書類選考編 30代はみんな立派です!
下限18歳、上限は35歳と決まった。
特に下限の設定は効いて、後ろ髪引かれる思いもあったが、この英断は残りの履歴書を100通程度に絞り込むことを可能にした。
「まあ18歳以下に国の運命託すのもね」
「異世界より自国の未来を気にして欲しいところですね。選挙権ないけど」
ともあれ、その次の選考が大変だ。いよいよ学歴職歴を見ていかなければならない。
「姫様、まずは30代から攻めましょうか。絶対にありえない履歴書を弾いていきましょう」
「絶対にありえないって、どういうものかしら?」
「もちろん、こういうヤツです」
33歳。職歴が真っ白だ。
「あー……」
「結構多いんですよねぇ。異世界を生活保護みたいに考えてる人たち」
「ハロワに行くべきよね。職業訓練でも受けて、現世にワンチャンかければいいのに」
「それが出来る人は職歴真っ白じゃないです。――でも姫様、彼らを一緒くたに語ってよいものではありません。一見同じに見える履歴書にも、ちゃんと個性が、想いが、現れるのですよ」
魔術師は手ごろな履歴書を数通、こちらに回してきた。
32歳。職歴真っ白。学歴、高校中退。
31歳。職歴真っ白。学歴、大学中退。
「前者は特にありえないわね。いじめから引きこもりのコンボが目に見えるわ。そのメンタルだと勇者は無理ね」
「大学中退はパチンカスですかねぇ。ギャンブルで人生狂わせる勇者なんて願い下げです。それと姫様。こういうのも地雷です」
33歳。職歴一件。一年で一身上の都合により――。
「継続は力なり、よ」
「至言です、姫様」
「となるとこういうのもアウトかしら」
「ふむふむ。――34歳。あれ、職歴は万全ですね」
「良く見て御覧なさい。この職歴、アルバイトなのよ……」
「契約社員ならともかく、バイトじゃあ不況を理由にできないですねぇ」
いくら正社員は難しくても、30代バイトリーダーで満足して欲しくない。
なかなか悲哀を覗かせる履歴書が大半だ。
けれど、難航しつつも、30代は粒ぞろいな人物が多くいる年代ということも同時に判った。
働き盛りというのが大きいのだろう。実績に裏打ちされた自信と、異世界で栄達を遂げたいという野心みなぎる履歴書も数多かったのだ。
「とりあえずキープで。次は20代?」
彼らはみんな書類選考通過だ。面接でより詳しい自己PRを聞かせてもらうことにしよう。
「はい、姫様。――20代は山場ですよ、覚悟していてください」
きりりと眉尻を上げた魔術師に、私はごくりとツバを飲み込む。
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