書類選考編 まずは年齢で選びます!

「まさか自分たちで選ぶことになるとは。普通、神様とかが勝手にやってくれるものじゃないの?」

 うず高く積もった履歴書にげんなりして、私は傍らの魔術師に問いかけた。

 古文書で呼んだ記憶を辿る限り、勇者の召喚を行ったという記録はあるが、そこに書類選考を挟んだという記述はなかった。

 本来ならば、召喚が成功すればそこには神に選ばれた「勇者」が立っているはずで、わざわざ私たちが吟味する必要などないはずなのだ。

「そこが厄介なんです、姫様。神というのはいい加減なヤツが殆どです。私の調べた限り、過去に召喚された勇者はどうも変なのが多かったようで」

 歴史上、召喚が行われたことは幾度かある。大体は苦闘の末魔王を封じ込めた、と記されているだけだが、そういえば人格や勇者のその後に関して踏み込んだ資料はなかった。

「なんだかんだ結局魔王も倒せてません。ですから、今回の目標は打倒魔王なんです。とにかく能力の高い人間を絞り込みましょう」

 なるほど。決意と使命感に滲む魔術師の瞳に、私は心を新たにする。魔王への恐怖は元から断つべきなのだ。二度と復活しないように、完全に消滅させればいい。

「でも、能力か……。魔王を倒した経験アリとか、書いてないわよね?」

「流石にそういうのはないでしょう。そうですね――今回行った術式は、生まれ変わりの転生ではなく、そのまま呼んでくる召喚ですから、まずは年齢で大まかに足きりしちゃいましょう。身体能力のピークが過ぎた人はばっさりいきます」

 言って、魔術師は手際よく履歴書を弾き始めた。私もそのざっくばらんな足きりに参加する。ちなみに人力だ。ワンタッチでソートしてくれるような魔法があれば嬉しいのに。

「でも、こうしてみるとかなり年齢幅が広いわね」

 下は十代、上はなんと七十代もあった。

「この異世界の人気を舐めてはいけません。識字率が低く、文化レベルもほどほど。ですが、衛生観念はしっかりしていて、感染症なども流行しておらず、物流も潤沢。名産や料理などは現実世界に近いですし、貨幣制度も安定しています。サバイバル技能がなくてもちょっとした知識ひとつで英雄になれるのですから、今一番人気なんですよ」

 なるほど、この世界でなら生きていける、という考えが根底にあるわけか。

 ナメられたものだ。

「でも、そういうナメた考えが透けて見える履歴書はすぐにわかります。例えばこれ」

 60代男性。配偶者あり。定年退職して以降は無職。

「完全に老後を田舎で暮らす心積もりね。こっちの田舎の精神レベルは日本のソレと同等よ? どうせ村八分になるだけなのに」

「他にもありますよ。これ」

 43歳。学歴と職歴はまあまあ。今は中小企業の営業課長らしい。

「43じゃちょっと厳しいわね。勇者として働いてもらうんだから、もっと若くないと」

「山本昌とかイチローくらいに頑強ならアリなんですけどね。でも、そんな超一流アスリートは現世での名誉を捨ててまでこっちには来ません。――この人は写真を見る限り中年のハゲデブですから、良くて馬車の中で出番を待ち続ける商人キャラですよ」

 そんなこんなでどんどん弾いていく。年齢欄の数字をみればいいだけだから、時間は掛かっても仕事は楽だった。

「ここらへんの年齢はどうするの?」

「高校生……中々判断の分かれるところです。姫様がお決めになられるべきかと」

 私と同年代ということになる。夢とか希望とか、あるいは使命感に燃えているかもしれない。若さゆえの体力にも期待が持てる。

 だが。

「難しいわね……欲しいのは将来性より実績なわけだから」

「でしたら、見方を変えましょう」

 こほんと魔術師が咳払いをして、核心をつく。

「学歴が高校中退」

「ないわね」

 おかげで履歴書の八割近くを処分することができた。

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