第50話 暁の時間まで
「……くそ……どこだよ……」
そんな寝言に申し訳なくなる。
ロイくん、きっと夢の中でも私のことを探してくれてるんだろうな。
そんな今は真夜中で、救護室のお姉さんもいなくなってしまった。
もちろん、サアヤがああなってしまったあとなので救護室の外には沢山の星凰の騎士さんや星鎖の騎士団の人たちがいる。
だから安心なんだけれど……
なんて思いながらロイの顔を見てたら自然と頭がコクリと倒れる。
危ない危ない。
また寝るところだった。
本当なら部屋に戻って寝て、また朝来た方がいいと思う。
けど、私のせいでこうなったわけだし見守っていたい。
「にしても眠いよね……」
真っ暗な部屋。
ところどころにおいてあるロウソクの火だけが灯りで、部屋の温度も寝るのに適温で本当に眠い……。
まあ怪我人が寝ているのだから当たり前の環境なんだけれど。
……まず暇なのがいけないわね、なんて思って目の前にあるロイくんのほっぺたをぷにぷにしてみる。
「おおー柔らかい」
あいっかわらず十歳年上の男の頬とは思えないつるつるもちもちさね。
腹立ってくるわ。
「……」
「……うわあ……」
と、思った矢先にロイの瞳がぱっちり開く。
思わず口からもれるうわあという言葉。
それに普通起きるときってゆっくり目が開くと思うんだけど、今のロイはいきなりバッと目を開くような感じだった。
まさか
「ずっと起きてたわね、あんた」
「……たりめえだろ。んなことされたら誰でも起きるわ。少し様子見てたけどお前がやめねえから目開けたわ」
そういうと次の瞬間容赦なく私の両頬をひっつかむロイ。
「で?お前はどこにいってんだ?え?」
掴んだほっぺをあっちへそっちへ引っ張りながらそういうロイ。
「ひゃなひなひゃいよ」
そういうと不服そうにしながらも手を離す。
「……王様のところよ。で、犯人、でた」
「……はあっ?!犯人でたって王様のところにか?!」
「違くて。王様と会ったあとにそいつがきて私の事変なところに連れ去ったのよ」
「なんだそれ。もっとわかりやすくいえよ。そもそも、お前はなんで王様のところにいったんだ」
「それは……」
流石にサアヤのこと……サアヤが魔法で作られた人形だった……ってこと。王様の本音。とか、言わない方がいいよね。
「個人情報なので教えられません」
「はあ?お前なあ……」
「でも!」
「……」
「犯人は……わかった……」
「はあ?お前ほんとに」
「バークスさん」
下を向きながら必死にそういう。
拳をギュッと握る。
ああ、怖い。
顔を上げるのが。
ロイの顔を見るのが。
「……お前……それ、なにを根拠に言ってんだよ」
やがて聞こえて来たのはどこか絞り出すような、そんな声。
「……なにを根拠にって……」
確かに証拠はなにもない。
姿も確かには見てない。
見たのは子供の姿。
でもあれは……そう。
!
思い出して来た
そうか、あの子は……!
「わかった」
やがてそう呟いた時には自然と顔を上げていた。
ロイの険しい顔が視界に入っているのを認識しながらも構わずに言葉を紡ぐ。
「私の前世はサアヤっていう女の子だったの」
「……おいおいいきなりなんの話だよ。そういうのはあとからに」
「いいから聞いて。関係あることだから」
「……」
「そしてサアヤが恋していた男の子がいた。そのゴウという男の子はある日を境にガラリと変わってしまった。それを受けてサアヤは何度もゴウと話し合おうとした。昔のゴウに戻って欲しかったから。でもなにも変わらなかった。そしてやがてサアヤは絶望して自殺してしまった……」
「……」
「そして今回重要なのがサフィという男の子。彼は心優しく静かで、どちらかというといじめられっ子で日陰にいることが多かった。でもその男の子にもサアヤは優しく接していた。サアヤはゴウ含む5人の幼馴染と遊ぶことが多かったからサフィといるときはそれほど長くはなかったけど。サフィはサアヤのことが好きでいつも物陰からサアヤのことを見ていたの。」
そう……あの、魔力が封じ込められた石碑が壊れたあの時も……。
「そして先ほどいったようにサアヤは自殺した。でもその前にサフィに何度も会っていた。ゴウがおかしくなってからサアヤの心の支えになったのはサフィだった。サアヤは自殺する前にサフィにいった。私は必ず生まれ変わるから、と。そしてきっと、サフィは決めたの。必ずサアヤの生まれ変わりと会うって。ううん、またサアヤと会うって」
「……。で、その話がなんなんだよ」
「そのサフィって子の生まれ変わりがバークスなのよ。……それかきっと」
魔法で生きながらえながら姿を変えているのか。
王様たちがそうなのだからサフィがそうしててもおかしくない
「……はあ……?……」
「あの時みた少年、あれは確かにサフィ」
そして魔法を使っていたことにも納得がいく。
あの石碑が壊れたときそばにいたんだから。
「そしてサフィはきっと……」
わかってきたけど口にしたくはない。
けど口にしなきゃ伝わらない。
「ずっと偽物のサアヤが許せなかった……んじゃないかな。そしてきっとなにかの拍子に私がサアヤの生まれ変わりだって知っていよいよサアヤを……」
「……はあ?意味わかんねえよ。さっきの話のサアヤとサアヤ様は別人だろ?なのになんで」
ギュッと唇を噛む。
結局、いわなきゃいけないんだ。
「サアヤは……私たちの知っているサアヤはね」
そこまでいって口ごもる。
ああ……本当にいわなきゃいけないんだろうか。
「ゴウが……王様が作った、さっきの話にでてきたサアヤという女の子を模して魔法で作った人形だったんだ」
「……っ」
「……」
言うしかないと、どこか追い詰められたようにそう口にしたけど、これはもしかして、いや、もしかしなくても私の胸に留めておけばよかったことなのでは。
今更後悔するけど遅い。
「……嘘だ……」
ロイは呆然とした様子でそう呟く。
私も口ではさっきのようにいいながら本当は信じていたいんだ。
「……あの温もりは…………」
そこで言葉に詰まる。
けど、ロイのいいたいことは痛いほどにわかった。
あの温もりも、笑顔も、私たちにとってはいつだって本物で……。
魔法で作られたとか正直もう訳がわからなくて……。
それからしばらく無音の間が流れた。
それは実際のところすごく短かったのかもしれないし、本当に長かったのかもしれない。
そんな簡単なことがわからなくなるくらいには私たちは正常に頭を働かすことができなくなっていた。
「……そういわれりゃあ、サアヤ様の……生まれた日……って……。サアヤ様の母親って……」
「……」
「なんだよ……これ……」
戸惑っている様子のロイに、かける言葉が見つからない。
「詳しいことは私にはわからないけど……さ、多分辻褄の合わないことはみんな魔法で有耶無耶にしちゃったんじゃない」
やがてでてきたのはそんな言葉。
そうとしか思えない。
そう、つけ足すのは、心の中だけ。
声には出せない。
「……っ」
私の言葉を受けてハッとした様子のロイくんは自身のズボンの方に手を伸ばし、やがて一つのネックレスをとりだしてみせた。
小指程の大きさの紅い宝石が金色のチェーンで繋がれたそれはとても綺麗だ。
「なに?これ」
「いつからか……ずっと持ってるんだ。誰か……大切な誰かからもらったみたいでさ」
「大切な誰か……」
「だけど全く記憶がねえから、それ……なのかもなって」
「つまり、サアヤみたいに生い立ちを有耶無耶にされた人だけじゃなくて、存在ごとなかったことにされた人がいたっていうこと?」
「……ずっと不思議に思ってたんだよ。誰でもない、でも、大切な誰かに呼ばれてる気がして……」
「……」
「それがもし、魔法で記憶をなくされたってことなら辻褄も合う気がしてな」
「そっか……」
「……でも……そうか……。諸々は分かったよ」
珍しくしんなりしてそういうロイ。
なんだか可哀想になってしまう。
「……でもなんにしても、俺にとってのサアヤ様は変わらない」
落ち着いた様子でそういうその姿は普段とは違って、十歳年上だということがしっくりくるから不思議。
そうだよね。当たり前のことなのに、忘れていた。
サアヤが魔法で作られた人形でも、人間でも、変わらない。
もらったもの。胸に宿るあたたかなもの。
いつまでも変わらないものが真実を教えてくれてる。
「……にしても、王様がゴウって少年だってのは……」
「驚いたよね……。私も話してて色々思い出したんだ」
本来なら他の人には話さない方がいい。
話さないでいよう。
そう思うのにロイには不思議と、そんなことまで話そうと思う。
それから私は、ゴウたちが英雄の石碑を壊したこと。
それによって封じ込められていた魔法が溢れだし、私や王様達、リオネスに住まう人たちのご先祖さまが魔法を使えるようになったこと。
色々話した。
気づけば夜は明けていた。
「お前はこれからどうする」
「え?……」
「王様のこと。知っちまったんだから今まで通りともいかねえだろ。それに今の王様の様子聞く感じじゃ、お前のこと構ってる余裕もなさそうだ。しかもほかの王様やら……バークスの野郎やらは……お前の前世のことに勘付いてそうだが、当のうちの王様ゴウ様は気づいてるのか?色々考えて動いた方がいいよな」
「そうだね……」
そう呟く私はまだ頭がぼんやりとしている。
私の前世が、サアヤ。
その人だとすればすべてのことに辻褄がいく。
この記憶のことにも。
だけど、いまだに信じられないような気持ちがあるし。
「私は……とりあえず今まで通り幼馴染たちと元の関係に戻れるよう頑張りたいかな。あとは……」
そこまでいって口ごもる。
当たり前にこのお城で時が過ぎていくと思ってたから。
毎晩サアヤと恋話して、昼はアイネくんのところに遊びにいったり頼まれたお仕事をこなしたり、ロイと口喧嘩したり。
当たり前に繰り返していくんだと思ってたから。今だってそう思いたいから。
急にそんなこと言われても困る、なんて。
「俺はバークスをしめる。そしてこいつを思い出す」
ロイは力強い声でそういって自身の手のひらの中のネックレスを握った。
でも、バークスさんの名を口にしたときその瞳の奥は揺れていた。
私が支えよう、そう思う。
「うん。わたしも協力する」
そういったらロイは予兆もなく、どこか安心した様子で眠りについた。
そんなロイに呆れてクスリと笑う。
夜はもう、明けていた。
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