一枚の履歴書を軽蔑したように摘み上げると、私に見せ付けるようパンパン叩いて演説を打った。
「なんだかんだ、職歴の埋まっている人は頑張っているんです。苦労し、もがき苦しんでも、ちゃんと自分の人生を自分の力で歩こうとしています。そういう人の精神こそ、私は大事にしたいと思います」
「――!」
「比べて、この履歴書はどうですか。大学を卒業してからまったくの無職。どうせ、俺に合う仕事が見つからないとか言って、日々を無為に過ごしているんです。確かに異世界という激変した環境にぶち込めば覚醒するかもしれない――でも、するかもしれないじゃ経営はなりたたないんです!」
目が覚めた気分だった。
履歴書は所詮、ただの紙切れだ。しかし、そこには確かに、隠しようのない人間性がにじみ出てしまう。
「あなたの言うとおりよ。20代でも、無職は駄目よね。NEETさんには現世で、なんとかチャンスを掴んでくれることを祈りましょう」
「姫様、判っていただけて何よりです。それに、私もやりすぎでした。20代のアルバイトや契約社員は、ちゃんとした経験と看做して精査することにします」
20代ならバイト歴も立派な経験としてアピールしていい。そこで何を学び、どんな社会的な意志を持ったのかを表現できれば、充分な武器といえる。
一見ただのテンプレートどおりの履歴書にも、自分を表現する余地はあるのだ。
新たな足きり基準を設定して、私たちは再び書類を捲り始めた。
「……それにしても、20代は特に無職が多いわね。そんなに不況なのかしら」
「最近の傾向だとそれほどでもないはずですよ。ちゃんと生きている人はちゃんと就職できています。――20代っていってもモラトリアムみたいなものですから、一生を決める仕事や使命に怖気づく気持ちは理解できます」
終身雇用制度は崩壊した……とはいっても、それは実のところ首を切る側、経営者側が流行らせたいムーブメントだ。どこに属するかは、今なお一生を決めかねない重大事であることは間違いない。
「まあ、20代の一日一日って、後からジワジワ効いてくるんですけどね」
絶望的な一言を付け加えて、魔術師は書類をピンと容赦なく床に捨てていった。
20代は精神力と将来性溢れる履歴書がそこそこ残った。上々の成果だ。彼らも書類選考通過。面接が楽しみでしょうがない。
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