第46話 お別れ式

次の日。



厳格な雰囲気の中で決まり切ったような言葉で会は執り行われた。


そしてそこにサアヤの姿はなかった。



サアヤの姿がないって、当たり前と思うかもしれないけど正確に言ってしまえばそれは遺体がないということ。




それについて特に言及はなくて、

どうして、どこにサアヤがいったのか。

誰も教えてくれない。わからないという。



王様の最後にチラリと見せた表情とイテイルの王様がいっていたゴウネルスの王には気をつけろという言葉が気にかかっていて、私はひたすらにモヤモヤしていた。



そしてあることを胸に決めはじめていた



王様に直接たずねよう。



サアヤのこと。


不思議なこと。


疑問に思ってること、



色々。




ぶつけてみなくちゃ全部わからないことだから。




「おい。お前どこいくんだよ」


あちこちからすすり泣く声が聞こえる。


会としては終わったけど、まだお別れとしては終わっていない。


そんな会場。普段なら舞踏会が開かれるこの広いホールに国中の国民が駆けつけてサアヤにと花やら食べ物やらを送っている。


花の多くを占めるのは白百合。

たしか花言葉は純粋、無垢って意味だっけ。

アイネくんと仲良くなりたくて沢山花言葉の本読んだからな。記憶力のない私でも少しず覚えはじめている。


それにしたってサアヤにぴったりの花言葉だと思う。


「王様のとこだよ」


追いかけてきたロイくんにさらりとそういうとまた歩き出す私。


「はあ?お前こんなときに何する気だよ」

一緒に過ごした年数は長くはないけど一緒にいるときは長いロイくんのことだ。


わたしがなにか、よくはない何かをすることに気がついているんだろうな。


でもここで止められたらたまらない。



「ごめんねロイ」

そういうとわたしはわざと人混みに紛れ込んで、少し駆け足で歩みはじめた。





サアヤという優しくて強くて賢いお姫様を失くして国民の皆はきっと相当に辛いんだろうな。

悲しみに沈む人々の間をすりぬけながら思うのはそんなこと。


私には相変わらずよくわからない感覚だ。



もちろんサアヤがいなくなって悲しいという気持ちはわかる。

わかりすぎるくらいに



だけど王様をみたら目が焼けるとかそんなこと言われてた私からしたら自国のお姫様なんてのも想像つくわけがなくて……。

なあんてことをまたつらつらと考えていたら目的地にたどり着いていた。


随分と早くつけたな。


気づかないうちに早足になっていたかも。

それか走ってたのか。


目の前にそびえる玉座の間へと繋がる大きな大きな扉。


はじめてここにきたのは……。


確か外に出て目覚めた最初の日。


サアヤに連れられて歩きながらここの広さや大きさにたまげていた時。


あの時はサアヤのことまだ全然知らなくて、キラとは違ったタイプの妹属性の女の子だと思ってたなあ。


でも実際は私の方が妹みたいだったかも。

うーん。それよりかは双子みたいだったかもな。

なんてことを思いながら躊躇うことなくその閉ざされた扉を押し上ける。



「……」

扉を開けてすぐに、嫌でも目に入ってくる、玉座に座り豊かな髭を触っている王様。



王様は一瞬、とても冷酷な顔をしていたけど、私が入ってきたのを確認した途端いつもの笑顔を浮かべてみせる。



「おお、リィンいきなりどうした」

そういってから少しハッとしたように笑顔を消し悲しみをにじませた表情をする。


まるで、間違えた。今は笑顔の仮面を貼り付けんじゃなくて悲しむふりをするんだった。

とでもいうようだ。


「サアヤのこと。悲しくて仕方ない。こっちにおいで。二人で少しサアヤのことを話そう」

そういわれてゾッとするような、そんな気持ちを押さえこみ、それよりも強い気持ちを胸に、ツカツカと王様に近寄っていく。




そうしてすぐそこに王様の姿がやってくると私は腹一杯に空気を吸って、強い声をだす。


「本当のことをお話しください」

これは、確証が薄いこと。

だけど、口にしてみる価値はあるだろう。


「王様、あなたがサアヤを殺したのではないですか?」

現場に落ちていた白い髪の毛。

ロイが白髪のやつなんて男女どちらかさえわからないなんて話してたけど改めて考えたら白髪の人はこの城に案外少ない。

まだ城に来て日の浅いわたしの知識だから確証はないけれど。


そして心当たりがあるのはサアヤと王様。

でも長さ的にも質的にもサアヤの髪の毛ではないと思った。

よくよく考えてみれば、あれは老人の白髪。もしくは髭のように思えた。

そしてサアヤがなくなってしまったという時にみせた王様の表情。



わからない。

確たる証拠はない。

だけど……。


「なぜ、わしが殺さねばならぬ?……」

笑顔のまま、声のトーンを落としてそういう。


「わしの最高傑作じゃった……壊すわけがない」


「最高傑作……?壊すって……一体」


「……あれは呪いじゃったんじゃ……わしの……僕のせいで幼馴染たちは……」

急に先ほどとは打って変わった様子でそういう王様。


どこか気がおかしくなってしまっているように見える。



「お前さんはあの子によく似とる。フランが生まれ変わりだなんだといっておったな……」


かと思えば正気に戻ったかのようにもみえる。


どうしたというのだろう。


不思議と怖いという感情はなかった。


そこにいるのは小さな、小さな男の子に見えたから。


ああ。この感じ、既視感がある。


フラメニアの王様にも感じた……。


「ねえ、ゴウ。サアヤのこと、ちゃんと話して」

そういってから自分でびっくりする。

今の私がいったの?

王様じゃなくてゴウって。


しかも


「……そうじゃな……。お主には……話すか……」


泣きはらしたあとのようなぐったりした瞳。


「サアヤは……あの子はわしが魔法で作り出した……所謂人形じゃ。今まで作ってきた中で一番あの子に似ていた……」

「……う……嘘でしょ」

ただでさえポカンとあいてしまっている胸の中がさらに空虚になる感覚。

「……ほんとじゃよ」


不思議と王様が嘘をついているようには見えない。


「じゃあ……サアヤは……」

その先になんと言おうとしたのか、自分でもよくわからない。


勝手に脳内でフラッシュバックされてく大好きなサアヤの笑顔。


なんだかもうよくわからなくなって膝から崩れこむ。


王様もわたしと同じようによくわからなくなっているように見える。

私が崩れ込んだことに構っていられるような様子ではない。



「わしは……今思うとあの子自体のことをちゃんと見れていなかった……」

絞り出すようにそう言われても、私には何も言えないし、言いたくない。

「あの子を映すのが一番上手い鏡としか見れていなかった……」

「……」

「今までも何度も同じように作ったりはした。けどあの子が初めてだった。あんなうまく……」

「……わかりますか?」

「……何がじゃ……」

「なんでサアヤが、その”あの子”のことを上手くうつせていたか教えてあげましょうか」

怒りと悲しみで滲んできそうな涙を精一杯こらえながら声を張り上げる。

「あなたのことを愛していたからですよ」


サアヤはいつも、お父さんがお父さんがってそればっかり。


初めて会ったときからそれは変わらなくて。


不意に私にだけ零したお父様のことが好きって言葉もやけに切ない響きを帯びていたからよく覚えてる。


ねえ、サアヤ。

ごめんね。


私今頃になってあなたの気持ちがわかったよ。


私、てっきりあなたがお父さんのことお父さんとして好きなんだと思ってた。



でもあなたはきっと一人の人として生きて、そして一人のゴウという人のことが好きだったんだね。


今頃わかったなんて遅すぎるよね。


思えばあなたがいつもお父さんのことを思っているのはそういう意味の方がずっとしっくりくるものだったのにね。


「あなたのこと愛してたから。だからあなたのために似せようとしてたんですよ」


私が初めてサアヤに会ったとき。


私は彼女にキラのような妹属性を感じていた。

あれこそが彼女の本来の姿なんだって思う。


「あなたが懸命にいう、その子、は賢くて優しくて慎ましやかでそれでいて強い。そんな子だったのでは?」

「……」

言葉がなくても王様の表情がその通りだといっている。


「彼女はそれを懸命に演じてたんですよ。大好きなあなたに喜んで欲しくて」


本当の自分を押さえ込んでまで。


考えただけで胸がぎゅっといたくなる。


私だったらそんなことできない。


そしてきっとみんな、本当なら本来の自分を好いてもらいたいとおもうはず。

でもそれが叶わないと思ったから

思ってしまったから、サアヤは……。


「……」

何も言わずに立ち上がる王様。


そしてどこかに行こうとする。


「どこに行く気ですか」


「……サアヤを埋葬する」


「……はあ?今からですか?もう埋葬されていたのでは」


「……なおせるのなら……なおしてしまおうと思っていた……」


「なっ……」


そんな、人とも捉えていないようなこと、あんまりではないか。


「けど、やめた」


また、少年のような声になってそういう。


そして私の返事を待たずに歩いて行く。


一人になってからポツリと思う。

それにしてもあの子って一体誰のことなんだろう。


なんとなしに、イテイルの王様やフラメニアの王様がいうその子も同じ人に思える。


そして私はその人の生まれ変わり?それかとても似ている?雰囲気だけ似てる?


よくわからない。




そんな複雑な想いの後、不意にまたサアヤの笑顔が頭をよぎる。


埋葬されたらいよいよ本当に会えなくなる。



言い表すことができないような、鋭利なものが突き刺さりそこからじんわりと広がっていくような痛み。



今頃になってようやっとサアヤがいなくなってしまったことを理解したみたいだ。


頭の中はサアヤの笑顔でいっぱいで胸がギュッとなって苦しい。


私より長く一緒にいたロイや国民の皆のほうが辛いに決まってる。


けど私も、辛いよ……。

サアヤに会いたい。

なのに会えない。



またサアヤの笑顔が見れるって、たくさん二人だけの秘密の話とかできるって思ってしまう。



もう変えようのない事実なんだとわかっているけど、どうか夢であってほしい。

床に膝をついたまま、そう思っていた、その時だった。


「……っ!」

唐突に後ろから口を塞がれる。


抵抗しなくちゃ。


そう思った次の瞬間には私は意識を失っていた……。



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