勇者面接、始めます!

只野新人

プロローグ

「では姫様」

 と、恭しく頭を下げて、継ぎ接ぎだらけの黒いローブに身を包んだ若い美少女魔術師は古びた杖を差し出してきた。この魔術師、年齢は私とさほど変わらないように見えるが、これでも当代最高を自称する天才だ。

 ぼさぼさの青色の髪に、どこか眠そうに見える目。一国の国家元首たる私を前になんとも不遜だが、長い付き合いということで不問に付している。

「心の準備はいいですね?」

 問われるまでもない。いつかは誰かがやらねばならないことだ。

 床一面に、大きな魔方陣が描かれていた。私は魔力の込められた重い杖をえっちらおっちら掲げて、その中心に立つ。

「ええと、なんちゃらかんちゃらとかの呪文はいらないんだっけ?」

「まあそこらへんは適当に。大事なのは魔方陣と、姫様の血筋だけですから」

 一週間かけて、この複雑な陣を書き上げた大魔術師はこともなげに言う。

 これから、この国の王族のみに伝わる秘術を行う。

 召喚魔法――異世界から有能な人材を引っ張り出すという、次元と空間を歪める大魔法だ。この国の王族のみが扱える伝統の代物だが、長く平和が続いていたおかげで、この百年用いられたことがなかった。

「上手く行くかしら」

「大丈夫です。私を誰だと思っているんですか」

 憤慨したように魔術師が胸を張る。復元を指示したのが一年前、以来この歳若い魔術師は相当な覚悟で研究に打ち込んでくれた。

「それに、姫様――このままではわが国はおろか、人類は滅亡してしまいます」

 そうだった。

 数年前に魔王が復活した。圧倒的な膂力と兵力を武器に、闇の軍勢は各国を蹂躙している。私の父――つまりこの国の先代国王も、存亡をかけた大決戦の末にあっけなく討ち取られてしまった。

 もはや人類に纏まった戦力は存在しない。魔王軍は目と鼻の先まで迫ってきているのだ。

 頼みの綱は、異世界からつれてくる「勇者」だけ。少なくとも古文書とかにはそう書かれていた。信憑性や理屈はともかく、今は藁にでも縋らなくては。

 私は古文書から引っ張り出してきた手順を思い出して、その通りに杖を振る。こんこんと魔方陣を叩くと、たちまち強力な魔力の奔流が光となって溢れ出した。

 この手ごたえは成功だ――。

「って、これは何よ……」

 が、光が収まると、私は予想もしない光景に愕然とすることになった。

 そこに人はいなかった。かわりに、大量の書類が所狭しと出現していた。

 よもや失敗か。どういうことなのかと問い詰めるように魔術師を睨みつける。

「大成功ですよ、姫様」

 が、小柄な魔術師は自信ありげにその一枚を取って、私に突き出してきた。

「――これは履歴書です。まずは書類選考を行い、しかる後、きちんと面接を行いましょう」


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