第37話 風の噂の花の中

「うひょ〜っ。この熱風、懐かしい〜」

「おい、変な声出してんなよ」

「へーい。あっ、そうだ。私、ちょっと寄りたいとこあんの。悪いけど王様への報告は頼んだよ、ロイ」

「はあっ?!おい、まて」

そんなロイの声を背に駆け出し、すぐに物陰なか身を潜めた私は、今現在、懐かしのゴウネルス城の中にいる。


いやあ、故郷ってこういうものなんだね。

すごく懐かしいし安心する。

我が家って感じがするなあ、なんてしみじみ思う。


さてと、ロイはまけたみたいだし、私はさっそくあの子に会いに行こうっと。


そう思ってしゃがんだ体制で抜き足差し足忍び足、なんとかロイの声が聞こえてくる方向から離れた場所にでる。


よし。もう立ち上がって物陰からでていいかな。


そう思ったら……


「いたっ」

「おお」

岩のようにごついなにかにぶつかりよろめく私。

痛みに悶えながらも目を開け前を見ると……

「ん?……あなたは……」

そこにいたのは、ロイのご友人である

多分、バーなんちゃらって名前の男の人。


ちゃんと会うのは初めてだ。

私はロイから多少話に聞いてたのと遠目からは見たことあったから知ってるけど……



まじまじと私を見てくるバーなんちゃらさんに

「あの、私リィンです。あなたは、ロイの友達ですよね?」

という。

「え?あ、君がリィンちゃんなんだ。」

どこか動揺した様子でそういうバーなんちゃらさん。

「あの、どうかしました?」

「いや、なんでもないよ。ちゃんと見るのは初めてで、あまりに綺麗なもんだから驚いたんだよ。ロイの話からは想像できないくらい、さ」

そんな言葉に、普段あいつがバーなんちゃらさんにあたしのことをなんといってるのか気になると共に腹が立ってきたけど、そんなの感じさせないように微笑んで、

「それではまた」

そういって駆けだした。


そして駆けだしてから、今綺麗っていってた?……いやいや、聞き間違いだよね!なんて自問自答していた……


後方で、「嘘だろ……なんでこんなとこに……」なんて言葉が聞こえてきたことには気づかずに。












「おお!やっぱりいた!アイネくうん」

普段ださない、少し甘ったるい声でそういうと駆け出す。


そう、私の目的の場所は城の中庭の花園。

そしてそこにいるアイネくん。


「ああ……」

明らかに温度差のある冷めた、というか困惑した声音でそういうとこちらに一瞬向けてくれていた視線をすぐ目の前の花々にうつすアイネくん。

でも私はめげずに、アイネくんの手を取り、ブンブンと上下に振る。

「アイネくん、ありがとう!君のおかげで私はまた前を向いて走り出せたんだ。まあ、その走りだせた先の場所は今回の場合いいものではなかったんだけど……。でもなんにせよ君のおかげで走れたの!ありがとう」

「……はあ」

明らかに引いている様子のアイネくんに流石にやばいかと思い

「じゃあ、またね!」

そういい駆け出す。

恋は押し引きが肝心なんだよね。

うん。

押すだけじゃなく引かなきゃね。


そんなことを思いながら中庭をでて廊下を歩き出す。


と、すぐにあることに気づく。


「やけに見られてる……」

そうなのだ。

通りすがる召使いさんたちみんながなぜか私のことを横目にみたり、振り返ってまでみてヒソヒソと何か話してるのだ。


え?なんで?


すんすんすすん。

慌てて自身の体の匂いをかぐ。


昨日はお風呂に入れてないから多少は臭いけど、そんな振り返るほどの悪臭かといわれればそうでもない……。


じゃあ、見た目?


慌ててそこらのガラスに映る自身を見る。

ガラスにうつったものだから一部信憑性は薄いが、まあ特段おかしなところはない。



……では、なぜに?……。



怖くて聞かないようにしてたけど、今度通りすがった子がいたら会話を聞いてみるか。

そう思いながら歩いてるとさっそく目の前から女の子二人組がやってくる。


よし、来たぞ。


聞き逃さないように……


「リィン様だ。きゃー。なんか、私、昨日読んだ第32巻の内容思い出しておかしくなりそう」

「わかる。あの後なのかな、なんて思っちゃうよね」


……




第32巻?あの後?

なんのこっちゃなんだけど


みんな私を誰かに重ねてるのかしら。

そういうことなのか?


よくわからん。



あっ!そうだ。

サァヤ!


サァヤに聞けばわかるかも。


サァヤはいい意味で王族らしくないとこがあって、召使いの子達とも仲がいいし、彼女らの話の意味がわかるかも。



そう思った私はさっそく、サァヤがいるであろう星鎖の騎士団の訓練場に向かった。





星鎖の騎士団の訓練場につくと、すぐにサァヤの姿が目に入ってくる。

ちょうど休憩中のところみたいで、水を飲んで、汗を拭いている。


相変わらずかわいいなあ。


「サァヤ」

「わっ。リィン。いきなりで驚いたわ……。帰ってきてたのね。おかえりなさい」

驚いた顔をすぐ笑顔に変えてそういってくれるサァヤに私はすぐ「ただいま」そう答える。

「あのさ、サァヤに少し聞きたいことがあるんだ」

「?なあに。私のわかることなら答えてあげられるけど」

「みんなが私のことみてなにかヒソヒソいってるんだよ。やれ32巻だの、あの後だの……。それが何か知ってる?」

そんな言葉にサァヤは、少し動揺したように持っていたタオルをおとす。

「えっと、それは……」

「え?なんかやばいこと?」

サァヤが動揺するくらいにやばいことをなにかしでかしたんだろうか、私。


「ごめんね、サァヤ。無理に言わなくていいよ。じゃあ」

サァヤを困らせたくはない。

私は潔く身を引き、なにかをいいかけていたサァヤの元を離れ、また廊下を歩き始めた。


「ほんと、ロイ様とリィン様ってお似合いよね」

そして聞こえてきたその声にハッとする。


「ねえ」

「えっ!?は、はい」

急に肩を掴まれ動揺しているその女の子に私はどこか血眼になりながら



「その話と32巻とあの後は関係してる?」








「え……つまりは、私とロイの恋愛物語が宮中で大流行していて、この間だされた32巻ですごい進展があってみんながソワソワきゃーきゃーしてるって……」

「そうです、そうなんですう!」

「もう、最高なんですよお!私、ロイ様のファンですけど、リィンさまならいいなって」

「いや、まって、そんな、ありえないって」

はじめと立場が逆転し、今は私のほうが動揺して追い詰められてる。


にしても私とロイの恋愛物語なんて

いったい誰が……


そんな心情を見かねたように女の子が口を開く。


「書いた人はわからないんですけどね。でも、とっても素敵な文章と物語で、しかもロイ様とリィン様っていう素材もいいですし」

「素材……」

もはや人扱いもさないのかしら……



「見つけたぞ」

そんなとき、今一番聞きたくなかった声がしてきて、目の前の女の子たちがすごい悲鳴をあげる。


「きゃーーっ!嘘でしょ。目の前にお二人が」

「私たちははやくお暇しましょ。邪魔になっちゃう」

なんてわーわー会話しながら去っていく女の子たち。


時節こちらを振り返っては頬を上気させてなにやら楽しげに話をしている。


楽しそうで何よりだよ。


だけどね、私にはこれからそんな君たちが想像するようなロマンスからは程遠い地獄のお説教がまってるんだよ。


……いや、待てよ。

お説教する前にこの話をすれば、ロイもお説教どころではなくなるのでは?……。



「よくもやってくれたなあ、あ?」

まるでどこぞの賊のような口調でそういうロイに、私は必死に真面目な顔をつくって口を開いた。


「ロイ、私たちの物語があるらしい」

「はあ?」


そこから私のお説教を防ぐための口説く長い説明がはじまった……。


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