第59話

 パトリシアが無心に車を走らせていた頃、彼女は知る由もなかったが、ズードはロウシュとフロイスの協力を得て騒動の全容を究明していくにつれ、理想と現実との板挟みとなって頭を悩ましていた。どうすればいいか分からなくなっていた。

 シンの騒動があってからも、日々普通に数多くの殺人事件やら自殺やら火事やらのニュースが、テレビ、ラジオ、モバイル端末を通してひっきりなしに報じられていた。

 それらの出来事はこの月は嫌に多いなと感じる程度で、世間は相変わらず何事もなかったように平穏無事に推移していた。

 だが裏を返せば、社会へ与える影響が大きいと考えて、警察や自警団や政府が水面下で動いて情報操作していたに他ならなかった。

 実際にその内情を知っていた警察や自警団や政府はそれどころでなかった。いきがかりの殺人だ、無政府主義者の仕業だ、新しいテロ勃発か、いやマフィア復活ののろしかと、連日連夜それらを危惧して浮足立っていた。

 それというのも、身元や氏名を伏せられていたり、報じていなかった被害者、犠牲者となった人物というのが、――

 大手デジタル新聞社の社主、裏社会とつながりが深いと噂があった個人投資家、某投資ファンドの最高経営責任者、この国において五本の指に入る大手銀行の頭取と副頭取、大手建設会社の会長、某アイティー企業の社長、某大手ホテルチェーンの社主、某不動産会社の重役といった資産家や実業家。

 警察署長より偉い警察官僚や政治家並びに政治家の秘書といった政府の役人や政治家。

 政府機関の現役の閣僚や宗教指導者や裁判所長官や有名な慈善団体の代表とその役員といった高位な地位にある人物や名だたる有名人で占められていたことだった。

 加えてその殺され方が特異と言わざるを得なかった。 

 全身に焼き印を押し付けてショック死させていたり、鋭利な刃物で体中をじんわりと切り刻んで苦しみを与えながら出血死させていたり、体内に入ればそれはひどい苦しみ方をして死ぬと言われる自然毒を使って殺害していたり、ドリルの刃や金串のようなものを耳や目や鼻や口へ突っ込んで殺害するいわゆる活け締めと称するプロの殺し屋が良く使う手法で殺害されていたり、冷蔵庫内に生きたまま閉じ込めて凍死させていたり、普通の家庭にある砂糖や塩や油類や食器類を多量に胃の中に詰め込んで殺していたり、車や家に閉じ込めた上に火をつけ、個人どころか家族諸共生きたまま焼き殺していたり、空気やビネガーや洗剤を多量に尻の穴から注入して殺していたりと、まさに猟奇的、残虐非道といって良いもので。これらのやり口の多くは、裏切り者への処刑や見せしめにするためと称して、地元のヤクザ者が昔から良く用いた所業だった。

 また自殺の件においても同様に不可解で。それほど目立った地位や職種の者はいなかったものの、この月に限れば政府の役人や管理職、公務員、自警団の幹部、幹部クラスの軍人・警察官、ビルのオーナー、地主といった何不自由のない生活を送る裕福な者達で占められていた。またこの月は、通り魔的なことを行ったり、車を使ったりして、誰かを道ずれに自殺する件数がやたら多かった。


 それらの件に関して早く結論を出す必要に迫られていた警察も自警団も、一致した見解は、犯行の手口から見て犯罪組織が関与しているのではないかということで。

 もしそうなら自殺の件も、新顔の麻薬のようなものが市中に出回っていると考えると理由付けができる。そして犯罪組織が殺りくや自殺やらで社会を不安に陥れた後に考えそうなことは、今現在刑務所に収監している者達を解放しろと言いだして来るに違いないと判断。その前に手を打つ必要があるとして 全国各地で大規模なマフィア狩りを徹底的に行っていた。

 結果、短期間で多くの関係者や関係の無い者までが一時拘束されたり刑務所へ送られることとなっていた。


 それを一緒に支持し実行の命令を下した中で、唯一裏事情を知っていたズードは内心複雑と言わざるを得なく。

 ロウシュとフロイスの二人が事に当たってからというもの、自警団への襲撃はほとんどなくなっていた。よって、もうそろそろ終わりにしなければと思っていた。

 だが問題は収拾の仕方だった。幕引きをどう持っていくかが課題となっていた。


 フロイスが捕らえて洗脳した者達による供述から、様々な身分の人物が加担していたことが分かった。 中でも、名だたる企業のオーナー・代表や、いわゆるエリートと言われる政府の役人・高官や、社会的地位の高いお歴々が目立っていた。

 また、全く偶然に出てきたことであったが、その中の一人の口から、既に解散したと風の噂で聞いていた、政府の要人や高名な人物や富豪といった限られた人物が年に一回集まって懇談するイリニ会議なるもの(国家を裏で支配する者達の社交場という設定の会議で、ギリシャ神話に登場する平和の女神イリニを冠としていた。尚、過去には裏社会の実力者も複数、正会員として名を連ねていた)がなぜか復活しており、その議題の中に自警団のことが話題に上って話し合われたらしいと聞いていた。

 ではどのような内容だったかというと、厳重な監視の下で、ごく秘密裡で行われたため分からないという答えだった。


 そもそも自警団とは、一般市民が横暴を行う犯罪組織に対して徒党を組んで立ち向かう目的で自然発生的に生まれた任意の団体であった。

 その昔、警察や司法と裏でつながった犯罪組織が全国を自由気ままに席巻していた時代。ある一地方から起こった民衆による抵抗運動に起源を発していた。やがてこの運動は各地へ飛び火して広がると、とうとう犯罪組織を一掃してしまうことになるのだが、世がほぼ平穏になった現在でも自警団は解散せずに残っていた。“本来自警団は非合法な団体である。従って、世の中から大っぴらな殺人・強盗・麻薬中毒者が消え社会秩序が正常に戻ったときは自主的に解散する”という条件付きで、その存在が認められていたにもかかわらず。

 なぜ解散しない、できないかと言えば、大きくなり過ぎたことが要因の一つとして挙げられた。今現在、本部に二万六千人、全国に七百三ヶ所あった支部に、公称二十六万、併せて二十九万人近くの男女が勤務していた。

 また、自主的に解散するとしたその条文すらも、幾らでも延命の抜け道が用意できることから、もはや形骸化していると言っても差支えないことにも拠っていた。

 要するに、警察組織と同じで、国家が滅亡しない限りは永遠に存続することを意味していた。

 一方自警団の活動資金はというと、昔はカンパとか個人の寄付とか募金が主な収入源で。それ故団員は全て無給で働いていた。が、時代が変わって、今現在は企業や市民からの寄付と傘下に収めた企業からの配当と歩合金を当て、そこから活動資金と団員の給料を工面するようになっていた。

 傘下の企業は、初期の頃においては、かつて犯罪組織が所有していたり影響を及ぼしていた遺産を引き継ぐという形で手っ取り早く手にいれた、各地の土産物屋、冠婚葬祭屋、簡易宿舎や年金者会館の運営会社、花き野菜・食肉・魚介類の各市場、廃棄物処理会社、警備会社、広告会社、芸能会社、各種コンサルタント会社、放送事業会社、法律事務所、商社と、どれも中小か零細企業で占められ、それほどめぼしいものはなかったが、最近では不動産、建設関係の会社を始め、ホテル・学校法人・病院・老人ホーム運営会社、トラック・バス運営会社、船会社、倉庫会社、食料品会社、飲料品会社、各種レンタル・リース会社、生命保険会社、総合商社と手を広げて、巨大な宗教法人のような超優良団体となっていた。それも信用度が他のどこの団体・法人よりもあることで、これからも成長が大いに見込めるという保証が付いて。

 事実、傘下の団体や企業はこの不景気下にあっても、その収益は総じて平衡状態を保っているか、まだまだ成長を続けていた。

 そのことは、ちょっと見方を変えれば、山のようなお宝が自警団に眠っていると考えても過言でなかった。


 加えて、なぜ自警団が狙われて、同じような機構の警察は狙われないのか、その理由を考えた場合、交通の取り締まりと犯罪の予防と発生した犯罪の捜査及び解決が、警察が主な役割とするところとすると、自警団は警察の役割と少し重なる部分もあるが、ちょっと内容が異なっているところもある犯罪の防止のために行う取り締まりと、表に出てこない犯罪を暴いて正すことが主な役割で。おそらく後者のことが、密かに不正をしている政府の権力者や役人や市中の金持ち連中から煙たがれているのは必然のように思われ。


 以上のことから、今回の騒動を引き起こした首謀者の正体は一人ではなく、利害が一致した複数の者達が集まって企てたのだろうと結論付け、その動機として考えたのは、――

 自警団に何らかの負い目を感じており目障りだった。このまま放置すると我が身が危うくなると恐れた。 何とかして自警団の力を弱めようとした。できれば排除したいと考えていた。

 自警団傘下の企業や団体の躍進にしっとしたか危機感を抱いて何とかしようとした。

 自作自演をすることで民間団体でありながら膨大な権力、資産を持つ自警団に強い影響を何とかして及ぼそうとした。あやよくば、自警団を手に入れたいと考えた。

 昔、自警団に酷い目に遭ったことへの復讐。

 それらから総括して、犯罪組織は元より、以前に持っていた既得権益・利権を奪われた役人や企業の経営者、別の犯罪組織がバックにいる外国資本、自らの将来を見据えた官僚達が仕組んだのだろうな、まあそう言ったところだろうなと考えていた。


 その日の朝、時刻は六時頃。

 どの窓も全面着色ガラス貼りで、外から内部が見えなくしてあったシルバー色のセダンが一台、市内へ通じる道を走っていた。中にはトレードマークのサングラスを外したズードと三人の警護役の若い団員がスーツ姿で乗っていた。

 マフィアへの一斉捜査を指揮し始めてから全国の支部から次々と上がってくる情報や報告への対応に多忙を極めて、ここしばらくズードは自宅へ戻れずに本部で軟禁状態となっていた。

 だがその辺りは、自警団のトップであるがゆえの貫禄と融通性で、「入ってくる情報や報告のみでははっきりとした判断は下せない。自身の情報源も使ってからでないと」と慎重な理由付けをして、いかにも自身の協力者が全国に大勢いてそこから情報が入ってくることをにおわせると、ちょくちょく時間を見ては、護衛を常時付けるという条件付きで、このように人目を避けるようにしてこっそり外出していた。


 それが今回で三度目にあたっていた。朝の会議まで間に合えばいいんだろう、それまでに戻ってくると伝えて、ちょっと息抜きをしてくるからと、つい本音を最後に漏らすと本部を後にしていた。

 車はカラッとした空気の中を進んでいた。 

 陽ざしが強くなりかけて、もう真昼のように明るく。この分だと今日も晴れだろうということをうかがわせていた。

 出てきたばかりの頃は、交通量もまばらで、周りの景色はどこまでもいっても変化に乏しい乾いた大地が見られるだけであったが、もうその頃には行き交う車も増え始めて混雑し始めていた。沿道にも、職場や学校へ向かうのだろうか、人々が列を作っていた。

 また周辺には緑の樹木や倉庫や学校や賃貸のビルといった高層の建物がぼつぼつと見え始め、道路沿いに消防署、警察署、役所の支所、病院などの建物が現れたかと思うと、直ぐに視界から遠ざかって行った。

 そうこうするうちに、道の両脇に画材屋、額縁屋、骨とう品屋、美術品店、古着屋、観賞植物の店舗、楽器屋、リサイクルショップ、ドラッグストアなどが空き地や駐車場を挟みながら出現する地点へとやって来ていた。

 その付近でセダンは速度を落とすと、小型のデパートといった外観をして、軒先に実物大の犬や熊やトラやペンギンのレプリカが置かれ、ショウウインドウ内に古い時代の色皿やツボや水差しや置物が並んでいるのが見える、いかにも骨とう品屋を営んでいるという五階建てのビルの敷地へ入ると、そのまま建物裏へと向かった。

 そこはちょうど店舗の駐車場となっており、周辺にフェンスが張り巡らされた広い空き地には二十台以上のトラックやヴァン、並びに三台のフォークリフトが既に止められており、その傍らにはパレットと解体された段ボールが山積みにされて放置されているのが見えていた。

 そして隅の方には赤黒く錆びた船のアンカーやら人や昆虫や文字の形をする大きな石の置物やら巨大なカメやツボやら荷車の車輪やら時代物のイスやテーブルといった、どうみてもがらくたとしか思えない品が乱雑に並べ置かれていた。


 セダンの車はその内の空いたスペースで静かに止まると、車中でズードが、警護の男達と運転手に向かって、


「一時間ほどで戻る。それまで朝飯でも食べてくつろいでいてくれるか」


 そう伝えるとひとり下車した。それから、駐車場から真っ直ぐに続く大型の倉庫のような建物の方向へ歩いて行った。そのとき警護役の男達は付いて来ることはなかった。車中でズードが建物の陰に消えるのをじっと見守っていたかと思うと、やがて運転手を含めて四人で車から下車して表通りの骨とう品屋の方向へ、何か話しながら歩いて行った。

 それも通りで。ここへやって来るのはこれで三度目で、ズードの行き先に何があるのか詳しく知っていたからだった。

 ズードが足を運んだ先の建物は表の骨とう品屋を営むオーナーが所有するもので、普段は倉庫兼従業員の休憩場所として使っていたところであった。それをズードが一時借り上げていた。そして彼が向かったのは、倉庫の三階部分にあたる高さにある従業員の休憩場所として使っていた部屋で。ドアを開けると、二十人も入れば満杯となるそれほど広くない空間の中央に中古の応接セットがひとつと中古のテレビが置いてあり。また白い壁際には棚があって、そこには雑誌や書籍や食器類とともに約三十台の真新しい黒塗りの携帯が並べて置かれていたこと。即ち、それらの携帯を通して協力者から極秘の情報を得ていると、誰もが思っていた。

 それ以外にあるものと言えば、従業員の休憩場所らしく、並みのサイズの冷蔵庫とシンクとオーブンレンジと電気ポット。それくらいなものだった。

 ちなみに、倉庫内には、どうみてもがらくたとしか思えない品物と意味不明の外国の文字が印刷された段ボール箱が山のように積んで置かれていた。

 あと蛇足的なことであったが、骨とう品屋のオーナーは元消防署に勤務していた六十歳代の独身者で、六十名を超える人を雇って、もうかれこれ十年以上、この場所で手広く商売をしていた。

 だが店は品揃えがかんばしくないようで、ほとんど二十四時間店を開けているにもかかわらず、日に来客がひとりかふたりと、いつも暇で閑古鳥が鳴いていた。

 それではどうやって倒産もせずに、人の首を切らずにやっていけるかと言えば、昼夜を問わずにトラックやヴァンが忙しく出入りし、荷物の積み下ろしをひんぱんにする様子から、本業でない別の副業、例えばレンタル業や何でも屋的なことをやって経営が成り立っているらしいと思われたこと。

 そのほかにも、一階の端の部分で軽食屋を経営したり、その隣の詰所にできるぐらいのスペースを自警団に貸すことで 経営のてこ入れをはかって本業の赤字をどうやら埋め合わせしているらしかった。

 もうそれだけのことを知っていれば十分だった。男達は気にも留めていなかった。

 だが彼等は知らされていなかった。この骨とう品屋が何を隠そうカモフラージュされた自警団の秘密支部であったことを。このような形で隠され、ごく一部の幹部しか知らない支部は、本部の周辺にあと四ヶ所ほど存在していた。


 ズードは倉庫横の非常階段と同じ構造をした折り返し階段を上り切ると、そこに一旦立ち止まり、周りを用心深く見渡して、誰か隠れて見ていないかどうかを確かめてからドアのロックを開錠。手前に引いてドアを開けた。 

 すると、ロウシュと口ひげとあごひげを生やして男に変装したフロイスが、ソファへ相向かいに腰掛けて待っていた。

 会う日付と大体の時間はズードが忙しいスケジュールの中から指定していたので、当然と言えば当然のことだった。

 屋上から通じる天窓が全開にされていた。誰が屋上から侵入してくると考えるだろうかだった。

 携帯を使って不特定多数の協力者がいると見せかけていたのは実はフェイクで、協力者は協力者でもロウシュとフロイスとパトリシアの三人のことで、この場所こそが第三の秘密のアジトだった。


 さっそくズードは、二人を見る形で、入り口側の席に腰を下ろすと、用心深いロウシュが習癖でテレビをつけた。朝が早いという理由でニュースの映像が音声とともに流れてきた。


 その中でズードは「さて、どこまでいったかということなのですが」


 柄にもなく気を遣うような言い回しで口を切った。

 それを二人は顔を見合わせてあざ笑うや、口々に進捗状況を上機嫌で素っ気なく喋っていった。

 対してズードは「なるほど、そうですか」「分かりました」と謙虚な姿勢で応じていた。

 それも仕方がないことだった。

 ズードは、ロウシュとは親しくしていて気心が知れていた。いつもざっくばらんに話すことができた。ところがフロイスだけは別で、はっきりいって苦手だった。迷惑なことだったが、自ら心を開こうとしないばかりか、いつも横柄で見下した態度をわざと取ってくるからだった。

 そのことについて、かつてパトリシアに相談したことがあった。すると彼女が話してくれたのには、昔何があったのか知らないけれど、軍や警察みたいに集団行動を取る人達や偉そうにしていたり、いかにも強そうな人を見ると、つい意地悪したくなる悪い癖が彼女にあるの、だから気にしないでちょうだいね、という返事が返って来た。

 そうはいっても、実力的に雲の上の存在と認めざるを得なかったことで、そういうわけにはいかないのが世の常で。どうしてもフロイスを前にすると、影の薄い存在とならざるを得ないのだった。


 そんな風に受け答えしながら、十五分ばかりが過ぎ、 知っている内容と聞き取りした話の内容が一通り合致しているところと違うところが分かった地点で、改めてズードはただ一つ気になっていたことを、慎重に言葉を選びながらフロイスに尋ねた。


「ところで、洗脳して仲間に引き入れた者達は最後にいかがなされるので?」


「ああ、あいつ等か。適当に始末するさ。放っておくと役に立たなくなるのでね」


 簡潔な答えがフロイスから返って来た。


「ああ、そうですか」


 役に立たなくなるということは何を意味しているのか急には思いつかなかったが、それ以上突き詰めて聞くとまたいつものように機嫌が悪くなるとしてズードは適当に分かったと頷くと、それよりここにやって来る間に決めていたことを話さなければと、いよいよ重い口を開いた。


「ここまでして貰ってすまないのですが、この件はもうここらあたりでお終いにしたいと考えているのです。

 多少はグレーの部分は残りますが、これ以上続けられると、マフィアだけのせいにできなくなってしまいますし。それによって批判がこちらの方に向けられるようになっては元も子もないと思いまして。そういうことで悪いのですが、お願いしたいのですが。どうでしょう」


 遠慮がちな言い回しで述べたズードに、二人は初めきょとんとした表情でズードをのぞきこんでいたが、直ぐにそれぞれ、


「ふん、至極まともなことを言うじゃないか。ああ、分かった、お前に従ってやるよ」


「まさにその通りかもな。まあ、良いか、これ以上やると、どっちが悪者か分からなくなっちまうからな」


 などと、以外にあっさりと受け入れていた。


「すみませんな、二人とも」


 ズードはにっこり笑って感謝した。


「ここで終わっても、最初に言い出した人物にはおそらく相当なプレッシャーがかかっていることでしょう。まあこれ以後、手を出してくることはないと思いますので」

 

 少しぐらい異論を唱えてくると思ったが、揃って意外な反応を見せた二人にズードはある意味拍子抜けした。だが一方で安心していた。

 これ以上続けられると、政情が不安になるばかりか経済にも影響が出てくるし。同じ真似をする不届きな輩も出てこないとも限らないからな。一つ間違えれば国中が無法地帯ともなりかねないし。


 そうして話し合いは、ズードの都合で三十分少しという急ぎ足で終了していた。

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