第32話 花と島々と蝶々と

「ひ……ひどいよロイくん……ねてたのにむりやりおこしゅなんてひどしゅぎます……」

「ひどいのはどっちだよ。ったく、しっかりしてくれよ。おい、そこ、気をつけろよ。段差あるからな」

視界がぼやけて頭の中はお花畑状態で、全身に全く力が入らない私は今ようやっとフラメニアに足を踏み入れたらしい。

もうなんだかよくわからないけど……

「では、いってらっしゃいませ」

そんな声がしてロイくんが返事をして私の肩に手を回した状態で(さっきからずっとこの状態。ロイくんがいなかったらうまく立っていることすらできてないだろう)歩き出す。

「おいお前もちっとは足動かせよ」

「うごかひてるよお〜」

なんていいながら笑うとロイは呆れたようにため息をついた。







それから暫くして私たちはようやっとフラメニアのお城についた。

ぼやけた視界にうつっているのはフラメニアについたときから変わらない見渡す限り続く花畑とこれまた大きくて壮大なおしろ。

柔らかめの白色に優しい赤色や金色があしらわれていて全体的に蔦が絡んでいてなんだか童話のなかから飛び出してきたかのようなお城だ。

「しゅごいねえ〜」

「あー、そうだな。ほら、そこ階段あるからな」

「はーひ」

「っておまっ」

階段に見事に蹴つまずいた私はロイくんの手からも離れ思いっきり前のめりに転ぶ。

「大丈夫か?」

膝をつき慌てた様子でそう声をかけてくれるロイくんに「大丈夫、大丈夫れす」なんて答える。

頭も体もふわふわしてて痛みを感じない。

「おい」

そんなとき聞こえてくるどこかで聞いたことがあるような声。

「おまえ……」

そう呟くロイくんの声音には明らかに敵意が含まれている。

私もぼやぼやした頭をなんとかそちらへ向ける。

なんとなく見えるその人は確かに見覚えのある人で……

「キラの……」

キラのそばにいたあの男の子だ。

失礼極まりない態度だったあの……

「なにしてるんだよそこで」

「ああ?見りゃわかんだろ。転んでんだよ。つうか、おまえほんと何様なんだよ」

キラに向けるような表情とは打って変わったまるで汚物でも眺めるような視線をこちらに向ける少年といつも以上に険しい顔をするロイ。


それにしてもこの少年……やはりどこかで見た顔……


「ああっ!!」

そのことに気づいて思わず大声をだす私。

「なんだよ」

面倒そうにそういう少年。

けれどその事実に気づいた途端なんだか先ほどまでのふわふわした感じもなくなってきてひどく思考がクリアになってくる。

「君、イテイル帝国のキキの兄弟でしょ!!」

「はあ?」

そういったのは隣のロイで、いきなりなにいってんだという顔をこちらに向けている。

「……だったらなんだよ」

「やっぱり?!」

「はあ〜?あいつ兄弟なんざ居たのかよ。つうか、したらなんでお前はフラメニアに……」

「お前らには関係ない」

そういう少年の瞳はやはりキキにそっくり。

平気で人を殺めてしまいそうなその鬼気迫る雰囲気まで全く同じだ。

「すご〜……。めちゃにてる……」

段々とはっきりしてきたとはいえやはりまだどこかボヤボヤしているところはあってアホみたいにそういう私。

そんな私に対してロイくんは少年の態度にかなりご立腹のようで眉間に入るシワがどんどん深くなる。

「お前ほんとに無礼な奴だな。どんな教育されてきたんだよ」

「そういうあなたも大概じゃないですか」

「ああ?んだと」

「ちょちょちょ、ロイくんストップ!私たちはフラメニアの王様に会いにきたんだから。ね?」

お酒の酔いも冷めてきて慌ててそういう。

「…………」

今にも噛みつきそうな顔で少年を睨んでいたロイだけどやがて立ち上がり私の方に手を差し出す。サンキュ、短くそういうとその手をとって立ち上がる。

「じゃあね、少年。私らはフラメニアの王様に用があるからさ。」

なんてふざけた口調でいうと少年はことさらに険しく冷たい目をして、

「……案内するよう言われたので」

という。

「あ、そうなの?じゃあよっろしく〜」

ああ、これ完全にお酒抜けきってないな。

自分のことながらそんなことを思う。

そして

「ああ?じゃあ船着いた時点であそこにいやがれよ」

と相変わらず敵意むき出しのロイくん。


少年はそんな言葉を受けなおさらに冷たい顔をして

「ケケといいます。案内しますのでこちらへ」

という。

完全に業務的な対応に切り替えたらしいケケは平然と私たちを誘導する。

先ほどまで目くじらをたてていたのが嘘みたいだ。

「ほら」

そういわれて私とロイは慌ててケケなる少年についていった……。








「おおおおおおお!!」

「……あまり大声を出さないでください」

そういってからボソリと「アホっぽい」というケケ。

そんなケケの言葉を聞き逃さず言及しようとした私だけどすぐに

「今お前アホったろ。確かにこいつはアホだがお前にいわれる筋合いは毛頭ねえよ」

「……ちょっとロイくん。それフォローしてんの、けなしてんの」

「ほんとアホっぽいですね」

「「今度はハッキリ聞こえたわよ(ぞ)」」

「……わかったので早く、行ってください」

私とロイは目に見えてむすっとしながらもケケが促すように目の前の大きな扉の中へとはいっていく。



入った瞬間鼻腔をついてくるような強烈な花の香り。

そして……

「待ってたわよん」

この間の舞踏会で見かけたときから気になっていた、オカマなるものであろうその人。

部屋の真ん中最奥の玉座に座り足を組み笑みを浮かべている。

その周囲にはあふれんばかりのお花があって、においのもとはこれか、なんて1人納得する。


そそくさとそんな王様の方に歩を進めると途中でたちどまり、膝をつく。


「この度はよんでいただきありがとうございます」

そういって頭をさげながらチラリとドヤ顔でななめ後ろのロイくんを見やる。

どうよ。私がこんな礼儀を知ってると思わなかったでしょ?

そう思いながら見たもののそのまんまの、予想通りの驚いた様子のロイの顔があってなんだか腹がたってくる。


やっぱりそういう風に思ってたのね。

そう思ってるだろうとは思ってたけどいざ思われてると腹が立つという……。


「頭を上げよ」

そういわれて気を取り直しつつゆっくりと頭をあげる。


改めて見たその人はやはり唇には口紅が。

頬にはチークらしきものが塗ってあり

やはりオカマなのかと1人納得してしまう。




「もう少し、こちらに」

少し恥じらってるように見えるくねくねとした動きでそういわれ少し戸惑いを覚えつつも「はい……」と答え立ち上がる。



なぜか目を閉じて体をくねらせたまま何かを待つようにしているフラメニア王の前に戸惑いながらも歩いていく。


これ、正解?

なにこの空間。

よくわかんないけどロイに聞くわけにもいかないし

なんて思いながらちらりとロイを見やったら今にも吹き出しそうな顔で、戸惑いつつオカマであろう王様に近づく私をみていた。


くそう……

絶対あとから仕返ししてやる。

靴にピーナツ入れといてやる。



「あ……あのぅ……」

かなり近くに来ると王の化粧の下に隠れた青髭とか男の人特有の匂いと香水とが混じったような匂いで思わず顔を背ける私。

「きましたよ」

目を瞑っている王様にそういうと王様はまるでお姫様のようにゆっくりと優雅に瞳をあけていく。

な……なんなんだろ、ほんと


なんて思ってたらやっと王様の瞳が全開になり、戸惑いを映してるであろう私の瞳と視線が交差する。


「こんにちは〜……」

なんていってニヘラと笑った、その直後……。


「あなたじゃないわん!」

悲痛な叫びと共に思い切りおしのけられる。


「え?」

戸惑いから動けずにいる私の横をプンスカした様子で通り過ぎ、そして……


「会いたかったわん。ロイちゅわん」

王様はまっすぐロイの元に行きそして戸惑いを全面に押し出すロイの腕にためらうことなく抱きつく。




言わずもがな、今度は私がロイを笑う番だった。

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