第33話 予想外の歓迎

目の前には、ご満悦そうなフラメニア王と、そんなフラメニア王に抱きつかれてうんざりした様子のロイくん。

この場合私は一体どんな反応をすればいいんだろう。

この珍妙な光景に対する不思議な気持ちと笑い出しそうな気持ちとで、きっと今の私の顔はぐしゃぐしゃだろうな……。


「ずうっと会いたかったのよお、ロイくううん」

強烈なそのイントネーションと声音に思わずゾッとしてしまうが……。

私よりロイくんの方がずっとゾッとしているようで(当たり前だが)今までに見たことがないような表情をしている。

これはこれで面白い、なんていったら怒られるわよね……。

と思いつつ、

「ええと、これは、どういう」

とたずねる。

けど、どうやら、フラメニア王の耳に私の声は入っていないようでガン無視される。

それを見かねて自らその理由を問うロイくん。

「……どういうことですか」

「もっちろん、ロイくんのことがだあいすきだからよん。私の初恋の人にそっくり」

語尾にハートマークをつける勢いでそういうフラメニア王に、というか、耳元でそういうフラメニア王にいい加減うんざりした様子のロイ。

「ロイくんはもらうわねん」

「え?」

「……はい?」

「だあかあらあ、ロイくんはもう、あたしのものってこーっと!うふふ」

「え、いや、あの、」

フラメニア王のそのキャラの強烈さと話の通じないその感じに気圧されて言葉がうまく出なくなる。

「それは、困ります」

やがてでてきたのはそんな、不器用にも程があるような言葉。

「そんなの知らないわよん」

「困りますよ!」

「知らないわよってなにすんのよあんた!」

言葉でどうにもならないなら、とロイの元へ駆けつけ、フラメニア王を引き剥がそうとした私だけどあえなく失敗する。

「すみません。でも、ロイは渡せません!」

「なんでよ」

「私のだからです」

言ってから後悔する。

いやいや、私のってなによ。

私の部下、と言い直そうとするけどそんな隙を与えずに私のことを引き剥がし、

「あん!もう、信じられないわん!ちょっと!キラを呼んでちょうだい!」

そんな叫びに近くに立っていた召使いさんが駆け出す。

突如飛び出したキラの名前に心弾ます私。


ロイくんには申し訳ないがキラに会えるというなら……


「おいお前!幼馴染の名前が出たからって俺のこと見捨てようとしてるんじゃないよな?」

ぶすっとしてそういってくるロイに慌てる。

こやつ、なぜ私の心のうちを?……

「は、はあ?そんなわけないじゃない!今だってあんたのこと心配してるわよ」

「はっ。どうだか。俺がこうなったときの心配具合と幼馴染と会えるかもって嬉しそうな度合いが比じゃねえんだよ」

「な、なにそれ……そこ比較するとこ?てか、細かっ!ほんと面倒な男ねあんた」

「ああ?お前こそなあ」


「ただいま参りました、父上。」


そんな声にハッとして振り返る。


「キラ……!」

玉座の間入り口に、堂々と立つキラの姿は、やっぱり、私の知っているキラとはどこか違う。


けど……


「キラ……!」

即座にキラの元へ駆けていこうとする私。

……なんだけど、背後で聞こえた「ほらな」という言葉に歩みを止める。


ほんとは無視して行こうと思った。


でも、ロイくんの言う通りなんて癪だ。


「なにがほらな、なのよ」

すぐに体制を切り替えてロイの方を見やる私。

ロイくんは少し驚いたような表情。


……ほんと失礼なやつ。


「キラ、よく来てくれたわね。これから、この子を打ち負かしてほしいのよん」

そんなフラメニア王の言葉に先ほどから募りに募っていたイライラがピークに達する。


「はあ?!ほんと、ふざないでください!」


それは、フラメニア王単体に向けられた言葉ではないような気もした。


人間って、なにか大きな悲しい辛いことがあったとき、まずは大粒の涙を流すと思う。そうやって気持ちを落ち着けると思う。そして涙で全てが流れた時、後に残るのって、怒り、だと思うんだよね……。


そしてその怒りは、多分、ちょっとしたことで大爆発する……。


私はこの間までずっと、幼馴染たちとのこと、泣いてばかりで嘆いてばかりいたんだけど、今はその、残った怒りの部分に火がついたみたい。



驚いた様子のフラメニア王の真ん前に立つと、その瞳をまっすぐに覗き込む。


そして、怒りに任せて言葉を続けようとした。


……んだけど……


瞳を覗き込んで、すぐに、ハッとして息を飲む私。


なんで?


なんで、こんな、腹の立つおかまの王様の瞳の中に、今にも崩れ混みそうなか弱い少年が見えるの?



そして私はなぜ、その少年に既視感を覚えるんだろう。



けど、少年の姿がみえて、動揺したのも一瞬。

直ぐに立て直して

「上等。そのキラとの勝負受けて立つわ」

そう受け答える。


「……そう。」

さっきまでの様子が嘘みたいに静かに答えるフラメニア王。


「じゃあ、うちのキラが勝てばロイくんは貰う。いいわね?」

そういわれて、もちろん、と答えようとして立ち止まる。

私が勝手に答えていいことなのだろうか。

そう思って。

王様の横にいるロイを見やる。

真っ直ぐな瞳がそこにはあった。

信頼している瞳だった。


だから、私は答えた。


「もちろん」


「そう。じゃあさっそく決闘の用意をするわ」

そういうとロイを手放しスタスタと玉座の方に歩いていく王様。


そんな王様の背中に鋭い視線を向けていると、そういえば、ロイ……そう思って、ロイの方を見やる。



膝をついて、玉座の方を見やってるロイ。


「ん」

手を差し伸べると「ああ」そういって私の手をとり立ち上がるロイ。



「にしてもお前、俺のこと自分のものだと思ってたのかよ」

「……は……はあ?」

そんな言葉が投げかけられるとは思っていなくて思わず裏返った声が出る。

そうだ……

私ってば何を血迷ったのかこいつのことを私のものとか言っちゃったんだ……

「ち、ちがくて、あれはその、言葉の綾っていうか……」

ほんとはちゃんとした言葉を発したいし、実際そのつもりなんだけど、実際に口から出てくるのはどもったまとまりのない言葉たち。

なんだか妙に気恥ずかしくなって、頬が熱くなるのを感じる。

こんなとこロイに見られるなんて屈辱だし、ほんと最悪……!

そう思ってうつむいてたら

「別に構わねえけどよ」

そんな言葉とともにあたたかで大きな手がおりてきた。

それは私の頭の上に乗っかるとポンポンと少し強めに私の頭をたたく。

本人は撫でてるつもり……なのかもわからないけど。

顔を上げたらロイは全然私の方を見てなかった。フラメニア王の動向を見ていた。

助かった。

そう思ったら、特に考えるでもなく、スッと

「ありがとう」

そう呟いていた。

「ん?なんだ?」

そういわれてもう一度「ありがとう」といおうとするけどロイくんの顔にいたずらっぽい笑みが浮かんでいるのを見て口を紡ぐ。

「聞こえねえなあ」

そう、わざとらしくいうロイ。

なんか、今日のロイくんはいい感じね。

……と思ったらまたこれだ。


こやつはどれだけ自分の評価を上げて下げてするのが好きなんだろ。


ほんと、変なやつ。



「バカ、アホ、間抜け」

さっきと同じ声の大きさでそういう。

「ああ?なんだと、お前の方がバカでアホで間抜けだろ」

「やっぱ聞こえてんじゃない。ほんと、バカ、アホ、間抜け!」

「ああ?!んなこといったらお前は」

「おい、アホども、やめろ」

「「はあ?!誰がアホよ(だ)」」

私とロイくんが二人して怒鳴るその先には呆れた顔をしたケケがいる。

いつの間にここに。

そう思ったら、その隣にキラもいることに気づく。


……相変わらず、目も合わせてくれないんだな。



ちょっと悔しい思いでキラを見つめていると

「では、これより決闘のルールを説明する」

フラメニア王が高らかにそう宣言した……。

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