第44話 口惜しいって悔しいって
サアヤ様が死んだ……。
慢性的な鈍い痛みの中で時節ズキリとした鋭い痛みを感じる。
そんな中頭の中でぼんやりとその言葉が浮かんできてそのままずっとそこにいて、それでは飽きたりないようにグルグルとまわりつづけている。
そんな感じ。
さっきまでそこにあった温もりも消えてしまって(自分でそうしたのに)冷たくて寂しくて心が悲しいと叫び続けているようで……。
不甲斐ない。
少しずつその事実を飲み込み始めて真っ先に湧いてきたのはそんな思い。
犯人は誰なんだとか、思い出せないこととか、目的はなんだと考えることとか、それよりずっと先に来る。
俺のせいだ、という思い。
俺が倒れたりなんかしなかったら、臨時であってももっと星凰の騎士として、ちゃんと動けていれば……。
俺のせいだ。
悔しい。悲しい。虚しい。
そんな複雑な思いが胸の中で渦を巻いて、苦しくて仕方ない。
俺がそいつを仕留めていれば……。
バッと起き上がる。
ズキン
頭だけでなく体までも貫くような感じたことがない痛み。。
「……っぐ」
また頭を抑えて、呻きながらもなんとかベットから立ち上がる。
全身に走る感じたことがない痛みに倒れかける。
けど行かなきゃならねえ。
俺はもっと強くならなきゃ。
今まで以上に強くならなきゃ、また大切なものを失ってしまう。
サアヤ様……。
そんな思いでなんとか扉にたどり着こうとしたその時、バンッと勢いよく扉が開く。
「ロロロロロイ」
慌てて、呂律がまわらず、終いには倒れ込んだそいつ。
「……なんだよ」
「私も後ろから頭打たれそうになって……ってなんで起きてんのよ!はやく寝なさいよ」
さっきまで驚きと恐怖と色々な感情で溢れていた顔に今度は強い心配と呆れの表情をうつしだしてそういうそいつ。
しばらくぼーっとしてた俺だけどやがてハッとして
「はあっ?!お前までか?」
と大声をあげる。
すると普段なら大声だすなとか色々うるさいそいつがブンブンと首を縦に振ってみせる。
「そうなの!あんたの為に仕方なくなにか作って持ってってあげようかななんて思ってキッチンに向かってたのね。そしたら後ろに気配を感じて慌ててぶん殴ったんだけどそいつにはあたらなくてそいつがどんなやつかもわからなくて」
「まわりに人……は星鎖の騎士団のやつらはいなかったのか」
「うん……」
そうか……。
サアヤ様の件で皆んな動揺しているこの時をついて……。
「本当にいけ好かないやつだな」
口から出たのはそんな言葉。
誰かは知らんが。
「きっと犯人って城の内部の人……だよね」
俺がまさに今思ってたことを口にするリィン。
「……認めたくはないがそうなんだろうな……」
「……でもでも!こうやって逃げれてすごくない?私っ」
元気にそういうそいつ。
不謹慎とかじゃなくて、こいつなりに俺のことを励ましてくれようとしてるんだろうなって思う。
「……だな。お前が無事でよかったよ」
そういってリィンのやつの頭を小突いてみせるとリィンの表情が明らかに崩れていく。
「うええっ。そのセリフとてつもなく似合わないからね」
「知ってるわ」
そういいながら自然と心のモヤモヤが晴れていることに気づく。
完全に消えたわけではないがさっきよりいくらかましになってる。
変なの。
それから心の内側でも思わなかったような、考えないようにしていたことが口をついて出てくる。
「俺……実はあの日最後のワガママを言おうとしてたんだ」
「……最後のワガママ?」
自分でいっといて自分で驚く。
こいつになに言ってんだよ、俺は。
そうは思いながらも口は勝手に言葉を紡いでいく。
「サアヤ様にさ。言えてたら、もしかしたら救えたかもしれない」
「……どういう意味?っていうか、そうだよ、そうだ!私、ソウネルブの舞踏会のときにあんたに告白の結果を訪ねたのに曖昧な答えしかもらってないし」
「はあ?告白なんてしてねえよ」
「はいい?!」
「うっせえなあ。当たり前だろ。相手はお姫様なんだ。まあ俺なりにケジメはつけたけどな」
「なにそのドヤ顔。なんかうざい」
「うっせ」
「で、なんなのさ、その最後のワガママとやらは」
「……なんか、変な話だけどよ、お前があのアーなんちゃらに熱あげてんのみてたら触発されたみたいでな」
「アー……もしかしてアイネくんのこといってる?てか、触発ってなによ」
「とにかくだ。ケジメをつけはしたけど、なんとなくサアヤ様のことが気になってな。あの日の夜、星凰の騎士の任務を遂行してた俺はサアヤ様と関わるチャンスが山とあった。で、俺は仕事もあるし行けないからってチケット渡そうかと思ってたんだ」
「チケットってなんの……しかもそれが最後のワガママってどういう意味」
小首を傾げるリィンにやっぱりまだまだこいつはガキだなあと思う。
まあ俺もそういうときがあったんだけどな
「サーカスのチケット。真面目なサアヤ様のことだからな。渡したところで行ってくれるとは思わなかった。それに……仕方ないからガキのお前に説明してやるとな、最後のワガママってのは俺が私情をもってサアヤ様に接するのはそれが最後にするからってことだよ」
「はあ?!ガキってなによ。それに結局よく意味わかんないんだけど」
「まあガキだからな。仕方ないな」
「ほんっと腹立つわね、あんた」
……でもほんと、最後のワガママを実行してりゃあよかったな。
もしその念願が叶ったら、サアヤ様はその犯人がやってきたとき部屋にはいなかったかもしれなくて、そしたらこんなことには……。
いやいやそれよりも俺の実力不足だろ。
なに変なこと考えてんだよ。
ったく。不思議なことにリィンの前だと考えてもなかったようなことを口にする自分がいる。
「きっとそれがあんたの本心なんだよ」
「……はあ?」
「だって目がマジだったもん。」
やけに落ち着いた声でそういうと立ち上がるリィン。
「犯人、さがそ」
そういうとこちらにスッと手を差し伸べてくる。
「今ならまだ間に合うはずだよ」
いつも子供みたいで妹たちよりずっとうるさいこいつも、偶に、ほんの偶にだが、すごく頼もしく輝かしく見えるときがある。
「……だな」
そういうと俺はそいつの手を取り立ち上がった。
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