第34話 こいつとペアは絶対いや

「リィン、キラ。二人にはそれぞれ己の部下と手足を繋ぎ、その状態でこの王城中に散らばる3つの玉を集めて来て貰う。」

「……」

顎が外れるんじゃないかってくらい、口を開いた。

こんなのは初めてだ。


いや、だってさ、だって今、聞き間違えじゃないなら部下と手足を繋いでっていわなかった?


「道中にはトラップが仕掛けられている。二人で協力して乗り越え、より多くの玉を集めた方が勝ちとする」


ふっと隣のロイくんを見やったら私と全く同じ顔をしていた。


なんだか少し腹が立ったので軽く脇を小突いておく。


「なにすんだよ、お前。」

「あ、ごめん。腕が勝手に」

「ああ?ほんと、お前いい加減に」


そんな風にゴタゴタしてたら、途端。


カチンッ

カチンッ


そんな音がして……


「え……」


私の右手首と右足首が、ロイの左手首と左足首とがっちりと、隙間なく鉄の拘束具でくっつけられていた。


え……。

こういう感じなの?

手足を繋げてって輪っかみたいなものでやるのかと思ってた。

そしたらちょっとは隙間があるし……なんて思ったんだけど……。


すこし足を動かそうとして驚く。

見た目以上にぴったりくっついてる。



ふと隣を見ればキラとケケも同じような状態だった。


……なんかモヤモヤするな。


「ちょっとあんた!」

まだ怒りは続いていて口調は相変わらず。

「そこのあんたよ、あんた!ケケ!」

名前を呼んだらやっと気だるそうにこっちを見やるケケ。

ほんと感じ悪い。

いつも口喧嘩してる相手でもロイのがずっとマシだ。

「その場所はトウヤの場所なんだから!調子乗んな!」

敵意むき出しでそういうものの、当のケケはなんのことやらといった反応。

まあ、当たり前なんだけどさ。


いっておきたかったんだよね。


「おま……耳元で叫ぶな。アホか」

「ああ……そっかそっか。ごめん、ロイ」

繋がれてることをすっかり忘れていた。

申し訳ないことしたな。

「てか、お前、生理?」

「……」

「さっきから妙にイラついてってから。ほら、おれ姉妹しかいねえからわかるけど女って生理前イラつ」

そこまでいったころで、私の浴びせる、このデリカシーなさすぎてどうしようもない男めが、という視線に気づいたらしいロイくんは黙り込む。


ほんと……ロイって……


ふつふつとくる怒りを押さえ込みながらフラメニア王の方を見やる。


「あと、十数えたらはじめるか。」

そんな王様の言葉にハッとして姿勢を正す。

「足、引っ張んないでよ」

「お前こそ」

「十、九、八、七、六、五、四、三、二、一、ゼロ」

そんな声が聞こえた瞬間駆け出そうとする私。

けど……


ドタンッ


すごい音をたてて、私とロイは前のめりに倒れこむ。


今ほどお互いの波長の合わなさを呪ったことはない。



そんなことを思う私の目の前を、すごいスピードで駆けていくキラとケケのペア。


キラはケケと肩を組んでいて、ケケも……いや、ケケはキラの腰に手を回している。


「ちょっ、ケケ、あんた!うちのキラに」

そういってる間にも、二人は玉座の間から姿を消す。


「だから耳元で大声だすな。あと、走るときは走るって声かけろ。じゃなきゃこうなんのは明白だろうが」

「な……。確かにそうだよね……ごめん」

「気にすんな。ほら、立つぞ」

「へい」

「一、二でいくぞ。一、二」


なんとか立ち上がった私は、仕方なく、ロイの腰に手を回した。


「この方が良さそうだから」

付け足すようにそういうと「いや、逆じゃね」なんていいながら、私の肩に手を回すロイくん。


「お前って案外抜けてんのな。」

「……此の期に及んで私のこと愚弄する気ですか」

「ちっげえよ。とりあえず、一、二、一、二のリズムで足を交互にだして進んでこうぜ」

「……わかった」

色々と言いたいことはあるものの、今は時間が惜しい。我慢しよう。


そんなこんなで、私たちのペアも歩みを始めた……。







「絶対、右」

「いや、絶対左だろ」

「はあっ?!あんたの目はお飾りなの?あそこに!明らかに!玉おちてんじゃん!」

「お前こそアホか!あんなわかりやすいのが本物なわけねえだろ。トラップに決まってる」

「なっ……」

確かに、そう言われればそうかもしれない、なんて思って口ごもる。

「だから左。いいな?」

「……っ」

別に勝ちとか負けとかないんだろうけど、負けた感じでそれは嫌だ。

いや、でも、いま一番優先すべきは私情じゃなくキラに勝つことなんだから……。

「だけど」

油断していたロイの腕を思いきり引っ張る。

「やっぱりあっちでしょ!男なら」

「お前男じゃねえだろ!」

そんなツッコミと共になんだかんだいって私に引っ張られていくロイくん。

「お前……なあ……」

うんざりした様子ながらもう抵抗するようなこともなく、大人しく私についてきてくれる。


それから少しとしないで私たちは玉の元にたどりついた。

「玉ってなんか卑猥だよな」

「そんなこといってるあんたが一番卑猥だよ」


目の前で見るとなんだか怖くなってくるくらいに玉らしい玉だ。


「ロイ……もう、やめる?」

「はあ?お前、ここまできてやめるはねえだろ。それに、後ろ見ろよ」

そう言われて後ろをみてみれば、そこにあったはずの道が跡形もなくなっていた。

「…………」

「だからいったんだよ。トラップだろって」

「……へい」

「もうここまで来たら仕方ねえだろ。お前、とれよ」

「……そこは、騎士としてかっこよくとってくれてもよくない?」

「こういうときだけ、騎士とか使いやがって。そもそもこっちに来たがったのはお前だろ」

「……へい」

玉に手を伸ばす私。

「あれ。すんなり、とれた」

手のひらに乗った玉をみてそういう私に

「どうだか。まだ油断はできねえぞ」

というロイくん。

「わざわざビビらせようとしないでよ」

「ビビらせようとなんかしてねえよ」

そんなロイくんの反論に言葉を返そうとした、そのとき……


足が地についている当たり前の感覚が消えて


私たちは体勢を崩し真っ逆さまに


落ちていった……

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