足元にライト照らして 4
俺たち4人は1年C組に集うと、とりあえずは状況を確認することになった。
「俺たちは音楽室を見てきた。扉は人が隠れる隙間はなさそうだし、普段はきちんと鍵がかかっている。ただ、逢坂先生は2年前に音楽室の鍵を閉め忘れて怒られたことがあったみたいだよ」
とりあえず俺たちは成果を話す。
「要するに真相は分からずじまいってことね」
牧羽さんが1時間半もかけて聞いてきた情報をいとも簡潔にまとめ上げた。
「そっちはどうなんだよ」
篤志もそっけなく聞く。一応彼女たちの成果を分かったうえでだ。先に口を開いたのは澄香だった。
「元気たちは増田教頭先生に会った?」
「会ったよ」
「よかった。2人のことも探していたみたいだったから」
「その時に放送室の霊のことを聞いたわ。あなたたちは?」
牧羽さんが今度は聞く。
「2人から聞けってさ」
「あと1時間ほどしかない。じゃあ篤志、久葉中の七不思議その3。机の振動とその時見た光について調べよう。たぶん、こういう教室だよな」
そう言ってあたりを見回す。明かりがなければ結構暗いだろう。
「クラスで使っていた教室だろうからそういうことだろうな」
「振動していた机の位置って、あそこかな?」
澄香が廊下側の列の一番後ろの席を指さす。
「そうね。不登校の生徒の席だったそうだから廊下側の列の一番後ろでないと入りづらいだろうし、そもそも真ん中なら邪魔ね」
牧羽さんが澄香にそう話す。
「フリースペースの方から来たってことは校舎の中を通ってきたってことだよな? でも昇降口は閉まっているし、普通は鍵もかかっている。
――あれ、そもそもその生徒もどこから入ってきたんだ?」
俺たちは顔を見合わせた。
「元から中にいた、ってことは?」
澄香が聞く。
「忘れ物を取りに来たということは一旦その生徒は少なくとも学校から出ている」
「鍵の閉め忘れ、かな?」
「下校指導の時に閉めると増田教頭先生は言っていた。その時に何人も先生がいるから誰かが気づくだろう。僕たちは終わったら職員玄関から出るから靴を持って職員室に来てくれと言われたけれど」
篤志が澄香と牧羽さんに説明する。おそらく昇降口を開けると手間がかかってしまうからだろう。
「でもさすがに職員が帰ってしまえば職員玄関も閉めてしまうはずよ。第一校門を乗り越えるのにも苦労するはずだわ。放送室の件のように生徒が捻じ曲げたのかも」
「美緒ちゃん、まだ元気たちには話してないよ」
牧羽さんの失言に澄香が肩を叩く。
「あらそうだったわね。忘れて」
牧羽さんは軽い気持ちで言う。やっぱり。
「となると、誰か先生が残業していたんだろうな。だからきっと職員玄関辺りが開いていたんだ。もしかしたら職員室に面したタタキに出るガラスドアにも鍵がかかっていなかったかもしれない」
「おそらくそう考えるしかないよな」
篤志の言うとおり、どこかが開いていたとしか考えられない。
「なら廊下の方に見えた光っていうのは何なんだ? 職員室の明かりをつけたとしてもそんな風には見えないと思うし」
篤志が再び質問する。
「月の光、とか? 雲に隠れていたのが見えるようになったとか」
澄香の意見に、牧羽さんが「ないわね」と言った。
「1棟は教室側が南になるように建っているわ。見えるとしたら教室からうっすら差し込む程度。廊下から眩しく見えるとは思えない」
「なら3棟や中庭に電燈が点いているとか。風が吹いたりすればつくタイプの!」
「非常口誘導灯なら筋は通るけれど、そんなもの必要ないでしょう」
牧羽さんはため息をついた。
「分からないよ、災害に備えてついているかもしれないし」
「そこまで言うならやってみるわよ」
そう言って牧羽さんは教室の電気を消した。廊下の電気すらついていないので急に暗闇が広がる。目が順応してくると、人がかろうじて見える程度だ。
「結構暗いな」
「日没まではもう少しあるのにね」
俺たちは口々に呑気な感想を言い合っていた。
「あら、でも廊下の方から光が見えるわね」
スイッチの付近にいた牧羽さんがそうつぶやく。
「どういうことだ、牧羽さん」
「近づいてくる」
牧羽さんの言う通り懐中電灯の光のようなものが見える。俺たち3人も光の見える方へと手さぐりに近づく。
「え、どういうこと?」
「まさか七不思議通り――」
俺たちは壁に隠れて様子をうかがいながら口々に言い合っている。やがて光は1年C組の中を照らした。
「まず――」
俺が声を出しそうになると、誰かが口をふさいだ。篤志だった。
「あれ、みんな……」
そう言って差し込んできた光は亡霊のようにその姿を照らした。
「ギャー!」
俺たち4人は校舎中に響き渡るくらいの悲鳴を上げた。
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