第2話 皇姫の婚礼

ジン皇国のみやこ嵩山すうざんふもとにある。


盤園平原ばんえんへいげんの中心に位置するこの都は、皇国よりも古い歴史を持ち、数々の宗教が集まる文治ぶんちの地としても名高い街であった。


寺院などの塔が競い合うように立ち並び、塔の都とも呼ばれている。


その地が、今は兵士で埋まっている。各地より登ってきた軍勢が都にあふれ、都の外にも、十重二十重とえはたえと取り巻いているのだ。


この騒動の主は、都一の大聖堂で花嫁を迎えようとしていた。


皇国の西にある新興しんこうの国の王が五年前に皇国に帰順きじゅんした。皇国の貴族として朝廷の末席に着いたのだが、あれよあれよと言う間に席次を上げ、すめらぎの姫をもらい受けるまでになった。


その名は勢隆せいりゅう盤西氏ばんせいしすえを称する一族の長である。


大聖堂には、皇国の皇姫と西戎の王族の婚礼となればと、文武の大臣たいしんたちがうち揃い列席している。高位の貴族に相応しく、金糸銀糸で刺繍ししゅうした絹の衣装はきらびやかに聖堂を彩る。


だが、貴族達の顔色は、場にふさわしい表情とは言えないものであった。


それもそのはず、他の皇子はこの地を遠く離れ、皇は御不予ごふよ、このまま皇が御隠れにでもなれば、姫を女皇にせざるを得ず、となれば西戎せいじゅうの王の子が皇位をうかがう事となる。

さらに諸卿しょぎょうの顔を暗くするのは、姫の意向が伝わって来なかったこと。皇の看病として深く後宮にこもっていた姫が突如婚儀を表明するなど不可解と称する他にない。


いずれ、西戎のはかりごとに違いないのだが、さりとて彼らに打開の策も無く、沈痛のおもてを下げるより他になかった。


婚礼こんれいとどこおりなく進んだ。久方ひさかたぶりに顔を見せた姫は、確かに幼き頃より皆で親しんだ姫であった。


魔力の籠こもった白金しろがねの糸で織られ、まもりの魔法陣を刺繍した、白く輝く婚礼衣装に身を包んだ姫はしきたりの通りに通路を進んで行く。


諸卿しょけいは、落涙らくるいする者あり、嗚咽おえつを洩もらす者ありと、まるで葬儀そうぎのような有様であった。


そして、姫が祭壇に辿り着き、その段を登れば婚儀こんぎが成なるまでになった。


その時……

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