第48話 その正体を知るために

「んん……」

頭がグラングランして、瞼を押し上げることすら気だるい。

そんな中、呻き声を上げながら、少しずつ少しずつ瞳を開いていく。

「……」

ここどこ?そう言葉を発そうとしてようやく、口に布が巻かれてることに気づく。

どおりで息がしづらいと思った。



にしたって、ここどこ?


全く見覚えがない。



どこかの物置っぽいけど……。


なんてことを思いながら辺りを見やる。



全体的に埃っぽくて、壁中に棚があって物が溢れてる。


広さは人が4人ほど入ったらもう満室というほど狭め。


体を動かそうとしたら、案の定手足もキツく縛られていた。



なんなのよ、一体……。


でもきっと、わからないけど、私をこの状態にした、そいつこそが、今回の件の犯人なんじゃなかろうか。


だとしたら、捕まってラッキーだったかもしれない。



……犯人はどこにいったのかしら。

縛り上げて放置って、ずっとこのままにするつもりなんだとしたら悪趣味が過ぎるわよね。


なんて思いながら目の前にある木製の、蹴りあげたら今にも木片と化しそうな古びた木の扉を睨みあげる。


そいつが入ってきた途端にすごい睨みを向けてやろう。


そんな小さな決意のようなものを胸に秘めていたらふっと後ろに誰かの気配を感じる。



「やっと目覚めてくれたね」

その声……。

どこかで聞き覚えがある。


そう思ってバッと振り返ろうとするけど体が縛られているせいで振り返ることもできない。


「ふぁふぇごはふぁふぁ」

誰よあなた。

発しようとした言葉は布に吸い込まれて消えていく。

結果でてきたのは意味不明な言葉たち。


それにしてもこいつどうやって私の後ろに?

扉が空いてないのは確かだし、先程までは後ろに人の気配はなかったし。

どうやって……。

そこでふと頭に浮かぶ言葉。

魔法。


そうだ。魔法。

現実じゃあ絶対にあり得ないなにかをあり得るものに簡単に変えてしまうそれ。

きっとそうだ。


妙に納得してしまう。


でも、魔法が使える人なんてこの国には私と王様以外いないし、国以外でも他国の王様と幼馴染たちしかいない。


でもこいつはその誰とも違う気がする。



じゃあ、だれ?


「相変わらず勇ましいね。この間も危うくこちらが頭を打たれるところだったよ」


「ひゃっひゃりふぁふぁふぁふぁ」

やっぱりあんたが、そう言おうとしたけど

出てくるのはやっぱり曖昧で意味の通らない言葉たち。


いい加減腹がたってくる。


話しかけられたらこっちだって答えなきゃならないのに口に布つけたままってどうなのよ。


「だけどそれは、彼女、に必要なものではないからね」


彼女?……。


さっきからこいつはなにをいってるの?


「俺も先程知ったんだよ。君のことを調べ上げてからね。君は片割れでしかないらしいじゃないか」

不意に首筋に当たる吐息。


気持ち悪くて飛び上がる。


この衝撃で縄が解ければいいのに。



「僕が求めているのは完全なるあの子なんだよ」


俺とか僕とかややこしいやつだなあ。



なんて思っていたら不意に後ろ髪を触られる。


全身を走る鳥肌といったら、もう……。



「髪の色も違う……」

「ふぁふぁふぁ」

だからなに、そう言おうとして途中で口ごもる。

もう喋ることは諦めよう。


にしてもほんとに気色の悪いやつね。


幼気な女の子の手足を縛り上げ口を塞いで鼻息かけて終いには髪の毛撫でるとか……。



まあ、幼気な、っていうところには自分でも疑問が残るんだけどさ。


「今の君じゃあ、片割れなだけの君では、とても……」

そういったその瞬間。

察する。


ああ、こいつ逃げる気だ。


私がなにもできない今この時を突いて。


そう思った瞬間、怒りと共に、なにか、強いなにかが腹の奥底から溢れ出してきた。


「ぐっ」

苦しそうな呻き声。


それが聞こえると共に自身を縛っていたものからも解放される。


それをやったのが自分なのだとか、そんなことを気にするよりも先に、私はバッと後ろを向いた。


ボンッ


けど途端に煙があがる。


やっぱり相手は魔法使いだ。


そう思って

「待ちなさい」

そう強くいいながら煙の中にバッと手を突っ込む。


そして、掴む腕。


けど予想外のことに掴んだ手が戸惑う。



「子供……」

思わず呟く。


そしてその呟きがきちんと形にされたところを聞くと私は自分でもなにやらよくわからないその力で口に巻かれていた布すらも破壊してしまったらしい。


そして煙が晴れるとそこには涙目になった小さな子供がいた。


不健康気味な白い色の肌。

マッシュルームを思わせる型の薄い金髪。

決して整っているとは言えない顔は余計に崩れ、いよいよ瞳から涙が溢れでてきた。


その子を見つめていたのはきっとほんの数秒のことだったのだろうと思う。

だけれど実際はそれが何分も、ずっと前から眺めているようなそんな気がした。



頭が鋭くズキンと痛んだ。


それと共に掴んでいた手の力が緩んでその子はパッと消えていなくなった。



見たことないはずなのにどこか既視感があってそれはまるで王様たちに対するのと同じだった。



そしてそれとはまた違う既視感もある。

私が生まれる前の違う人の記憶とは違うところ。


……きっと私自身の記憶だ。


頭が、心があの人が誰かって一生懸命叫んでいる。




あーあ……。



その答えにたどり着いた途端気持ちがガクンと重くなる。


腕についていた縄のかけらを払い落としながら暗い気持ちでため息をついた。


こんなの犯人がわかったって……。



誰になんて言えばいいのかわからない


そう思って途方にくれる。


いや、誰になんて言えばいいかわからないじゃないや。



ロイになんて言えばいいのかわからないんだ。



でも、いかなくちゃ。



私はその真実を胸にある人の元へ向かった……。



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