第51話 知りはじめたこと
「あの……なぜ、私を……」
「お主に言われてこうして埋葬することにしたからの」
いつも通りのようでどこか冷めた声音。
もう、そこに見えるのは一人のお爺さんとかじゃない。
一人の少年。
今は明け方と朝の狭間のような時間。
ロイが眠ったのを見届けたあと私は突然魔法で王様に呼び出された。
いつもいきなり召喚されて怒りまくっているロイくんの気持ちがようやっとわかった。
にしても王様の私への扱いは、サアヤの生まれ変わりということで自然と前よりよくなるものかと思ったに、むしろ悪化したのは謎すぎる。
なに?こいつがサアヤの生まれ変わりだろうが、もうどうでもいいや。
つうかこいつ本当にあのサアヤの生まれ変わりかよ、みたいな?
そんな感じなのかしら。
よくはわからないけれど……。
でもまあ、サアヤを埋葬するのに私を呼んでくれたのは嬉しい。
ちゃんとサアヤのこと、見送ってあげたかったから。
「……サアヤが壊れたのは……実はこれが初めてではない」
「え?……それってどういう……」
「花を手向ける。」
聞いてんのに無視かい!しかも自分で振ってきといて!
そう内心突っ込みながらも
「はい」
と返事をして、持ってきた花、クレマチスをとりだす。
白く丸い花びらが黄色で縁取られた、優しく綺麗な花。
花言葉は、心の美しさ。
王様もなにも言わずにどこかからか花を取り出す。
まさか魔法で取り出した、すぐに消えるようなもんではなかろうな?
そう思いながら見つめるそれはどうやら見た感じ本物のようだ。
そしてその花の名はスイートピー。
スイートピーかあ。
なかなかいいセンスしてる。
確かこの花の花言葉は「優しい思い出、門出、別離」。
悪くはない。というか、むしろいいではないか、なんてそんな偉そうなことをぶつぶつ思う。
ちなみに私はアイネ君ともっと仲良くなりたくて最近もより花言葉の勉強をしている。
綺麗な花を見ながらついこないだまで王様王様と慕っていたけれど今回のゴタゴタでそれも嘘のようだな、なんてポツリと思う。
王様はなにも言わずにスイートピーの花をサアヤの墓前におく。
ちなみにサアヤのお墓は歴代の王族さんがはいっている一つのお墓の中に新しく埋葬されることになる。
……そういえば、歴代の王族ってもしかして?
「あの……」
二人ともそれぞれの花をお供えして、手を合わせ終えたところで切り出す。
相変わらず目も合わせてくれない。
……なんかここまで顕著だと腹が立ってくる。
「歴代の王族って、それ、歴代のサアヤってことですか」
戸惑いながらいったつもりだったけど実際にでた言葉はとても強い言葉になる。
「奥さんだっていませんもんね?」
ズバッとそういうと王様は冷めた瞳をこちらに寄越した。
この人、本当にもう私に気を使う気がないんだなあって、痛いほど伝わってくる。
「ああ……」
ただの返事、というより、どこか含みをもたせた言い方でそういう。
「あの、それってどういうニュアンスで」
「……わしはもういく」
まただ。
私が話している途中でそういうとパッと魔法でいなくなる王。
私は一人、どこか呆然としながらサアヤのお墓を見つめる。
本当に、サアヤはーー。
ギュッと拳を握る。
「サアヤ、ありがとう。私、サアヤの分まで……」
サアヤだったら何を望むのか。
そう考えたらその後に続く言葉がすっと出てきた。
「……王様のこと守るから」
正直いうとこんなこというのは不服だ。
少し前と違って王様との関係は見るからに悪くなったし、こちらもあまり仲良くする気がない。
けど、サアヤが生きていて、やりたかったことって絶対それだよね……。
そう思うと一人勝手に納得して、歩き出す。
さあ、前を向かなきゃ。
本当はいつまでだってここにいてサアヤと語らっていたいけれど……。
朝のお城の中を歩きながら騒がしさはなくなったものの、やはり物々しさは消えていないなと感じる。
そこらを闊歩する星鎖の騎士団の方々を見ると改めてそう思う。
にしてもバークス……あの人はどこにいるんだろうか。
今も素面で見回りでもしてるんだろうか。
まあ、逃げたと考えるのが妥当だとは思うんだけど。
なんてことを思いながらあることを思い出し勝手に納得する。
ああ……そっか。
ロイが犯人に襲われたと聞いて、慌ててロイの元に駆けつけたとき。
その時あの人、私のこと知り合いに似ていて美人だのいってたけど、それって私の前世だというサアヤのことだったのか……。
……。
だからといって、なにかが変わるわけでもない。
探しだそとも思う。思いながらも本気では探そうとしていない。
そんな感じでぶらぶらと城の中を歩き続ける。
「……?」
そんな最中、どこかから私を呼ぶ声が聞こえてきた気がして一度立ち止まる。
辺りを見回して見るけど誰もいない。
気のせい?
なんて思いながら私はまた歩き出す。
「……偶然だね」
そんな時、聞き覚えのあるその声がしてきて、私は自分が特に懸命に探す気がなくてぶらぶらしてたのではなく、純粋に会いたくなかったからぶらぶらしてたのだと気が付く。
「あんた……」
振り返ればやはり、いた。
いつものように笑っている、バークスが。
だけどその目は笑ってない。
そのことに気が付くとゾッとする。
「何考えてるの?……よくもまあのうのうと私の目の前に現れられたものね。」
何も言わずに冷めた目をして、笑いながらこちらをみてるバークス。
不気味すぎる。
「私が気づいてないとでも思ってるの?あなた、あのサディでしょ。そしてサアヤのことも、あなたの求めてるサアヤとは違うからって」
「違うな」
ズバリとそういうバークス。
「な……なにがよ」
思わず動揺した声が出る。
けど慌てて強い表情をしてみせる。
ここで弱みを見せたらダメよ、リィン。
つけ込まれたら終わり。
気丈に、気丈に。
バークスはなにも言わずに自身の懐から何かを取り出した。
「え……それって……」
思わず声がでる。
それは、昨夜、ロイがみせたネックレスと同じ。
存在ごと消された誰かのもの……と思われるあのネックレスと全く同じもの。
え?……。
じゃあ、あのネックレスはバークスとお揃いで持っていたってこと?
でも、バークスは別に存在を消されわけではないし。
じゃあ一体……。
「これがいつも俺の道を示してくれる。確かに俺にとってサアヤは大切だった。だけどそう何千年も待てるかよ」
どこかイライラしたように、まるで私に対していうようにそういうバークス。
「その間に俺には心から大切な親友ができたんだよ」
「……ロイのこと?」
「……ああ。あと、もう一人。あのサアヤとかいう姫さんに殺され、あまつさえ存在ごと皆んなの記憶から消された親友がな!」
ネックレスを握りしめ、悔しそうにそういうバークス。
思わず呆然とする。
「え……サアヤが、殺した?……」
「俺はあの日から決めてたんだよ。復讐してやるって。俺だけは他の奴らと違って魔法が使えるからか記憶は消えなかった。俺にしかわからないことだ。誰にも理解してもらうつもりはねえ。けどな」
バークスは、ほんとに、ほんとに悔しそうに言葉を紡ぐ。
その姿は、私を捕らえて、片割れならどうしようもないといっていたときとは訳が違う。
本気なんだと思った。
なんとなく、彼の中でサアヤと会うことはもはや執念に近いもので、そのネックレスで繋がる親友に対するものは人間の心情そのものなのではないかと思えた。
「殺すチャンスは山とあったが、なかなか実行にはうつせなかった。あいつ……ゴウも腹は立つが意外とやるからな。だがそんなときお前さんがサアヤの生まれ変わりだとわかった。よかったよ。お前さんが現れてくれて。そのおかげでサアヤを殺せた」
「……は、はあ?なんで、私の?」
なんだか怖くて、冷たい汗が、背中を伝う。
「あいつはサアヤの代わりがいればそれで満足だからな」
そういわれて、息を飲む。
サアヤが死んでしまった直後埋葬もせずに直すといっていた王様。
結局は……そうなんだろう。
「とにかくおれはこれで復讐を果たせたんだ。サアヤに会いたい気持ちもあるが、片割れが見つかるまでは焦る気は無い。だからまたな」
そういうと私が話しかける前にパッと魔法で消えてしまう。
新しく知ったその事実に呆然として立ち尽くす。
勿論、証拠なんてなにも無いけど、でもあれは……真実を語る瞳だった……。
「ああ!リィン様こんなところに」
そんな時聞こえたきた慌て声。
ゆっくりと振り返る。
そこには見覚えのある侍女ちゃんがいた。
確か王様の付き人だったっけ?
いや、サアヤのかな。
わかんなくなっちゃったな、なんてぼーっと思っていたらその侍女ちゃんがゼエハアしながら言葉を紡ぎ出す。
「……謎の……少女が……現れまして……。王様はお部屋から出てきて下さらず……リィン様、どうか」
「え?……謎の少女?」
「はい。ミミという名の少女でかなり動揺している様子なのですが、どうやら魔法が使えるようでして」
「え?!魔法って……。わかった。今行く」
私にボーッとしてる暇なんてものはないようだ。
にしても王様、部屋にこもってでてこないって、相変わらずなにをしてるんだか。
なんて思いながら、私はそのミミという少女がいるという部屋に向かって歩き出した……。
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