第36話 拳をかわして

「その状態でも楽しいけど、こっちの方が楽しいわよね」

そういってオカマ王がパチンと指を鳴らすと私とロイをつないでいた手枷と足枷がパチンパチンと音を鳴らして外れる。


……というか、


「楽しいってあんた」

「楽しいって、てめえ」

重なったその声に隣を見れば今の自分と同じような険しい表情でオカマ王を睨みつけるロイがいた。


ふと思う。


もしかして私たちって似てる?

似てるからこんなにぶつかるのかな……


そんなことを思ってる矢先にも、ケケが刀を突きつけてくる。


慌ててなんとか避けられたもののほんと、あいも変わらず失礼なやつだ。

遠慮が一切感じられないどころか悪意をムンムンと感じる。



「お前は気にせずただ走れ!」

そんなことを思う私の前に剣を突き出して、ケケの刀を弾くとそういうロイ。


私は返事をする余裕もなく、かけだした。


言わずもがな、というかんじで、そんな私にはキラがつく。


「どいて、キラ」

「……」

何も言わず、私の前に拳を突き出すキラ。

慌てて避けるけど、危うく当たるところだった。

それにそれは、ただの拳じゃない。


炎を宿した拳……


そっか。魔法で

そんなことまでできるんだ。


それにしても、そのあまりにも、手加減なし、という感じに、なんだか腹が立ってきた。


こっちがどれだけキラのかと思ってるかも知らないで


「……っ!」

私は玉を適当にそこらに投げると、すぐにキラに応戦する。


もう、玉なんてどうでもいい。

勝つかどうかなんて、どうでも。


その拳に宿った炎を恐れることなく、もうやけになっていて

素早く両手首を掴むと、そのまま押し問答のような形になる。


「……離して」

自分でもびっくりするくらい力が出てきてて、キラが苦しげにそういう。


「再会したとき私の顔みて気持ち悪そうにするし、まるで他人みたいな扱いだし、こうやって会っても一言も話してくれない」

一つ一つ言葉にするたびに胸の奥底から熱いものが溢れてくる。

「ほんとひどいよ。なんで何もいってくれないのさ」

キラの瞳が、少し揺れた気がした。


もう少しで、届きそう



そう思って改めて口を開こうとした、そのとき


どんっ


すごい勢いでぶつかられ、キラの手首を離し倒れこむ私。


見ればケケがいた。


私がさっき手放した玉のことには気づいていないのか、気づいてるのか。


玉よりキラってことか。


なんにしても、腹の立つ男。


って、ロイは?……


「……認めるわ。あなたたちの勝ちよ」

座り込んだまま、ぼーっと、声のしてきた方をみれば、そこには、オカマ王に玉を渡し合え、こちらに歩いてくるロイくんがいた。


え?いつのまに……


「ん」

私の元にくると、無愛想に手を差し伸べてくるロイくん。


私は何も考えずにその手を取り立ち上がる。


「よし、もう帰るぞ。」

そういうと一人勝手に歩き出すロイ。

「ちょっ、待ってよ。そもそも、手紙で呼ばれたのってなんの用事なのかまだわからない」

「わかるだろ、こんなの」

相変わらずピリピリしているロイくんはどこかヒステリックにそういう。


なんだか少し怖くて、何も言い返せずに黙り込む。


けどそんなの感じさせないように


「へえへえそうですか」

なんていう。


それから最後にちらりとキラの方を見やる。


ケケのやつが邪魔でよく見えないけど、明らかに顔をそらされた気がする。


……あと少しで


届きそうな気がしたのになあ……



なんて、気のせいなのかな。


そんなネガティヴな思いを抱えたまま、私はその場を後にした……。










「……」

「……」

帰りの船の中。

行きとは大違いに静まり返った船室の空気に段々と息が詰まってくる。


普段口喧嘩してるときはうるさくて仕方ないし腹も立つけどこうしてるくらいならうるさく口喧嘩してた方がずっとましだ。




向かい合わせに座っている私たちは目も合わせずにただただ黙り込んで目の前に並ぶ夕飯たちを見つめてる。


気まずい空気を抜いても何かを食べたい気分ではない。


ので、こうして見つめてるんだけど……


「ああーっ!もう無理!喋らないのとか無理!」

頭をかきむしってそういうと立ち上がり目の前にあった骨つき肉を手に取りロイに差し出す。


「ほら、食べなよ」

「いらねえよ」

「なんでよ。いいから食べなさいよ」

「だからいらねえって」

「……」

むっとして席に着く私。

せっかく気を使っていったのに

あまりにも無愛想すぎる対応には腹が立ってくる。


「あのさ、もしかしてなんだけど」

怒ってくると遠慮というものも、考えるということもなくなってくる。


「私のことで怒ってくれてたりします?」

「……まあ」

やっとこちらをみたロイの瞳は、みたことないくらい鋭くて強い瞳。

「怒ってる」

そんな言葉につい深いため息がてる。

「あのさあ、ロイくん。それ、まあ、ってレベルじゃないから」

そういってから改めてソファに座りなおす。

「知ってるよ。私だって。言われなくても

あれ、完全に私のことバカにしてたよね。

変な幻まで見せられたし、実質ロイくん狙いなんだろうね。とにかく、バカにされた気分だよ」

「それ以上いうな」

「はあ?なんでよ」

「そんな辛そうな顔してまでいってんじゃねえよっていってんだ」

そういうと立ち上がりスタスタとこちらにくる。いきなりのことに驚いていたら、最終的に私の隣にぼさっと座るロイ。

「な、なによ、いきなり」

唐突なその行動の意味が理解できず身構える。

「なに身構えてんだ。やめろ」

しかし私の構えはあっさりロイに崩された。


一息つくと、前を見て口を開くロイ。


「今回のことがあったからって、諦めんなよ。」


そんな言葉に、ハッとする。


そっか。

今更気付く。

ロイは、ロイだけは、私の本当の思いも知ってて、そしてそれを支えようとしてくれてるんだ。



だから、こんなに怒ってるの?……


そう考えたらふっと笑いが溢れ出す。


「なんだよ、いきなり。きもちわりい」

そういうロイに、笑いがすこしおさまってきたわたしは


「私もあんたのこと支えたい」


そういう。


正直、自分でもびっくり


私がロイにこんなこというなんて。


「はあ?なんだそれは」

一気に怪訝そうな顔をするロイ。


「あんたが嫌っていってもやめないから。大丈夫よ」

「なにが大丈夫なんだよ。いみわかんね」


ロイがそう答えて、それから少しして、自然と笑いが起こって、何もいわずに、二人とも夕食に手をつけ始めた。


不愉快な思いも多少はきえて、癒えて、

私たちはうるさく口喧嘩なんてしながら綺麗に夕食を平らげた。


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